マルチアンプのすすめ(その40)
スピーカー設計の考え方の違いは、
タイムアライメントの重要性を謡ながらも、実際にどういう方法で対処するのかにもあらわれる。
リニアフェイズという言葉が使われるようになった1970年代後半、
当時マランツのスピーカー部門の責任者であったエド・メイは、
マルチウェイスピーカーの場合、個々のユニットの前後位置をずらして位相をあわせるよりも、
ネットワークの補正で行なった方が、より正しいという考えを述べている。
ユニットをずらした場合、バッフル板に段がつくことで無用な反射が発生したり、
音響的なエアポケットができたりするため、であるとしている。
エド・メイが開発にあたったスピーカーシステムは、
ステレオサウンド 44号、45号のスピーカーの総テストに登場している。
一方KEFのレイモンド・クックはネットワークでの時間軸の補正は、
部品点数が増え、複雑で高価になるため、
ユニットの前後位置をずらしたModel 105を開発している。
エド・メイとレイモンド・クック。
どちらが正しいかを判断するのは難しい。
マランツ、KEFともに使用ユニットはコーン型とドーム型。
いわゆるダイレクトラジエーターだから、この問題について両者の技術の比較はまだいいが、
これがホーン型とコーン型の組合せとなると、ホーン型についてまわる仮想音源の位置が問題となる。
音像がホーンののどあたりに定位するのか、それとも開口部に定位するのか。
ホーンの設計・形状によっては、音の高さによって定位がわずかとはいえ前後するモノもある。
音響レンズつきのホーンの場合、音像の定位、
つまり仮想音源の位置は開口部となり、振動板の位置(実音源の位置)はずっと奥にあり、
この差を無視してのタイムアライメントはありえない。
ときどき見かけるのが、JBLのスタジオモニターのホーンとドライバーを取り出して、
前に突き出すことで、ウーファーとドライバーの振動板の位置合せを行っている人がいる。
こうすることで実音源の位置は確かに合う。
けれど音響レンズつきのホーンだけに、中高域の仮想音源の位置はホーン開口部にある。
つまりフロントバッフルよりも前に突き出しているのだから、ズレが生じている。
そのことに何も感じないのだろうか。
振動板(ボイスコイル)の位置が揃っていれば、いいという考えで音を判断しているのか。