ボンジョルノとレヴィンソン(その8)
目の前に、スタインウェイのピアノがあったとする。
スタインウェイでなくともよい、ベーゼンドルファーのピアノでもいいし、
ストラディヴァリウスのヴァイオリンでもかまわない。
とにかく目の前に、よい音を奏でてくれるであろう楽器がある。
でも、これだけではその楽器から音は一音たりとも鳴ってこない。
弾き手がいて、はじめて、その素晴らしい楽器から音が鳴ってくる。
素晴らしい楽器になればなるほど、素晴らしい弾き手を求める。
楽器はそれ単体では音を鳴らさない。
弾き手(つまり人間)の肉体運動の結果として、楽器から音が鳴ってきて、
音楽が奏でられる。
それはどんな音楽であってもそうだ。
クラシックであれジャズであれロック・ポップスであれ、
人間の肉体運動によって音は発せられる。
このことを実感できる再生音とそうでない再生音とがある。
ジェームズ・ボンジョルノのアンプとマーク・レヴィンソンのアンプ。
両者のアンプの違いは、こういうところにもはっきりと出てくる。
そして、音の鮮度の高さに関しても、ボンジョルノのアンプとレヴィンソンのアンプとは同じわけではない。
念のため書いておくが、ここでのマーク・レヴィンソンのアンプとは、
ジョン・カールがいた時代、関与したアンプ、つまりJC2(ML1)、LNP2、ML2などのことである。
ステレオサウンド 52号のSUMOのTHE POWERの新製品紹介の記事。
ここでコントロールアンプをLNP2からTHAEDRAにすると、
途端に音の鮮度や躍動感が出てきた、とある。
音の鮮度。
THE POWERが登場した1979年、
GASのTHAEDRAよりも鮮度感の高さ、透明度の高さを誇るコントロールアンプはあった。
ふつうに考えれば、そういったコントロールアンプの方が、より鮮度のある音が得られるように思う。
私はそう思っていた。
THE GOLDを手に入れて、THAEDRAを遅れて手に入れるまでは。