とんかつと昭和とオーディオ(その10)
古川緑波の「下司味礼讃」に天丼のことが出てくる。
読んでいると、おいしいとうまいの違いについて考えていることに気づく。
おいしいは美味しい、と書く。
うまいは、旨いとも美味いとも書くが、ここでのうまいは旨いのほうである。
どちらも満足して食べているのは同じだ。
それでも天丼とかカツ丼、カツカレーなどには、
うまいのほうがしっくりくることが多いように感じている。
天丼ではなく天ぷらをコースで味わうのであれば、おいしいのほうだろう。
どっちでもいいじゃないか、
そんなこまかなことどうでもいいじゃないか、と誰かにいわれそうだが、
例えば酢豚。
まだ熊本にいたころ、酢豚をどこかで食べるとしたら、そこにはパインが入っていた。
あのころ食べた酢豚でパインの入ってなかったのは記憶がない。
酢豚にパイン。
パインが入っている理由は肉を柔らかくするため、とかいわれていた。
東京に来てからの酢豚では、パインが入っていることはほとんどなかった。
いわゆる町中華と呼ばれている店での酢豚ではなく、
中華料理店とよばれる本格的な店での酢豚には、パインは入ってなかった。
パインの入っている酢豚なんて……、という人はけっこういる。
そういいたくなるのもわからなくはないが、
パインの入っている酢豚も、私は好きだし、友人のAさんとも、
パインの入った酢豚の話をして盛り上ったりしている。
さしずめパインの入った酢豚は、下司味なんだろう。
一般的にいって、パインの入っていない酢豚のほうが高級なんだろう。
酢豚もパインが入らなくなっただけでなく、
豚の銘柄、酢も黒酢使用を謳ってたりする。
そういう酢豚もAさんも私も好きである。
おいしい酢豚も好きだし、うまい酢豚も好きである。
どちらかを選ぶ必要はあるのだろうか。