とんかつと昭和とオーディオ(その2)
伊藤先生の「真贋物語(その一)」は、
「くらえども」に続いて、
「(一)名物にうまいものなし」、「(二)目黒のさんま」、「(三)さしみ」、
「(四)ビフテキ」、「(五)とんかつ」とつづく。
それぞれについて書いていきたいところだが、
そうすればいつまでたってもとんかつのことにたどりつかなくなるから、
「(五)とんかつ」について書こう。
私は14歳のときに、「真贋物語(その一)を読んだ。
二冊目のステレオサウンドだから、伊藤喜多男という人がどういう人なのか、
まったく予備知識はなかった。
「真贋物語(その一)」を読んでいくと、
どうも明治生れの人だということはわかってくる。
そういう人が、ステレオサウンドというオーディオ雑誌に、
食べもののことを書かれている。
しかも真贋物語である。
なにか独特の説得力を感じていた。
伊藤先生が書かれているのは、それぞれの料理のことであり、
外食で味わうそれである。
14歳といえば親と暮している人が大半だろう。
外食することはあまりなかった。
ほとんど家で、母がつくる料理を食べていた。
とんかつを外で食べたのは、東京に出てきてから、と記憶している。
そんな14歳の私が、真贋物語を、くり返し読んでいたわけだ。