Date: 5月 18th, 2017
Cate: オーディオ入門
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オーディオ入門・考(その14)

少し長い引用だが、まず読んでいただきたい。
     *
この本を書くきっかけは、音楽が好きで、レコードやテープやFM放送を少しでも良い音で再生したいと思うごくふつうのオーディオの愛好家のために、いままでのような『学問』ではなく、オーディオ装置の購入から運用までのほんとうの基本の部分を、広く浅く、しかも堅くるしくならないような、眺めて楽しい本を作ってみたいという、本誌編集長とわたくしの考えが一致したところから始まった。白状すればそれはいまから二年以上もまえのことだった。ところが生来怠けもののわたくしが、多忙にかまけて手をつけずにいるあいだに、どんどん月日が流れてゆき、編集長もついにしびれをきらして、ホテルにカンヅメという強行手段に出て、とうやら日の目をみることになったというのが実情である。
 この本の計画を立てるに際して心がけたことは、次の四つであった。
 第一に、この本はオーディオのマニアのための本にしないこと。言いかえれば、再生音楽を楽しむためにオーディオシステムを購入するが、そのための知識は最少限に止めたいと考えておられる音楽の愛好家に読んで頂くための本にすること。
 第二に、少なくともわたくし自身がこの道に30年近くも遊んでなお飽きないどころか、ますますオーディオの深さに魅入られているということが証拠であるように、オーディオの世界は際限のない広さ・深さを持っているのだから、たとえ手引書であっても、オーディオを単なる実用のものというとらえ方でなく、その気になりさえすればひとり人間が一生の伴侶とするに十分に応えてくれるほど楽しいものだということを、ぜひとも匂わせたかった。いまや大型電気メーカーをも十分に潤すほどの大きな産業にまで普及したオーディオだが、とうぜんのことながら、もはや趣味の世界とは無縁の、いわば家庭電化製品と同列にオーディオがとらえられ、そういう形で売られている。しかし本書はあくまでも、オーディオと音楽の接点から深い趣味の世界を覗いて頂きたいという意図で書いた。
 第三に、図や写真をできるだけ多く使って、視覚的に文章を補足すること。とうぜん、数式などは避けること。それは一般愛好家に理解して頂くため方法であるにしても、オーディオの魅力が単に音楽を良い音で鳴らすというにとどまらず、精密なメカニズムの美しさを十分に表現したかったためでもある。したがってカラー写真の仕上りにもできるだけ留意して頂いている。
 第四に、おそらくいままでの入門書と最もちがうところは、パーツの選び方の項目がある意味でひどく抽象的な表現にならざるをえなかったことかと思う。いろいろな機会に、パーツを選ぶための「カタログの数字の読み方」を教えてほしいという質問を受ける。しかしわたくしは、カタログ上の数値は、ものの質の良さを読みとるにはほとんど役に立たないという考え方をかたくなに守っている(実際、わたくし自身が自分のためのオーディオパーツを選ぼうとするとき、カタログのデータはほとんど無視して、ただ実物に触れ、音を鳴らしてみて、現物で納得して購入している)ので、もっともらしい解説を書く気にならなかったためである。データ上の数値は、むしろパーツを購入してからあと、接続や使いこなしの上で役に立つにすぎないものがほとんどなのだ。したがって本書で重点を置いたのは、購入前の考え方のまとめかたと、購入後の使いこなしの二点であって、パーツを選ぶ際には、眺め、触れ、聴くしかないというわたくしの主張から、むしろ聴きくらべの注意の方に主力をそそいだつもりである。

 この本の完成までには、いうまでもいことだが多く方々のお力添えを頂いている。ものを書き始めて25年にもなりながら生まれて初めて一冊ぜんぶ書き下ろしという体験で、途中で方向を見失いそうになっていたとき、「結局瀬川個人のものの見方しかないのだから当りさわりのない入門書ではなく、瀬川個人の説をつらぬきなさい」と強くはげましてくださった坂東清三氏には、ほんとうにお礼を言わなくてはならない。
     *
瀬川先生の「コンポーネントステレオのすすめ」のあとがきからである。
「コンポーネントステレオのすすめ」は1975年12月に出ている。
好評だったので、1977年に改訂版が、1979年に「続コンポーネントステレオのすすめ」が出ている。

「コンポーネントステレオのすすめ」は入門書である。
瀬川冬樹によるオーディオの入門書であり、
「コンポーネントステレオのすすめ」がどういう内容の本であるのかは、
あとがきを読めばわかる。

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