ハイ・フィデリティ再考(続×十・原音→げんおん→減音)
1980年にプロトタイプが発表され、翌年発売になったスレッショルドのパワーアンプSTASIS1の規模は、
いまでも強烈な印象として私の中に残っている。
デビュー作の800Aを聴く機会にあったことから、
それに五味先生がオートグラフと相性のいいトランジスターアンプと書かれていたこともあって、
800Aは憧れのパワーアンプであった。
800Aは、なのに早々と製造中止になり中古として店頭に並んでいるのをまだ見たことがない。
800Aのあとに出た400は、800Aに憧れた者にとっては物足りなさを、
400のパワーアップ版であり、800Aの後継機ともいえる4000には、400とは違う意味での物足りなさを感じていた。
800Aの真の後継機はいつ出るんだろうか、と期待していたところに登場したのがSTASIS1だった。
このSTASIS1は買えるとか買えないとか、そういうこと抜きにして、
800Aを超えるアンプがスレッショルドからやっと登場した、と800Aに憧れ続けてきた者に思わせてくれた。
フロントパネルのデザインも、良かった。
私にとってスレッショルドといえば、800AとSTASIS1だけが、すぐに頭に浮ぶ。
800Aはステレオ仕様だったが、STASIS1はモノーラル仕様。
パワートランジスターの数は800Aが24石、STASIS1は72石と3倍の規模になっている。
出力段はPNP型トランジスターとPNP型トランジスターのコンプリメンタリーとなっているから、
出力トランジスターの24石ならばトランジスターの並列数は12となるわけだが、
800Aは通常のコンプリメンタリーではないため並列数は4である。
STASIS1も通常のコンプリメンタリーとは違い、型番にもなっているステイシス回路のため並列数は12である。
とはいえパワートランジスターの数の多さは、いかにもアメリカ的ともいえる。
個人的にはスレッショルドのパワーアンプの頂点はSTASIS1だったと思っている。
STASIS1以降のスレッショルドのアンプへの興味は、私の中では急速に薄れていった。
もうネルソン・パスは、800AやSTASIS1のようなわくわくさせるような、
才気煥発なところを感じさせるアンプをつくり出さなくなってしまったのか……、そんなふうに思いはじめた頃に、
スレッショルドからではなく新しい会社パスラボラトリーからALEPH 0を出した。
さらに今年ファースト・ワットからSIT1とSIT2を出している。