「はだしのゲン」(その13)
五、六年前のことだ。
あえて詳細はぼかして書くのは、このことで個人攻撃・否定をしたいわけではないからだ。
ある会話の中で、ある録音エンジニアの名前が出た。
仮にA氏としておく。
「A氏の録音を聴いたことがあるか」ときかれた。
オーディオに関心のある人、録音に関心のある人ならば、
いちどは聞いたことのある名前だった。
A氏の録音の話になった。
そこでの結論は、A氏の録音は「毒にも薬にもならない」ということだった。
そのときからも、そしていまも、A氏の録音は優秀録音という世評を得ている。
音にこだわった録音ということでもある。
たしかに、聴けば、よく録れている、と誰もが感じる。
私もそう感じるし、その時A氏の録音についてきいてきた人(私よりも年上)も、同感だった。
よく録れているから、いわゆるキズのある録音ではないし、ケチのつけられる録音ということでもない。
でも、どこまでも、そこまで止りなのである。
それ以上のもの、それこそsomethingが感じられない。
そんな意味も含めての「毒にも薬にもならない」録音だ、という結論になったのだった。