Archive for category ブランド/オーディオ機器

Mark Levinsonというブランドの特異性(その9)

1970年代の半ばごろか後半か、アメリカのオーディオジャーナリストのジュリアン・ハーシュが、
理想のアンプの条件として、”straight wire with gain(増幅度をもったワイヤー)” と定義した。

いまではあまり見かけなくなり語られなくなったようだが、一時期はよく引き合いに出されていた。

ジュリアン・ハーシュが、どこからインスピレーションを得て、この言葉を思いついたのかは不明だが、
LNP2や、さらにシンプルな機能のJC2の登場が、多少は関係しているように思われる。

この “straight wire with gain” といっしょに語られていたのが、アンプの理想を蒸留水とした例えである。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その8)

別冊FM fanに瀬川先生が、マーク・レヴィンソンは、このまま、どこまでも音の純度を追求していくと、
狂ってしまうのではないか、という主旨のことを書かれていた。
実際には狂うことなく、むしろ熟練の経営者として面が強くなっていったようにも、私個人は感じているが……。

LNP2が出たころ、マーク・レヴィンソンはアンプの技術者でもあり、
LNP2の新モジュールは、当初はレヴィンソンの設計によるものだと言われていたし、
ほとんどの人がそう信じていた。もちろん私も信じ切っていた。

1984年にMLAS (Mark Levinson Audio Systems) を離れCelloを興したころ、
レヴィンソン自身が、「アンプの技術者ではなかった」と語っている。

彼がほんとうにアンプの技術者だったら、瀬川先生の心配が現実になったかもしれない。

ときどきバウエン製モジュール(UM201)と
マークレビンソン自社製モジュールLD2の音の違いについて聞かれることがある。

どちらが良いのか、どんな違いなのか……と。

バウエン製モジュールのLNP2は数が極端に少ないため、実際に聴いた人は少ないようだし、
私もステレオサウンドにいたから、幸運にも試聴の機会にめぐまれた。

岡先生所有のLNP2と、ステレオサウンド試聴室で使っていたLNP2Lとの比較である。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その7)

LNP2もJC2も外部電源になっている。
言うまでもなく、電源トランスからの漏洩フラックス、振動の影響を避け、SN比をできるかぎり高めるためである。
電源部が外部にあることで、アンプ内部のコンストラクションの自由度も増す。

ただメリットばかりではなく、デメリットもある。
最も問題なのは、電源部とアンプ本体を接ぐケーブルには、必ずインダクタンスが存在すること。

ケーブルが長ければ長いほどインダクタンスも大きくなり、外部電源の出力時には低かったインピーダンスも、
ケーブルを伝わってアンプに供給されるときには、高域のインピーダンスが上昇する。

これを防ぐには、極端にケーブルを短くすればいいが、これでは実用性がない。
もうひとつは、アンプ本体のコネクター部からNFBをかけれる手法だ。

型番がついた外部電源、PLS150ではまだ採用されていなかったが、
次のPLS153からはこの手法により、インピーダンスの上昇を抑えている。
そのためコネクターのピン数が増えている。

つまり外部電源とアンプ本体を接ぐケーブルがNFBループ内に含まれるため、
このケーブルを好き勝手に、他のケーブルと交換するのはやめたほうがいい。

Date: 1月 14th, 2009
Cate: 4343, DIATONE, DS5000, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その41)

雑共振を抑えるだけでなく、不要輻射も抑えることで聴感上のSN比は、確実に向上していく。

振動板から出るより先に、スピーカーのフレームから音が出ることは以前書いたとおりだ。
フレームの表面処理も重要になってくるし、フレームをフロントバッフルに固定しているネジにも言える。
ダイヤトーンのDS10000、DS9Zのネジの頭にゴム製のキャップをかぶせていた。
ネジの頭の凹みから不要輻射を抑えるためである。このキャップにも、DIATONEの文字が入っていた。

ラウンドバッフルの採用も、不要輻射を抑えるためで、
DS5000は曲線ではないけれど、両サイドを斜めにカットすることで、鋭角な箇所をなくしている。

4343も、後継機の4344、4344 MkIIも、フロントバッフルはすこし奥に付いている。
その分、直角のコーナーが増えることになり、不要輻射の箇所も増しているわけだ。

4348が、音響レンズの採用をやめたのも、フロントバッフルも引っ込ませていないのも、
聴感上のSN比向上のためであろうし、実際に早瀬さんのところで4343Bと直接比較した際にも、
はっきりと、そのことが確認できたし、
おそらく今後JBLは音響レンズ付きのモデルを開発することはないであろう。

ダイヤトーンのスピーカーは、DS5000までは、フロントバッフルにレベルコントロールがついていたが、
その後に出た機種、DS1000から、レベルコントロールそのものがなくなってしまう。

レベルコントロールを廃したことに賛否あったが、これも不要輻射をなくすための手法である。
レベルコントロールのツマミも、そのまわりのパネル部分も雑共振と不要輻射の元である。

Date: 1月 14th, 2009
Cate: 4343, DIATONE, DS5000, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その40)

