瀬川冬樹氏のこと(その4)
瀬川先生が、ステレオサウンド38号で語られている言葉。
「ぼくがときどき、ある意味で絶望的な気持ちになるのは、たとえばオーディオ・メーカーのショールームなどで、ぼくの考えている装置を持ちこんで、その場で可能なかぎりの条件を整えて、いつも自分が聴いている音にできるだけ近づけて鳴らしたときに、それを聴きにくださった方のなかに必ず何人か、瀬川さんがいつも書かれていることがこの音を聴いてやっと理解できました、とおっしゃる方がいることです。一生懸命ことばを考えて書きつらねても、ほんの小一時間鳴らした音には及ばないのか、そう思うと、いささか絶望的な気分になってしまう。いったいどうしたらいいんだろうと、ときどき考えこんでしまいます。」
晩年、瀬川先生は「辻説法をしたい」とまで思いつめられていた、ときいている。
そして、瀬川先生は、オーディオ評論をはじめるにあたって、
小林秀雄氏の「モオツァルト」を書き写された、ともきいたことがある。