妄想組合せの楽しみ(その23)
1988年9月号の無線と実験に、伊藤先生製作の7027Aプッシュプルアンプの記事が載っている。
出力トランスはパートリッジのP5201、1次側のインピーダンスが10kΩのもの。
出力段はAB1級のUL接続で、出力はおよそ20W。
RA-1574-Dは五極管接続で、7027Aの規格表をみると、
AB1級で、出力トランスに6.5kΩのものを使えば、76Wの出力となっている。
1次側インピーダンスが6.5kΩのトランスで70Wを超える出力でも使えるものとなると、まずないと思っていたが、
スウェーデンのトランス専門メーカー、ルンダールのラインナップのなかに、6kΩのものがある。
7027Aは、やはりAB1級で6kΩのトランスを使えば、50Wの出力を取り出せる。
伊藤先生の製作例があること、ウェストレックスのカッターヘッド用のドライブアンプに使われていたこと、
このふたつの理由に、ぴったりのトランスがいまでも入手できることがわかり、
7027Aのプッシュプルアンプをつくるのもよさそうだと、ひとり納得していたところで思い出したことがある。
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しかしその試聴で、もうひとつの魅力ある製品を発見したというのが、これも前述したマッキントッシュのC22とMC275の組合せで、アルテックの604Eを鳴らした音であった。ことに、テストの終った初夏のすがすがしいある日の午後に聴いた、エリカ・ケートの歌うモーツァルトの歌曲 Abendempfindung(夕暮の情緒)の、滑らかに澄んで、ふっくらとやわらかなあの美しい歌声は、いまでも耳の底に焼きついているほどで、この一曲のためにこのアンプを欲しい、とさえ、思ったものだ。
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瀬川先生が、1981年に書かれた文章だ。