情景(その2)
五味先生の著書「五味オーディオ教室」でオーディオの世界に入った私にとって、
冒頭でいきなり出てきた「肉体のない音」という表現は、まさしく衝撃的だった。
演奏家の音をマイクロフォンで拾って、それを録音する。
そしていくつかの工程を経てレコードになり、聴き手がそれを再生する過程において、
肉体が介在する余地はない、と五味先生も書かれている。
けれど、鳴ってきた音に肉体を感じることもある、とも書かれている。
「肉体のある音」とはどういう音なのか。
ほとんど経験というもののない中学生は、リアリティのある音、
ハイ・フィデリティという言葉があるのなら、ハイ・リアリティという言葉があっていいだろう。
そんなふうに考えた。
いま思えば、なんと簡単に出した答えだろう、と。
けれど、それからずっと考えてきたことである。