世代とオーディオ(OTOTEN 2019・その8)
菅野先生が「音の素描」で、ポルシェについて書かれている。
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私の考えている自動車の完成度ということから見た結論が、一方ではポルシェ、一方ではメルセデスベンツということで、この二つの車には畏敬の念を禁じ得ない。ポルシェとメルセデスベンツを持つということは、私が社会人になりたてのころに描いた他愛のない夢であり、当時の目標は一生のうちにポルシェとメルセデスを買うということであった。そのように決めたきっかけは、私の知っているフランス帰りの音楽関係の人間がポルシェに乗って私の前に現われたことである。
それ以前にオーディオのことで知り合っていた外国の友人にフェルディナント・ポルシェ博士の発明家・エンジニア、そして天才的な自動車の設計者としての素晴らしい話を聞いていた。全部は読みきれなかったが、ドクター・ポルシェのバイオグラフィーを原書で読んだこともあり、私の頭の中には自動車の神様としてのポルシェ博士の名前が大きくふくらんでいたわけだ。ところが実際にはポルシェという車を写真以外では見たことがなかった。フォルクスワーゲンはポルシェがつくったものだということと、ルノーの2CVはポルシェの息がかかっているということも聞いていたが、本物のポルシェはそれまで見たことがなかった。だから初めて知人の乗るポルシェ356を目の前に見た時には、これが憧れのポルシェ博士が、自分の名前をつけた車かということで、大きな感動を受けたのを今もって忘れない。
その当時はポルシェなどは自分の手の届く存在だとは思ってもみなかったし、いくらするかということを調べようともしなかった。おそらく途方もない値段という感覚しかなかった。しかしその時に「いまに見ていろ俺だって」と生意気にも決心をして、一生のうちに絶対に自分で買って運転するぞと意気込んだものである。
ポルシェ博士のヒストリーの中でベンツをより詳しく知った。一九三〇年代にポルシェ博士がベンツの技師長をしていて、ベンツのSSKという素晴らしい名車を設計したことや、ダイムラー・ベンツという会社はゴットフリート・ダイムラーという人とカール・ベンツという二人の合併でつくった会社であり、それぞれが自動車の発明家として本当のパイオニアであって、このダイムラー・ベンツ社は現存する世界最古の歴史をもったメーカーであることもそのときに知ることができたのである。
ポルシェというのは純然たるスポーツ・カーで、現在のベンツはスポーツ・カーも出しているがより実用的なセダンがむしろ主力車種だ。おそらく乗用車では、メルセデスベンツは最高のレベルにあるものだということを想像したし、スポーツ・カーとしてはポルシェが大変に素晴らしいものであると思い、当時の若僧はこの二つを人生の目標としたのである。豊臣秀吉のように百姓の子供に生まれながら天下をとったことから考えるとき、きわめてちっぽけで幼稚な夢だが私にしてみればそのころとしてはとても実現の可能性すら考えられないことであった。
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憧れがあるからこそ、
「いまに見ていろ俺だって」という気持か生れてくる。
その気持を萎えさせるようなことだけは、誰もやってはいけない。
私は、オーディオ店に過大な期待はしていない。
いい店員がいるのはきいて知っている。
でも、それ以上はどうしようもない店員が多いことも、またきいて知っている。
運良く、いい店員が近くいることはあるだろう。
でも、そうでない場合もある。