Date: 9月 22nd, 2020
Cate: ベートーヴェン, 正しいもの
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正しいもの(その22)

ステレオサウンド 94号(1990年春)の特集、
CDプレーヤーの試聴で、井上先生はEMTの921の試聴記の最後に、こう書かれている。
《ブルックナーが見通しよく整然と聴こえたら、それが優れたオーディオ機器なのだろうか》と。

私が10代のころ読んでいたステレオサウンドでは、
井上先生がどんな音楽を特に好まれて聴かれているのかがわからなかった。

ステレオサウンドの試聴室で、井上先生の隣で聴くことができてから、
いろんな音楽を聴かれていることがわかった。

実際に会えばすぐにわかることなのだが、井上先生は照れ屋である。
だからだろう、好きな音楽のことをことさらに語られることはされない。

それでも試聴中、ときどきぽろっといわれることがある。
そうとうに音楽を聴いているからこそのひとことである。

《ブルックナーが見通しよく整然と聴こえたら、それが優れたオーディオ機器なのだろうか》、
これに関しても、ほほ同じことを試聴のあいまにきいている。

94号の試聴では、カラヤン/ウィーンフィルハーモニーのブルックナーの八番が、
アバドのロッシーニの「アルジェのイタリア女」、
ボザール・トリオのモーツァルトのピアノ三重奏曲第一番、
バーバラ・ディナーリーンの「ストレート・アヘッド!」といっしょに、
試聴ディスクとして使われている。

これまでも書いているように、私はブルックナーはあまり聴かない。
最近の指揮者のブルックナーは、まったく聴いていない。

もしかすると、最近のブルックナーは《見通しよく整然と聴こえ》るのかもしれない。
そうだとして、そういうブルックナーしか知らない聴き手は、
《ブルックナーが見通しよく整然と聴こえたら、それが優れたオーディオ機器なのだろうか》
という疑問はまったくもたないであろう。

でも、ここではカラヤン/ウィーンフィルハーモニー、
それもカラヤン晩年のブルックナーであり、
1931年生れの井上先生が聴いてのブルックナーである。

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