《一つのスピーカーの出す音の美しさ》(その1)
《一つのスピーカーの出す音の美しさ》──、
もちろん五味先生の言葉だ。
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」タンノイ号の巻頭
「わがタンノイ・オートグラフ」の中に出てくる。
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今おもえば、タンノイのほんとうの音を聴き出すまでに私は十年余をついやしている。タンノイの音というのがわるいなら《一つのスピーカーの出す音の美しさ》と言い代えてもよい。
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なにげない文章のように感じる人もいようが、
これは書けないな……、といつも思う。
私なら「タンノイのほんとうの音の聴き出すまでに」のところは、
引き出すまでに、とか、鳴らし出す、とか書いてしまう。
「聴き出すまでに」とは書かない(書けない)から、よけいにそう感じてしまう。
《一つのスピーカーの出す音の美しさ》もそうだ。
あくまでもここでは《一つのスピーカーの出す音の美しさ》であり、
《一つのスピーカーの出す音の良さ》ではない。
《一つのスピーカーの出す音の美しさ》、
実はなかなか聴けない。