avant-garde(その4)
コンクリートホーンをハンマーで敲き毀す。
同じことができるだろうか──、というのは、以前書いているように、
ステレオサウンド 55号を読んで以来ずっと私の中にある自問だ。
コンクリートホーンは家ごと、である。
改築なり新築でこそ可能になる。
それだけに1970年代では、究極の再生システムとしても紹介されていた。
オーディオ雑誌には、コンクリートホーンを実現したオーディオマニアの方たちが、
よく登場していた。
既製品の、どんなに高価なスピーカーシステムにも求められない何かが、
コンクリートホーンにある、といえよう。
「五味オーディオ教室」に出逢わず、
五味先生の文章とも無縁でオーディオに取り組んでいたら、
コンクリートホーンを私も目指したかもしれない。
実家暮らしを続けていたら、実現できなかったわけでもない。
仮にコンクリートホーンで、音楽を聴いていた、としよう。
オルガンは、確かによく鳴ってくれるであろう。
けれど、五味先生が指摘されているように、正体不明の音が鳴ってきたとも思う。
いまではデジタル信号処理で、コンクリートホーンのもつ欠点もずいぶんカバーできるはず。
それでも低音までカバーするためのホーンの長さは、あまりにも音源が遠すぎはしないだろうか。
そういうところまでデジタル信号処理が補えるとは、いまのところ思えない。
それでもコンクリートホーンを実現していたら、
もろもろのコンクリートホーンゆえの欠点に気づきながらも、
自分を騙して聴きつづけていくのか──。
LS3/5Aのようなスピーカーを買って、それで聴く時間が長くなっていく──。
そんなふうになるような気がする。
それでもコンクリートホーンをハンマーで敲き毀すか。
私は、ハンマーで敲き毀すことこそ正直なのだと考える。