ケーブルはいつごろから、なぜ太くなっていったのか(その9)
ベルデンの、オレンジと黒の撚り線タイプのスピーカーケーブルの太さは、
細いわけでもないし太いというわけでもなく、
JBLのユニット、スピーカーシステムに長らく採用されてきたバネ式のスピーカー端子に、そのまま挿入できる。
いまでこそJBLもスピーカー端子を、より太いケーブルを確実に接続できるタイプに変更されているけれど、
1980年代まではコンシュマー用、プロフェッショナル用ともに、バネ式のスピーカー端子だった。
この端子に不満をもつ方は少なくないと思う。
実際、ときどききかれる、「なぜ、こんなショボイ端子なのか」と。
でも、考えてみてほしい。
ランシングが、このバネ式の端子を採用したのはD130からである。
D130の出力音圧レベルは高い。1Wの入力で100dB以上の音圧がとれる。
しかも、この時代のスピーカーユニットだからインピーダンスは16Ωである。
1Wで100dBの音圧ということは、実際の過程における聴取レベルでは、
アンプの出力はもっともっと低くなる。
オームの法則では電力は電流の二乗と負荷インピーダンスの積である。
つまり8Ωよりも16Ωのほうが電流は少なくてすむ。
D130を過程で常識的な音量で鳴らす分には、
それにD130が登場したころの同時代のパワーアンプの出力もそれほど大きいわけではない。
そうするとオームの法則から求められるD130が必要とする電流は、意外にも低い値である。
その電流を充分に流せるケーブルの太さと、その太さのケーブルをそのまま接続できる端子があればいい、
こういう合理的なところからみれば、あの貧弱にみえるバネ式の端子も、
それ以上は必要としない、ということの裏返しでもある、と受け取ることもできよう。