ホーン今昔物語(It’s JBL・その3)
私が初めて買ったステレオサウンドは、定価1,600円だった。
中学生にとって三ヵ月に一度の1,600円は、決して安いとはいえなかった。
だから隅々まで読んでいた。
すべての記事に同じような関心を持てていたわけではなかったけれど、
それでも三ヵ月というスパン、1,600円という金額を多くない小遣いからの捻出、
そんなことから関心度の低い記事も、しっかり読んでいた。
関心度の高い記事は何度もくり返し読む。
そうでない記事は一度だけだったりしたが、一度はすべての記事を読む。
なにしろ周りにオーディオマニアはいなかったし、オーディオ専門店もなかった。
オーディオ専門店まではバスで片道約一時間、バス料金も中学生だと大人料金だから、
これが中学生にとっては、なかなか負担の大きな金額だった。
とにかくオーディオの世界を知るには、本(雑誌)しかなかった。
インターネットもなかった。
でも、これが結果としては良かったのだろう。
いまのように、検索して興味のあることばかり読むのとは違っていたからだ。
小野寺弘滋氏の「It’s JBL」が、もしステレオサウンドに掲載されていたとしよう。
四十数年前だったら、ステレオサウンドを手にした多くの人が、
ホーン型にあまり関心のない人手も、一度は目を通しただろう。
でも、いまはどうだろうか。
インターネットもあって、ある意味、情報だけは氾濫していて、
関心のあることだけを拾っていても退屈しない──、
そんなことに慣れてしまっていては、ステレオサウンドに載っていたからといって、
ホーン型に関心のない人は、「It’s JBL」を読むかといえば、なんともいえない。
それでも読んでもらわないことには、何も伝わらない。