新製品(フィデリティ・リサーチの場合・その1)
私のフィデリティ・リサーチについてのイメージは、
ステレオサウンド 43号の瀬川先生の文章で、でき上がった。
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この独特の音質をなんと形容したらいいのだろうか。たとえばシンフォニーのトゥッティでも、2g以上の針圧をかけるかぎり、粗野な音や荒々しい歪っぽい音を全くといっていいほど出さないで、あくまでもやさしく繊細に鳴らす。油絵よりも淡彩のさらりとした味わいだが、この音は一度耳にしたら好き嫌いを別として忘れられない。出力がきわめて低いので、良質なトランスかヘッドアンプを組み合わせることが必要条件。
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オルトフォンのSPU、EMTのTSD15、それにデンオンのDL103といったMC型カートリッジが、
発電コイルの巻き枠に磁性体を使用したタイプに対し、
フィデリティ・リサーチのFR1は空芯コイルのMC型だった。
鉄芯と空芯。
このふたつの言葉がイメージする音が、そのままフィデリティ・リサーチのFR1と重なっていた。
といってもFR1の音を、このとき聴いたことがあったわけではない。
フィデリティ・リサーチはおもしろい会社で、
FR1のあとに、FR1E、FR1MK2、FR1MK3と出しているけれど、
1978年ごろはすべて現行機種てあった。
型番末尾にMK2、MK3とついているわけだから、改良型であることに違いない。
ふつう改良型が出るときに以前のモデルは製造中止になるのに、フィデリティ・リサーチは違っていた。
オーディオに興味をもちはじめたばかりのころは、これが不思議でならなかった。
そのフィデリティ・リサーチが、1978年に新製品を出した。
FR1MK4ではなく、FR7という、シェル一体型の、
それまでのフィデリティ・リサーチの製品とは趣の異るカートリッジだった。