最後のオーディオマニア(その3)
CDプレーヤーが登場したとき、まず思ったことがいくつある。
その一つが、デジタル機器に関してはブラックボックスとして捉えよう、だった。
つまりいじること、手を加えることは、デジタルオーディオ機器にしないでおこう、である。
そう決めたものの、ステレオサウンドで働いていると、
CDプレーヤーは、こんなことでこんなに音が変化するのか──、
そういうことを数えきれないほど体験してきた。
初期のCDプレーヤーのなかには、リアパネルにヒートシンクが出ていたモデルがあった。
マランツやソニーの製品がそうだった。
さほど大きくないヒートシンクなのだが、ここの鳴きをほんのちょっと抑えるだけで、
音はよい方向へと変化していく。
それから国産CDプレーヤーに多かったのが、フロントパネルのヘッドフォン端子への配線が、
プリント基板のパターンではなく、ワイヤーでの配線だった。
ほとんどの製品が両端にコネクターがついているので、簡単に取り外しができる。
井上先生の指摘で、外した音を聴いて驚いた。
三本(左右チャンネル一本ずつとアース)一組の10数cmほどのケーブルを抜くだけで、
音場の見通しがはっきりとよくなる。
その他にも長島先生の指摘でやったこともある。
どれもハンダゴテを使わずに、すぐに実行できることで、
音の変化は決して小さくない。
こんなことが積み重なってきて、
CDプレーヤーを含めてデジタルオーディオ機器をブラッグボックスとして、
手を加えるのはしない、という自分で決めたことをあっさりと捨ててしまった。