WEST SIDE STORY(その4)
以前、別項で引用したことを、ここでもう一度引用しておこう。
河出書房新社の「フルトヴェングラー 最大最高の指揮者」に、
作曲家・伊東乾氏による「作曲家フルトヴェングラー」についての文章がある。
バーンスタインの話から始まる。
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生前のレナード・バーンスタイン(1918-1990)と初めて会ったときの事だ。たまたま学生として参加していた彼の音楽祭で、当時僕がスタッフをしていた武満徹監修の雑誌の企画で「作曲家としてのバーンスタイン」に話を聴くことになった。
ところが、話が始まって20分位だったか、マエストロ・レニーは突然、何か感極まったような表情になってしまった。
思いつめたような声で、半ば涙すら浮かべながら
「コープランドには第三交響曲がある。アイヴズには第四交響曲がある。でも自分には何もない」
と訴え始めたのだ。大変に驚いた。
反射的に彼の『ウエストサイド・ストーリー』(『シンフォニック・ダンス』)の名を挙げてみたのだが
「ああ、あんなものは……」
と更に意気消沈してしまった。確かに「シンフォニック・ダンス」はよく知られた作品だが、実はオーケストレーションも他の人間が担当しており、ミュージカル映画の付帯音楽に過ぎないのは否めない。
「誰も僕を、作曲家としてなんか認めていない……」
「いいえ、あなたが一九八五年、原爆40年平和祈念コンサートで演奏された第三交響曲『カディッシュ』は素晴らしかっただから今、僕たちはここに来て、作曲家としてのあなたにお話を伺っているのです。
自分の信じる通りを誠実に話して、どうにか気持ちを立て直して貰った。
*
これを引用した別項でも書いたことだが、
グルダは、バーンスタインはジャズがわかっていないと批判していた。
バーンスタインの「ウエスト・サイド・ストーリー」を名曲という人は少なくない。
そうだろうな、と思いつつも、私には退屈だったりする。
耳に残る旋律があるものの、全体を通して聴くことは、もうしない。
そんな私でもバーンスタインが「ウエスト・サイド・ストーリー」を録音したことには、
へんないいかたになるが感謝している。
ホセ・カレーラスとキリ・テ・カナワを起用した「ウエスト・サイド・ストーリー」は、
CDだけでなくLD(レーザーディスク)も発売になった。
一度見ている。
ホセ・カレーラスが、クラシック歌手特有の歌い方がどうしても抜け切らず、
録音現場から立ち去ってしまうシーンがあった。
このことがあったから、
「ウエスト・サイド・ストーリー」での録音があったから、
その十数年後の“AROUND THE WORLD”がある、と感じるからだ。
REPLY))
伊東乾という方、貴兄の引用のお陰でこんな後輩がいたのだと初めて知りました。それにこの引用のバーンスタインには驚きました。小生音楽は専門外ですが、彼のノートンレクチャーは音楽を聴く手引きの一つでした。偶々グルダの若い頃の前奏曲(ショパンですが)を聞いたところでもあり、そっちもそんなことを言っていたのか驚きました。
伊東先生は最近「機械学習を用いた東アジア数理調和思想の実証的研究と共生倫理の検討」で挑戦的萌芽研究補助金を代表で獲得していらして、活躍していらっしゃるのも確認できました。時々拝見していて勉強になります。深謝!