聴感上のSN比を高めるために、井上先生が4343に施されたことを一言で表せば、雑共振を抑えることである。

このことはダイヤトーンのDS5000やビクターのZero-L10を仔細に見ていけば、納得されるだろう。
ひとつひとつ具体例をあげていこうと思ったが、そうすると、この項がいつまでも終らないので省かせていただく。

それでもいくつかあげれば、吸音材はどちらもウール100%の天然素材だし、
エンクロージュアのどの部分を叩いてみても、雑共振を感じさせるところはない。
Zero-L10はドーム型振動板の保護用の金属網を着脱できるようになっていた。
ダイヤトーンもDS5000ではないが、DS1000あたりから鉄と銅の異種金属を使い、
少しでも影響を少なくしようとしていた。

異論もあるだろうが、スピーカーユニットの分割振動も、ある種の雑共振といえるだろう。

国内メーカーが、スピーカーの振動板に高剛性の素材を使いはじめたころから、
聴感上のSN比の向上が始まっていた、といえるし、
ピストニックモーションの追求は、SN比の追求でもあった。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その6)

ステレオサウンド 38号に掲載されている山中先生のリスニングルームには、
マランツの#7、ハドレーのModel 621、GASのテァドラがメインのコントロールアンプとして、
クワドエイトのLM6200R、JBLのSG520、マッキントッシュのC22とC28、
マランツの#1 (×2) +#6がサブのコントロールアンプとして、ラックに収められている。

プレーヤーにはEMTの930st、
オープンリールデッキにアンペックスのModel 300を使われることからもわかるように、
山中先生は、プロ用機器、コンシューマー機器というカテゴリーにとらわれることなく、
優れた、魅力あるオーディオ機器ならば、コレクションに加えられ、使いこなされていた。

そういう方だから、1974年にシュリロ貿易がサンプルとして入荷したLNP2を、
「プロまがいの作り方で、しかもプロ用に徹しているわけでもない……」と
酷評されたのは、むしろ当然だろう。

どこをそう感じられたのか。

テープ入出力端子とメインの出力端子のRCAジャックと並列に接いだだけのXLR端子がそうだろう。
LM6200が600Ωのバランス対応なのに、
LNP2は、ハイインピーダンス受けのアンバランス入力とローインピーダンスのアンバランス出力、
当時のプロ用機器で常識だったインピーダンス・マッチングには、何の配慮もない。

レヴィンソン自身が、市場に、自身が満足できるクォリティのミキサーが存在しないために作ったというのは、
75年から輸入元になったR.F.エンタープライゼスの謳い文句だが、
LNP2のブロックダイアグラムを見て、ミキサーから生れたコントロールアンプと言えるだろうか。

LNP2の型番からわかるように、LNP1というモデルが存在する。
このLNP1が、レヴィンソンによるミキサーだが、ブロックダイアグラムなどの資料がまったくないため、
詳細は不明。LM6200のようにバランス対応だったのか、それともアンバランスだったかも不明だ。

LNP2のインプットレベルヴォリュームとインプットアンプのゲイン切換えに、
ミキサー的と言えなくもないが、やはり中途半端なままだ。

ライン入力でも、接続する機器によって信号レベルが異る場合がある。
さらにフォノイコライザーアンプの信号レベルは、組み合せるカートリッジ、
それがMC型ならば、ヘッドアンプのゲインや昇圧トランスの昇圧比によって、
ライン入力とかなりレベル差が生じることもある。

プロ用機器として、ミキサーとして、本来開発されたものであるならば、
例えばリアパネルの各入力(フォノ入力は除く)端子に、
それぞれ独立した、しかも左右独立のレベルコントロールを設け、
入力信号を切り換えても、再生レベルが変化することがないように調整できるようにしておくべきだ。
プロの録音現場で使われていたLM6200を、もう一度見てほしい。

もちろん、コンシューマー用コントロールアンプには、こういうことは私だって求めない。
だがプロ用機器となると話は別だ。

それから外部電源という形態もそうだろう。
SN比を高めるための手段とはいえ、それはコンシューマー機器で許されることであって、
プロ用機器では、こんなことは、まずあり得ない。

つけ加えておく。
LNP2に対し厳しいことを書いているけれど、LNP2にずっと憧れてきたし、
いまでも、一度は自分のモノとして使いたい、と心のどこかで思ってもいる。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その5)

LNP2とほぼ同時期に、
アメリカのQUADEIGHT(クワドエイト)からLM6200Rというコントロールアンプが出ていた。

LM6200は、ポータブル用ミキサーで、6チャンネルの入力、それぞれにレベルコントロールをもつ。
末尾にRのつくモデルは、1、2チャンネルにRIAAイコライザーカードを搭載したモデルである。
LM6200Rだと、ライン入力はのこり4チャンネル、つまり左右で2チャンネル必要だから、ライン入力は2系統となる。

LM6200Rと便宜上呼んでいるが、正確にはミキサー部がLM6200であり、VUメーター部はVU6200で、
独立した筐体をトランクケースにラックマウントしている。
ライン入力がさらに必要な場合には、LM6200を足すことで対応できる。

