使いこなしのこと(誰かに調整してもらったら……補足)
前回書いたことをお読みになった方の中には、
「お前は、そうやって一度ばらしたオーディオ機器をふたたびセッティングして、
同じ音が出せたと思い込んでいるだけだろう」、
そんなふうに思われる方がいても不思議ではない。
私は、そうやって同じ音が出せた、とは書いていない。
それに最初から、そううまくいくわけではない。
これは以前にも書いていることだが、井上先生の試聴に最初に立ち合えたのは、
ステレオサウンド 64号の新製品の試聴だった。先輩が準備し結線した音を聴かれて、
まずその音の調整から始められた。
たっぷり時間をかけて納得のいく音が出たところから、新製品の試聴が始まったわけだ。
これは毎回同じことが続いた。
そして私が試聴室の準備をするようになった。
試聴のときに井上先生が指示されたことを思い出しながら、機器をセッティングしていく。
それでも簡単に再現できるものではなかった。
やはり試聴のはじまる前にダメだしされて、調整しなおす。
「次回こそ……」と思いながら、井上先生が何を聴かれてどう判断されているのかを、
私なりに考えていっていた。
そんなことをくり返すうちに、井上先生による、試聴が始まる前の調整の時間が短くなってきた。
そういうとき井上先生は何も言われない。
だから、その時間が短くなってきて、最終的には試聴室にこられて、
そのまま試聴を始められるようにまでもっていけるようになっていた。
私は、こういうふうにして使いこなしを身につけてきた。