「音は変らない」を考えてみる(その2)
井上先生がよくいわれていたことのひとつに「頭で聴くな」がある。
音は耳で聴くものである。
だがオーディオに関心のある人、それも関心が強くなればなるほど、
時として耳ではなく頭で音を聴いてしまうことがないわけではない。
つまり、このスピーカーはこういう技術内容を持った製品だから、とか、
このアンプは真空管式だから、とか、
このケーブルの銅線の純度はきわめて高いから、とか、
このブライドの製品なのだから、
……この手のことは、際限なく書いていけるわけだが書いていってもあまり意味のないことだから、
このへんにしておくが、オーディオの知識が増えていくことで、
その知識が音の判断を時として誤らせてしまう、歪めてしまうことがある。
井上先生は、頭で聴くタイプの人は、音で騙すことができる、誘導することも簡単だともいわれていた。
だまされないタイプの人は、オーディオに関心のない、音楽好きの人でもある、と。
いい音を出していく為に身につけてきた知識や経験によって、
自分で自分を騙してしまうことが、まったくなかった、という人が果しているだろうか。
ケーブルやアンプで「音は変らない」という人たちこそが、頭で聴くタイプである、とはいえない。
頭で聴く人は、「音は変らない」と主張する人たちの中にもいるし、
「音は変る」という人たちの中にもいる。
スピーカー以外で「音は変らない」──、
そう主張する人たちがいる理由は、だから他にある、と考えるべきである。