ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その74)
オーディオに興味をもち、スピーカーの原理を知ったばかりのころ、
いまから四十数年前のことになるが、
正直なところ、振動板のピストニックモーション(前後運動)だけで、
音楽が再現できるとは、すぐには信じられなかった、というか理解もできていなかった。
たとえば1kHzのサインウェーヴであれば、
確かにピストニックモーションでも再生(再現)できるのはすぐに理解できる。
サインウェーヴが二波になったら、どうなるのか。
たとえば1kHzと100Hzである。
再生するスピーカーシステムが2ウェイで、
100Hzはウーファーが受け持ち、1kHzはトゥイーターが受け持つというのならば、
これも理解できる。
けれどフルレンジだったら、どうなるのか。
もちろん理屈としてはわかっていても、直観的に理解できていたわけではなかった。
ましてスピーカーから聴く(鳴らす)のは、音楽である。
一つの楽器のこともあれば、複数の楽器の音が、そこ(スピーカー)から鳴ってくる。
それをスピーカーは、基本的には振動板の前後運動だけで再現しようとしている。
しかもスピーカーの振動板は紙や絹であったり、アルミニュウムやチタンだったりする。
楽器に使われている素材とはそうとうに違う素材が使われていて、
しかも一つのユニットから、複数の楽器の音が出てくる。
なのに、それらの楽器の音が聴きわけられる。
理屈としてはわかっていても、考えれば考えるほど不思議な感じは、
いまも残っている。
と同時に考えるのは、アクースティックの蓄音器のことである。
ここにはピストニックモーションは、一つもないからだ。