ベートーヴェンの「第九」(その11)
隔離された場所での音楽ということで思い出すのは、映画「ショーシャンクの空に」だ。
主人公(アンディ・デュフレーン)が、無実の罪で投獄される。
20年前の映画だ。
いまでも評価の高い映画だから観ている人も少なくないだろう。
あらすじは省く。
映画の中盤、アンディ・デュフレーンが投獄されているショーシャンク刑務所に本とレコードが寄贈される。
その中にモーツァルトの「フィガロの結婚」のレコードを見つける。
卓上型のレコードプレーヤーで聴きはじめたアンディ・デュフレーンは、
ひとりで聴くのではなく、管内の放送設備を使い、刑務所中に響きわたらせる。
そのシーンを思い出す。
「第九」の話も、「ショーシャンクの空に」も隔離された場所での、
そこに似つかわしくない、といえる音楽が鳴る。
実際の話と映画(フィクション)をいっしょくたにしているわけだが、
こういう世間と隔離された場所で、
おそらく「第九」も「フィガロの結婚」もはじめて耳にする人たちが大勢いる、ということでは共通している。
どちらの聴き手にも、音楽の聴き手としての積極性はない。
自ら、この曲(第九にしてもフィガロの結婚にしても)を選んで聴いているわけではない。
いわば不意打ちのようにして聴こえてきた音楽である。