ハイ・フィデリティ再考(絵に描いた餅ならば)
ハイ・フィデリティは高忠実度であり、
何に対して高忠実度かといえば、いちおう原音ということになっている。
その原音とはなんなのか。
録音の現場で鳴っていた音なのか、マスターテープに収録された音なのか、
アナログディスクならば、そこに刻まれた音なのか、
CDならばピットとして記録された音なのか。
菅野先生は自身で録音されたものについても、
マスターテープに収録された音は、はっきりとはわからない、といったことを何度も発言されていた。
ましてカッティングで、別の要素がそこに加わる。
アナログディスクに刻まれた音は、さらにはっきりとはわからなくなる、ともいえよう。
なんとこころもとない高忠実なのだろうか。
こんなことは私がいう以前から指摘されていたことでもある。
だから、原音再生は絵に描いた餅である──、
そういう表現をつい最近もみかけた。
絵に描いた餅とは、感心するほど見事に描かれた餅の絵であっても、
絵である限りは食べられない、腹の足しにはならない。
つまり何の役にもならないこと、もしくは本物・実物でなければ意味がない、というもの。
オーディオにおける原音再生は、確かに「絵に描いた餅だ」といわれれば、確かにそうだ、とうなずく。
うなずくけれど、こう問い返したくもなる。
その餅を描いてみたことがありますか、と。
絵に描いた餅だとわかっていても、
一度は、絵に描いて、いうべきなのではないか。