Date: 10月 30th, 2020
Cate: Pablo Casals, ディスク/ブック
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カザルスのモーツァルト(その3)

カザルス指揮によるモーツァルトの後期交響曲六曲で、
20代のころ、いちばん聴いていたのは、ト短調(40番)だった。

ハ長調(41番)は、なぜだか、まったくといいほど聴かなかった。
カザルスの演奏が──、というよりも、
「ジュピター」のニックネームで呼ばれている、この交響曲を、
当時の私は、意識的に遠ざけていた。

いま思うと、なぜなんだろう? と自分でもなぞでしかないのだが、
ほかの指揮者でも「ジュピター」を聴くことは、ほとんどなかった。

40近くなったころに、なにかのきっかけで「ジュピター」を聴いた。
聴いていて、20代のころ、聴く機会はけっこうあったにもかかわらず避けてきた、
その理由をおもいだそうとしたけれど、何もなかった。

それでも、もっと早く聴いておけばよかった──、と思ったわけではない。
まったく聴いていなかったわけではないし、
カザルスの「ジュピター」も、数えるほどでしかないが、聴いていた。

とはいえ、記憶のなかで鳴り響くカザルスのモーツァルトは、ト短調ばかりだった。
カザルスの「ジュピター」は……、と思い出そうとしても、朧げだった。

カザルスの「ジュピター」は、熱かった。
こうなると、カザルスの「ジュピター」ばかり聴く日が、しばらく続いた。

不思議なもので、それでも、もっと早く聴いていれば、
そのよさがわかっていれば、といったことはおもわなかった。

いま聴いて、素晴らしいと思える──、
そのことに、音楽を聴く喜びを感じられれば、それでいいのだと。

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