Posts Tagged LS5/1A

Date: 10月 2nd, 2008
Cate: 瀬川冬樹

スピーカーとの出合い

明日からインターナショナルオーディオショウがはじまる。
晴海でオーディオフェアが開催されていたときの状況と比較すると、
試聴条件ははるかによくなっている。

けれども入りきれないほどの人が集まったブースでは、
なかなかいい音で鳴ってくれないし、ほかの理由で本領発揮できないスピーカーもあろう。

「オーディオ機器は自宅試聴しないとほんとうのところはわからない。
特にスピーカーはその傾向が強い」という人もいる。
なじみのオーディオ店(というよりも人だろう)があり、
関心のあるオーディオ機器を自宅で聴けるのなら、それに越したことはない。

あえて言おう。どんなにひどい音で鳴っていたとしても、
自分にとって運命のスピーカーというものと出合ったときは、すぐにわかるはずだ。

瀬川先生が以前言われていた。
「運命の女性(ひと)と出逢ったならば、そのひとがたとえ化粧していなくても、
多少疲れていて冴えない表情をしていたとしても、ピンとくるものがあるはずだ。
スピーカーもまったく同じで、
ひとめぼれするスピーカーなら、ひどい環境で鳴っていても惹かれるものがある」

瀬川先生の、この言葉は自戒も含まれているように思う。

1968年に山中敬三氏から、「お前さんの好きそうな音だよ」と声を掛けられて、
山中氏のリスニングルームでKEFのLS5/1Aを聴かれたが、
「この種の音にはどちらかといえば冷淡な彼の鳴らし方そのもの」だったし、
しかも山中氏のメインスピーカーアルテックA5の間に置かれ、
左右の距離がほとんどとれない状態での音出しも影響してか、
LS5/1Aの真価を聴きとれなかったことへの……。

とにかくショウの3日間、直感を大事にして音を聴いてほしい。

Date: 9月 17th, 2008
Cate: KEF, LNP2, LS5/1A, 瀬川冬樹

LS5/1Aにつながれていたのは(その2)

FMfanの巻頭のカラーページで紹介されていた
瀬川先生の世田谷のリスニングルームの写真に写っていたLS5/1Aの上には、
パイオニアのリボントゥイーターPT-R7が乗っていた。

LS5/1Aの開発時期は1958年。周波数特性は40〜13000Hz ±5dB。
2個搭載されているトゥイーター(セレッションのHF1300)は、位相干渉による音像の肥大を防ぐために、
3kHz以上では、1個のHF1300をロールオフさせている(トゥイーターのカットオフ周波数は1.75kHz)。
そのまま鳴らしたのでは高域のレスポンスがなだらかに低下してゆく。
そのため専用アンプには、高域補正用の回路が搭載されている。
専用アンプは、ラドフォード製のEL34のプッシュプル(LS5/1はリーク製のEL34プッシュプル)だが、
瀬川先生は、トランジスターアンプで鳴らすようになってから、真価を発揮してきた、と書かれている。

いくつかのアンプを試されたであろう。JBLのSE400Sも試されたであろう。
その結果、スチューダーのA68を最終的に選択されたと想像する。

もちろんA68には高域補整回路は搭載されていない。
おそらくLNP2Lのトーンコントロールで補正されていたのだろう。
さらにPT-R7を追加してワイドレンジ化を試されたのだろう。

これらがうまくいったのかどうかはわからない。

瀬川先生の世田谷のリスニングルームにいかれた方何人かに、
このことを訊ねても、PT-R7の存在に気づかれた人がいない。
だから、つねにLS5/1Aの上にPT-R7が乗っていたわけではなかったのかもしれない。

LNP2とA68のペアで鳴らされていたであろうLS5/1Aの音は、想像するしかない。

Date: 9月 17th, 2008
Cate: LNP2, LS5/1A, 瀬川冬樹

LS5/1Aにつながれていたのは(その1)

「なぜ、これだけなの?」と思ったのも、ほんとうのところである。 
1982年1月、ステレオサウンド試聴室隣の倉庫で、
瀬川先生の愛機のLS5/1A、LNP2L、A68を見た時に、
そう思い、なんともさびしい想いにとらわれた。 

それからしばらくして、4345がどこに行ったのかをきいた。
それでも、なぜ、これだけなのか、と当時はずっと思っていた。 

けれど、いま思うのは、この3機種こそ、
瀬川先生にとっての愛機だったのだということである。

Date: 9月 15th, 2008
Cate: KEF, LS5/1A, 現代スピーカー

現代スピーカー考(その5)

