Date: 11月 1st, 2016
Cate: plain sounding high thinking
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一人称の音(その4)

ステレオサウンド 54号の特集の座談会での瀬川先生の発言。
     *
 あるメーカーのエンジニアにその話をしたことがあるのです。「あなたがこのスピーカーの特性はいくらフラットだと言われても、データを見せられても、私にはこう聴こえる」と言ったら、そのエンジニアがびっくりして「実は、このスピーカーをヨーロッパへ持っていくと同じことを言われる」というのです。「それじゃ、私の耳はヨーロッパ人の耳だ」と笑ったのですが、しかし冗談でなくて、その後ヨーロッパ向けにヨーロッパ人が納得のゆく音に仕上げたもの──見た目は全く同じで、ネットワークだけを変えたものだそうです──を聴かせてくれたのです。
 満点とはいえないまでも、日本向けの製品に感じられた癖がわりあいないのです。ではなぜ、日本向けにはそういう音にするのかというと、実は店頭などで、艶歌、ポップス、ニューミュージックなどの歌中心のレコードをかけた時に、ユーザーがテレビやラジカセなど町にはんらんしているあらゆるスピーカーを通して聴いてイメージアップしている歌手の声に近づけるためには、中域をはらさなければダメなのだというわけです。つまり商策だということになりますね。
     *
このメーカーのスピーカーの音は、一人称の音、
それとも二人称の音、三人称の音なのだろうか。

あるメーカーとは、もちろん日本のメーカーである。
この日本のメーカーがヨーロッパ向けのモノは、ヨーロッパ人に音を仕上げさせる。
国内流通分は日本人のエンジニアが音を仕上げる。

同じ外観のスピーカー、ユニットも同じであっても、ネットワークだけが違っている。
おそらくサイン波による周波数特性を測定してみたところで、
はっきりとした違いは認められないかもしれないが、
ヨーロッパ人がヨーロッパ向けに仕上げたモノは、
日本向けのモノに感じられた癖が少ない、ということ。

しかもその癖は、商策から生じるものである。
ということは、このメーカーが日本向けとして販売しているスピーカーは、
一人称の音ではない、二人称の音でもない、つまりは三人称の音なのだろうか。

でもここでも疑問がわく。
ほんとうに三人称なのたろうか。実のところ、三人称でもないのではないか。

54号よりも少し前、
若者向けの音、ということもオーディオ雑誌でときおり目にしていた。
この若者向けの音に仕上げられた場合、三人称の音なのだろうか。

日本向けが想定している日本人、
若者向けが想定している若者は、ほんとうにいるのだろうか。

1 Comment

    若者向けの音、でいうと、今店頭で売られている「ハイレゾ対応」を謳ったイヤホンやヘッドホン、Bluetoothスピーカーの広告には、僕と同世代(20代半ばから後半)のミュージシャンやバンド、ファッションモデルが登場して、訴求をしています。
    ただ、それらの中には、ピアノがピアノらしく聴こえなかったり、人の声が低域に埋もれたりして、違和感がある物も多く、これが「若者向け・20代向け」の音なんだろうか、と思うことも、よくあります。
    媚びを感じない売り方、作り方の物を使っていこうと思っています。

    1F

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