バックハウス「最後の演奏会」(その4)
骨格のしっかりした音、
いまでは、こういう表現は、見かけなくなっているように感じている。
正直、最近のオーディオ雑誌を丹念に読んでいないから、感じている、としか書けないのだが、
以前は、といっても20年以上前は、骨格のしっかりした音という表現は、そう珍しくはなかった。
音を表現する言葉の使われ方も、また時代によって変化していく。
だから次第に使われなくなっていく表現もあれば、徐々に使われはじめてきて、
いまや一般的に使われている表現だってある。
音を表現する言葉はそうやって増えていっているはずなのに、
使われている言葉の数は、いまも昔もそう変らないのかもしれない。
新しくつかわれる表現・言葉がある一方で、使われなくなっていく表現・言葉があるのだから。
骨格のしっかりした音も、そうやって使われなくなっていく(いった)表現なのかもしれない。
でも、なぜそうなっていたのだろうか。
私の、それもなんとなくの印象でしかないのだが、
クラシックの世界でヴィルトゥオーゾと呼ばれる演奏家が逝去していくのにつれて、
骨格のしっかりした音も、また活字になることが減っていっているような気もする。
このことはスピーカーが提示する音の世界ともリンクしているのではないだろうか。
骨格のしっかりした音のスピーカーが、こちらもまた減ってきているような気がする。
ハイエンド志向(このハイエンドというのが、都合のいい言葉のように思える)のマニアの間で、
高い評価を受けているスピーカーシステムが、
何かを得たかわりに稀薄になっているひとつが、骨格のしっかりした音のようにも思う。