LS5/1Aは、スタンダードサンプルに対して規定の範囲内に特性がおさまるように、
1本ずつ測定・キャリブレートが要求される。 
クックにとって、均質の工業製品をつくる上で、このことは当り前のこととして受けとめていただろう。 

1961年、KEFはプラスチックフィルム、メリネックスを振動板に採用したドーム型トゥイーターT15を、
1962年にはウーファーのB139を発表している。
ワーフェデール時代にやれなかった、
理論に裏打ちされた新しい技術を積極的に採りいれたスピーカーの開発を特色として打ち出している。 

1968年、KEFにローリー・フィンチャムが技術スタッフとして加わる。
彼を中心としたチームは、ブラッドフォード大学と協力して、
スピーカーの新しい測定方法を開発し、1973年のAESで発表している。
インパルスレスポンスの解析法である。 

この測定方法の元になったのは、
D.E.L.ショーターが1946年にBBCが発行しているクオータリーに発表した
「スピーカーの過渡特性の測定とその視覚的提示方法」という論文である。
第二次世界大戦の終わった翌年の1月のことである。驚いてしまう。 
この論文が実用化されるにはコンピューターの進化・普及が必須で、27年かかっている。

Date: 9月 15th, 2008
Cate: KEF, LS5/1A, 現代スピーカー

現代スピーカー考(その4)

レイモンド・E・クックは、ワーフェデールに在籍していた1950年代、
外部スタッフとしてBBCモニターの開発に協力している。
当時のBBC技術研究所の主任研究員D・E・L・ショーターを中心としたチームで、
ショーターのキャリアは不明だが、イギリスにおいてスピーカー研究の第一人者であったことは事実で、
ワーフェデールのブリッグスも,自著「Loudspeakers」に、
ショーターをしばしば訪ねて、指導を仰いだことがある、と記している。 

ショーターの元での、スピーカーの基本性能を解析、理論的に設計していく開発スタイルと、
当時のスピーカーメーカーの多くが勘と経験に頼った、いわゆる職人的な設計・開発スタイルを、
同時期に経験しているクック。 

クックの写真を見ると、学者肌の人のように思う。
彼の気質(といっても写真からの勝手な推測だが)からいっても、
後者のスタイルはがまんならなかっただろうし、職人的開発スタイルのため、
新しい理論(アコースティックサスペンション方式)による小型スピーカーに公開試聴で負けたことは、
その場にいたかどうかは不明だが、ブリッグス以上に屈辱的だったに違いないと思っている。 

ショーターやクックのチームが開発したスピーカーは、LS5/1であり、
改良モデルのLS5/1Aの製造権を手に入れたのは、クックが創立したKEFであり、BBCへの納入も独占している。

Date: 9月 8th, 2008
Cate: LS5/1A, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その7)

アルテックの604シリーズは、38cmコーン型ウーファーとホーン型トゥイーターの同軸型で、
クロスオーバー周波数は、モデルによって多少異るが1.5kHz前後。 
中高域はマルチセルラホーン採用なので、水平方向の指向性は十分だろう。 
問題はクロスオーバー周波数から1オクターブ半ぐらい下までの帯域の指向性だろう。 
実測データを見たことがないのではっきりしたことは言えないが、
604の、このへんの帯域の指向性はあまり芳しくないはず。 

BBCモニターのLS5/1Aは、
38cmウーファーとソフトドームのトゥイーター(2個使用)の2ウェイ構成で、クロスオーバーは1.75kHz。
当時すでにBBCの研究所では指向性の問題に気がついており、
ウーファーをバッフルの裏から固定し、バッフルの開口部は円にはせずに、
横幅18cm、縦30cmくらいの長方形とすることで、水平方向の指向性を改善している。 
ユニークなのは、30cm口径よりも38cm口径のほうが、高域特性に優れている理由で採用されていること。 

1980年ごろ登場したチャートウェルのPM450E(LS5/8)は30cm口径ウーファーだが、
バッフルの裏から固定、開口部はやはり長方形となっている。 
LS5/8のネットワーク版のロジャースPM510も、初期のモデルでは開口部は長方形だ。

アルテックがスタジオモニターとして役割を終えた理由として、いくつか言われているが、
指向性の問題もあったのではないかと思う。 
同じことはタンノイの同軸型ユニットについても言える。