情報・情景・情操(その5)
1971年に、ステレオサウンドの別冊として発行された「4チャンネルステレオのすべて」の巻末に、
イリノイ大学のD.H.クーパー博士による「4チャンネル・ステレオの心理的効果について」が載っている。
そこには、音場の再生方法には2通りある、と書かれている。
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第一には客観的、物理的な方法であり、第二には主観的、音響心理的方法である。前者の方法ではコンサートホール内にリスニングルームを想定し、指向性マイクロホンを何本か使用して録音し、それを無響室中にマイクロホンの設定位置と同じ位置にスピーカーを置いて再生する。ケムラスはこの実験に12チャンネル用いてやった結果、前面4チャンネル、後方2チャンネル以下ではその内容を保つのが困難であることを知った。
後者の方法ではマイクロホンとスピーカーの位置と本数は関係なく最適な音響心理が得られるよう工夫するものである。従ってこの方法を進めるためには、人間の聴覚を含めた感性がどういうものであるかを知る必要がある。マドセンはハスやダマスケによって研究された効果から直接音と間接音との効果を指摘した。それによれば、二つのスピーカー間において相対強度が直接音のイメージ定位を決定するが、同一強度でもハスが指摘したように、もう二つのスピーカーの一方がある時間遅延をもって鳴れば、その定位は早い音響の方向に移動する。(中略)つまり、第一のスピーカーからの音が人間の耳に定着して、第二のスピーカーからの音はラウドネスのみに依存するするということである。
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音場再生の2つの方法──、
客観的・物理的な方法と主観的・音響心理的な方法、とがあるということ。
この2つの方法は、レコードを音楽のドキュメンタリーとしてとらえるかどうかにも関係してくる。