続・再生音とは……(こだわる・その1)
再生音について考える必要はあるのか。
そう思われる人もいよう。
そんなこと考えなくとも、自分のシステムでいい音が聴ければいいのであって、
「再生音とは……」について、時間を割いてまで考えて何になるのか。
そういう人にとっては、この項はひどくつまらないであろう。
再生音はスピーカーから鳴ってくる音。
それ以上でもそれ以下でもない。
こんなふうに言い切れれば楽だ。
確かにスピーカーから鳴ってくる音が、再生音であるが、
それだけで再生音の正体について語っているとはいえない。
ステレオサウンド 38号の特集「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」、
その中で、井上先生が最後に語られている。
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ほとんどすべての人間が生まれながらに現実の音に反応しているはずです。それが再生音になると、どうしても他人の手引きや教えばかりをもとめるのか。いい音というのは、あなたがいまいいと思った音なんてすよ、とぼくはいっておきたい。つまり結局は、ご自分で探し出すことでしかないんです。
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再生音だと、なぜそうなってしまうのか。
これを読んだ時から、ずっと心にひっかかっている。
ひっかかり続けているから、この項を書いている。
再生音の正体について考えず、正体がはっきりとわからぬままオーディオをやっていても、
いい音は出せる。
ならば、それでいいじゃないか。
そう思わないわけではない。
それでも再生音の正体をわからぬままオーディオをやっていくことに、
むなしさ(とまでいってしまうといいすぎに感じるが……)をおぼえる。