2011年ショウ雑感(その7)
「五味オーディオ教室」には、あまりオーディオ機器の型番は出てこない。
だから、「五味オーディオ教室」に登場してくるオーディオ機器への関心は高くなっていた。
パワーアンプに関しては、当然だけど、マッキントッシュのMC275のことが出てくる。
MC275の他に印象に強く残ったのが、2機種ある。
ひとつは型番が表記してないパワーアンプ。
「メインアンプの性能を向上させるだけでは、家庭で聴く音はかならずしもよくならない」
と題された章で冒頭に、つぎのようにある。
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世のオーディオ・マニアは、メインアンプの性能を向上させれば、音がよくなることを知悉している。事実、一九六二年ごろテレフンケンで出した、ノイマンのカッティング・マシンに使用するためのF2a11、EF804s、EZ12という、シロウトの私にはわけのわからぬ真空管を使ったアンプの音を、たまたま奈良のN氏宅で聴いて驚嘆した。
ふつう、ぼくらの知る限り、家庭で聴くメインアンプは(真空管)で最良の音質の得られるのは、マッキントッシュのMC二七五である。ずいぶんいろいろなアンプを私は聴き比べてみたが、従来のスピーカー・エンクロージァを鳴らす限りにおいては、どんな球やトランジスター・アンプよりも、このマッキントッシュMC二七五に、まろやかで深みのある音色、ズバ抜けた低域の自然な豊かさ、ダイナミック・レンジ、高音の繊細さを味わい得た。私だけがそう思うのではなくて、これはオーディオ界の通説だった。
ところがである。N氏宅にも、マッキントッシュMC二七五はあるが、メインを右のわけのわからぬ球のアンプに替えると(プリはマランツ7)、ちょうどラックス級のアンプをマッキントッシュに替えたほどの、すばらしい音色を得られた。たとえば、ジム・ランシングのSG五二〇のもつ音の解像力を、従来のマッキントッシュにプラスしたものと言えばいいだろうか。
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当時は、このパワーアンプがいったいなんなのかを知りたかった。
ノイマンのV69だとわかったのは、もうすこし先のことだったが、
五味先生のこの文章を読んだ時、型番もわからぬパワーアンプの姿を妄想していたものだ。
五味先生の文章はまだつづく。