オーディオ機器を選ぶということ(その16)
SMEの3012の誕生は、オルトフォンのSPU-Gのためであることは、
瀬川先生がなんども書かれていることからもわかるし、
SME純正のヘッドシェルの形状が、オルトフォンのGシェルに似ていることからも推測できる。
つまりオーディオクラフトのAC3000のように、
コンプライアンス、自重、適正針圧、発電方式などがさまざまに異る多種多様なカートリッジを、
一本だけで使いこなすためのトーンアームではなく、
たったひとつのカートリッジを使いこなすためのトーンアームが、3012であり、
SMEのトーンアームは基本的に、その思想を貫いている。
3012のあとに出た3009はシュアーのV15に合わせたものだし、
さらに軽量化を徹底的に進めた3009/SIIIは、
V15よりもさらにハイ・コンプライアンス、軽針圧のカートリッジに適合するように、
チタンのごく細いパイプを使い、ヘッドシェルも一体化(しかも孔あき)、
カートリッジの交換はアームパイプごと行う仕様になっている。
交換のための機構がアームパイプの先端にあるほど実効質量が増すのをなくすために、
軽量化した機構を、アームの軸受け部近くに持ってきているし、後部のウェイトもコンパクトにまとめられている。
3012は優美な美しいトーンアームなのに、3009/SIIIのとなりにあるとたくましさを感じるほど、
30009/SIIIのパイプは細く(軽く)、見た目も華奢だ。
このトーンアームでMC型カートリッジは使えない。
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SMEのユニバーサリティとは、一個のカートリッジに対して徹底的に合わせ込んでゆくその多様な可能性の中から一個の「完成」を見出すための、つまり五徳ナイフ的な無能に通じやすい万能ではなく、単能を発見するための万能だといえるのだと思う。(ステレオ 1970年4月号)
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いまから40年も前に、瀬川先生が書かれているこのことは、
オーディオにおける「ユニバーサル」の意味を考えてゆくうえで、本質だ。