トランスからみるオーディオ(その14)
良質のオーディオ用トランスをつくれる職人は減っていくばかりで増えていくことは望めない。
いまや電源においてもスイッチング方式が幅を利かせているから、
電源部からも大型の電源トランスはいずれ消え去ってしまう方向にあるのかもしれない。
十数年後か何十年後には、トランスは信号用、電源用含めて前時代の遺物扱いとなるのだろうか。
いまでも電源トランスはしかたないとしても、信号用トランスは不要であり、
必要性をまったく感じないどころか、音を悪くするだけの代物でしかない、という人がいる。
トランスを、どこでもいい、信号系のどこかにいれれば、音は鈍(なま)る。
そんな音は聴きたくないから、トランスなんてものは信号系から完全に取り除くのがいい……、
そういう人を知っている。
そういう人の言い分も、まったくわからないわけでもない。
たしかにトランスの使い方がまずいと、そんな音になる。
それに良質のオーディオ用トランスも、そんなには多くはない。
良質でないトランスを、まずい使い方をすれば、「トランスなんて要らない」といいたくなるのもわかる。
そこでトランスに見切りをつけてしまうのも、ひとつの行き方ではある。
けれど、トランスは昔からオーディオには使われてきている。
再生系だけでなく録音系にも、むしろ以前は録音の現場においてこそトランスは使われる箇所が多かった。
そういう時代に録音されたものを、「トランスなんて要らない」と切り捨ててしまった人は、
どういう評価を下しているのだろうか。
鈍った音の録音だ、とでもいうのだろうか。