使いこなしのこと(その35)
使いこなしは、オーディオのシステムを構成するすべてについて、ある。
けれど、やはり使いこなしの醍醐味、難しさはスピーカーシステムにある。
スピーカーはアンプからの電気信号を振動板の動きに変換して空気の疎密波をつくり出す。
はるか昔、はるか場所でマイクロフォンが捉えた音が、ふたたび音に戻るのはスピーカーがあるからだ。
このスピーカーとは、いったい何者(何物、何モノ)なのか?
素気ない言い方をすれば、スピーカーは変換器である。
変換器である以上、より正しい変換器であるべきだ、という考えがある一方で、
オーディオの世界では、スピーカーは楽器だ、という捉え方もつねに存在してきた。
有名なところでは、ソナス・ファベールの創始者のフランコ・セルブリンは、
伝え聞くところによると「スピーカーは楽器だ」と公言している、とのこと。
ただ、私はこの「スピーカーは楽器だ」というセルブリンの言葉は、
ほんとうに正確に伝えられているのだろうか、と思っている。
「スピーカーは楽器だ」の前後には、なにかがあったように思えるからだ。
セルブリンは、彼がソナス・ファベールでつくってきたスピーカーシステムには、
アマティ、ガルネリ、ストラディヴァリと、楽器の名前を使っている。
だから、「スピーカーは楽器だ」が、その方向で受けとられているのではないだろうか。
けれどセルブリンのスピーカー開発の実際の手法をきくと、
「スピーカーは楽器だ」はそう単純なことではないように思えてくる。