リモート試聴の可能性(その5)
ステレオサウンド 59号の特集ベストバイの巻頭鼎談で、
瀬川先生がこんなことを発言されている。
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瀬川 そうすると三人のうちでチューナーにあたたかいのはぼくだけだね。ときどき聴きたい番組があって録音してみると、チューナーのグレードの差が露骨に出る。いまは確かにチューナーはどんどんよくなっていますから、昔ほど高いお金を出さなくてもいいチューナーは出てきたけれども、あまり安いチューナーというのは、録音してみると、オャッということになる。つまり、電波としてその場、その場で聴いているときというのは、クォリティの差がよくわからないんですね。
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FM放送をカセットテープに録音したことは、
カセットテープに、どちらかといえばあまり関心のなかった私でも、もちろんある。
それでもチューナーの違いを、カセットテープに録音してみたことはない。
(その3)でふれたコメントにあった、
自分のシステムの音を録音すると、癖が二倍に強調される、ということ。
瀬川先生のチューナーの違いが、録音することで露骨に出る、ということも、
同じことなのだろう、とも考えられる。
録音することによって、チューナーのグレードの差が縮まって聴こえる、
同じように聴こえるのであれば、
自分のシステムの音を録音して、音の癖が半分くらいになってしまうのであれば、
リモート試聴の可能性はしぼんでいってしまう。
けれど、現実にはそうではないことが起っている。
リモート試聴ということをいえば、
たとえそうであっても、その場で聴こえるこまかな音の違いまでは聴き分けられないだろう、
そんなことで反論する人が、きっといる。
でもきちんとした試聴室、もしくは自分のリスニングルームで、じっくりと聴ける環境ならば、
確かにそうである、と返事をするが、
オーディオショウのブースで聴ける音で、ほんとうに微妙な音の違いまで、
正しく聴き分けている、と自信をもっていえる人は、
音の怖さというものを、理解していないどころか、
体験すらしていない人といっていいだろう。
オーディオショウで聴ける音は、あくまでも参考程度でしかない。
だから、リモート試聴ということを、これから先考えていかなければならないし、
そこで重要となるのは、リファレンスをどうするかということだ。