ステレオサウンドについて(その42)
ステレオサウンド 48号の特集の冒頭には、
岡先生の「Hi-Fiコンポーネントにおける《第一回STATE OF THE ART賞》の選考について」がある。
この岡先生の文章は、
《まず、〝ステート・オブ・ジ・アート〟という言葉から説明しなければなるまい》
で始まる。
岡先生の文章のあとに、
岡俊雄、井上卓也、上杉佳郎、菅野沖彦、瀬川冬樹、長島達夫、柳沢功力、山中敬三、
原田勲の九氏の選考委員の「ステート・オブ・ジ・アート選定にあたって」の、
それぞれの文章が続く。
それぞれの書き出しを引用しておく。
●井上卓也
今回は、本誌はじめての企画であるTHE STATE OF THE ARTである。この選定にあたっては、文字が意味する、本来は芸術ではないものが芸術の領域に到達したもの、として、これをオーディオ製品にあてはめて考えなければならない。
何をもって芸術の領域に到達したと解釈するかは、少しでも基準点を移動させ拡大解釈をすれば、対象となるべきオーディオ製品の範囲はたちまち膨大なものとなり、収拾のつかないことにもなりかねない。それに、私自身は、かねてからオーディオ製品はマスプロダクト、マスセールのプロセスを前提とした工業製品だと思っているだけに、THE STATE OF THE ARTという文字自体の持っている意味と、現実のオーディオ製品とのギャップの大きさに、選択する以前から面はゆい気持にかられた次第である。
●上杉佳郎
私は,今も昔もオーディオマニアであることに変りはないのだが、過去においてメーカーに籍を置き、アンプ回路の設計を担当していた経験があるし、現在でも私の会社の上杉研究所で設計開発を行なっている関係上、どうしてもユーザー側の立場よりも、設計者的立場に片寄って物を見てしまう傾向がある。
そのために、今回の〝ステート・オブ・ジ・アート〟選考に当って、私が最も重視した点は、〝経時変化〟ということになる。この経時変化に注意した、などというと不思議に思われる方がおられるかもしれないので、少し説明しておきたい。
●岡俊雄
ステート・オブ・ジ・アートというものう、単にオーディオ機器における〝名器〟と同義語に解釈することには問題があるだろう。
やはり技術的初産としての高度に達成されたものでなければならないし、その達成のされかたに、何らかのかたちで、オリジナリティというものをもっていなければなるまい。もちろん名器的な性格はそのなかに自ずと含まれてくることは必然的である。
そのことをつきつめて考えてゆくと、オーディオ機器における〝名器〟とは何か、〝ステート・オブ・ジ・アート〟とは何か、という論文を書かなければならないことになってしまう。
●菅野沖彦
ステート・オブ・ジ・アートという言葉が工業製品に対して使われる場合、工業製品がその本質であるメカニズムを追求していった結果、最高の性能を持つに至り、さらに芸術的な雰囲気さえ漂わせるものを指すのではないか、と私は解釈している。「アート」という言葉は、技術であると同時に美でもあり、
芸術でもあるという、実に深い意味を持っている。しかし、日本語にはこの単語の持つ意味やニュアンスを的確に訳出する言葉がないこともあって、実にむずかしい言葉ということができる。