ブルーノ・ワルターの「田園」(その1)
福永陽一郎氏は、ブルーノ・ワルターについて、
ベートーヴェンの『田園」交響曲を指揮するために存在した人──、
そういった書き方をされていた。
音楽之友社から出ていた「私のレコード棚から(世界の指揮者たち)」、
レコード芸術の名曲名盤、そのどちらでも書かれていた、と記憶している。
ワルター好きな人は、多い。
知人でもワルターの演奏を熱心に聴いている人が何人かいる。
さいわいなこと、というべきなのか、
ワルター好きの知人は、福永陽一郎氏の本を読んでいないようだ。
だからといって、こんなことが書かれているよ、と教えたこともない。
知人たちが福永陽一郎氏がワルターについて書いていることを知ったら、
なんというのだろうか。
福永陽一郎氏のワルターの評価は、高くないと記憶している。
いまどちらも本も手元にないので確かめられないけれど、
それでもワルターの「田園」だけは、絶賛といってもいいほどである。
ワルターはウィーン・フィルハーモニーとの録音もある。
1937年の録音である。
こちらも高く評価されているが、
1958年録音のコロムビア交響楽団との演奏は、さらに高い。
ワルターと「田園」交響曲について、
楽想と同心同体である──、
こんなふうに書かれていた、と記憶している。
福永陽一郎氏が書かれたのを読んだのは、20代のころだった。
もちろんワルター指揮の「田園」を買って聴いた。
名演だ、と感じたものの、
正直、福永陽一郎氏がそこまで高く評価される演奏だろうか──、とも思っていた。
それに、20代のころの私は、ベートーヴェンの交響曲に夢中だったけれど、
「田園」はあまり、というか、ほとんど聴かなかった。
その後も、そう変らなかった。
「田園」をすすんで聴くことは、そんなになかった。
ここ十年は、まったく聴いていなかった。
3月、何人かの指揮者の「田園」を、TIDALで聴いていた。
今日、ワルターの「田園」を聴いてみた。
MQA Studio(192kHz)で聴いた。
やっと福永陽一郎氏がいわれていたことがわかった。
ワルターという指揮者と「田園」交響曲の楽想は、
まさに同心同体という印象を受けた。