EMT 930stのこと(その1)
「EMTの930stって、ほんとうに音のいいプレーヤーですか」
そんな声を、まったくきかないわけではない。
927Dstはデッキ部はアルミ鋳物製なのに対して、930stではベークライト系の合成樹脂、
アルミ製のターンテーブルプラッターの上にのる円盤も、
927Dstはガラスの正面にゴムを貼りつけたものなのに対し、
930stではプレクシグラスにフェルトを上面だけに貼ったもの。
「EMTの930stって、ほんとうに音のいいプレーヤーですか」と思っている人には、
まず、この部分が気になるらしい。
それから927Dstにもついているトーンアームのリフター機構。
この便利な機構は、EMTのプレーヤーを自分のモノとして愛用していた人ならば、
これが実に良く出来た機構であり、EMTのプレーヤーの魅力のひとつとなっていることは理解されていようが、
そうでない人にとっては、このリフター機構は、いわば雑共振の発生源というふうにみなされる。
このリフター機構に関係することなのだが、
EMTのトーンアームのパイプ部には軸受け近くに鉄板が外周1/4ほどではあるが貼りつけてある。
この鉄板がリフターの磁力にぴたりとくっつき、
トーンアームはリフターから簡単には離れないようになっている。
いわばロック機構である。
けれどトーンアームのパイプの中はケーブルが通っていて、
そのケーブルはカートリッジが発電した微小な信号のためにあるもの。
その周囲に鉄板という磁性体があるのは、それだけで音を濁してしまう──、ということになる。
こんなふうに書いていったら、他にもいくつも出てくる。
「EMTの930stって、ほんとうに音のいいプレーヤーですか」といっている人が気づいていないことも、
まだいくつも指摘しようと思えばできる。
そして、それらを理由として930stは音のいいプレーヤーとはいえない、
そう主張する人がいても、さほど不思議とは思わない。
そういう見方をしていった場合、930stは音のいいプレーヤーとは呼び難いのは事実といえば事実であろうが、
そういう見方ばかりがプレーヤーの見方ではない。
それらのことだけでプレーヤーの音が決っていくものでもない。
930stにはいくつもの欠点があるのは事実だ。
それでも、930stは音のいいプレーヤーであることは確かである。