入出力はXLR端子を使い、プロ用機器という性格上、すべてバランス対応なのは言うまでもない。

質実剛健なつくりのプロ用機器として、LM6200Rは、岩崎先生が愛用されていたし、
山中先生も所有されていた。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その4)

LNP2のブロックダイアグラムは、多くのコントロールアンプの構成とは、やや異る。

オプションのバッファーアンプを装備しない標準状態では、
カートリッジの信号は、フォノプリアンプ、インプットアンプ、アウトプットアンプを通る。
AUX、チューナーなどのライン入力は、インプットアンプ、アウトプットアンプを、
テープ関係の信号は、ライン入力と同じだが、
テープセレクタースイッチを使えば、インプットアンプをパスでき、アウトプットアンプのみを通って出力される。

リアパネルには、テープ入出力とメイン出力端子は、XLRコネクターが併設されているが、
パランス入出力ではなく、いずれもアンバランス入出力である。

LNP2はメイン(アウトプット)ヴォリュームの他に、
インプットアンプの前にインプットレベルヴォリュームが左右独立で設けられ、
さらにインプットアンプのNFB量を切り換えることで、この段のゲインを調整できる。

VUメーターに表示されるのは、このインプットアンプの出力レベルである。

ここのゲインとインプットレベルヴォリュームの設定が、
組み合わせるパワーアンプの感度やスピーカーの能率によっては、意外に神経質な面をのぞかせることもある。

初期のLNP2はゲイン切換えが0〜+20dBまでだったのが、末尾にLがつくタイプからは、+40dBとなり、
ゲイン切換えにともなう、つまりNFB量の変化によって音の抑揚や音場感も変ってくる。

メインヴォリュームは、トーンコントロールの役割ももつアウトプットアンプの前にある。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その3)

LNP2用のモジュールの設計には、ひとつの大きな制約があった。消費電力である。

LNP2には片チャンネル当り6つの信号用モジュールとVUメーター駆動用モジュールが1つ、
左右両チャンネルで8つのモジュールを搭載している。
さらに、バッファーアンプ用にモジュールを追加できるように、最初からそうなっている。

瀬川先生は、信号が通過するアンプモジュールは増えることになるが、
バッファーアンプを追加したほうが、音の表情の幅と深さが増すと書かれていた。
実際、瀬川先生が愛用されていたLNP2は、バッファー用とモジュールが追加されていたし、
ステレオサウンドに常備されていたLNP2も、そうだった。

1977年に、入出力コネクターが、一般的なRCAジャックからCAMAC規格のLEMOコネクターに変更されたとき、
外付け電源も大きく変更され、電源にもPLS150という型番がつけられるようになった。
それまでは、そんなに立派な仕様ではなく、汎用性といった感じのモノが付いていた。

もともとの付属電源の容量が、実はそれほど余裕があるわけでなく、
しかもLNP2は最大10個のモジュールを搭載する。
OPアンプ中心の回路構成で消費電力も低かったバウエン製モジュールでは、
それでも問題は生じなかった。

けれど、74年に登場した、ジョン・カール設計のJC2搭載のモジュールを、
そのままLNP2には消費電力の面で、搭載は無理だった。

ディスクリート構成のモジュールを、
OPアンプ中心のバウエン製モジュールと変わらぬ消費電力で実現しなければならない。
このことに、苦労させられたと、ジョン・カールは語ってくれた。

そのことを裏づけるかのように、JC2のモジュールには、Class Aという表記がある。
LNP2のモジュールには、そういう表記はない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その2)

1972年に、アメリカでLNP2は誕生している。バウエン製モジュール搭載のLNP2である。

アンプ・モジュールはエポキシ系と思われる樹脂で固められているので、中身がどうなっているのかは、
回路構成を含めて、当時は一切わからなかった。

ステレオサウンドにいたとき、ジョン・カールにインタビューしたことがある。
80年代にはいりディネッセンのJC80を出し、
その数年後の、ヴェンデッタ・リサーチからSCP1を発表したばかりのころだ。

このときバウエン製モジュールについて、すこしだけ教えてくれた。
回路の中心はOPアンプで、性能向上のため、いくつかのパーツが使われている、とのことだった。
おそらくOPの前段にFETによる差動回路の追加か、
出力にバッファーアンプを設けたのか、もしくはその両方か。

マーク・レヴィンソンは、バウエン製モジュールにOPアンプが使われていることが、大きな不満だったらしい。
そのためだろうか、性能も音質に関しても、完全には満足しておらず、
そのためジョン・カールに、バウエン製モジュールと互換性があり、
より高性能で高音質の、自社製モジュールの設計を依頼した、とのことである。

Date: 1月 9th, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その39)

アンプは何も複雑な回路構成のものでなくてもいい。
アナログディスク全盛の時には、FET1石のゼロバイアスのヘッドアンプの自作記事がよく載っていた。
私も作ったことがある。電源は006P角形9V乾電池でいい。コンデンサー、抵抗の使用も僅かだ。
配線さえ間違えなければ、調整箇所もない。

ゼロバイアス・ヘッドアンプの音が優れているかどうかはおいておくが、
こんなアンプでも、プリント基板の音の違いははっきりと出す。

アンプをつくるのが面倒な人は、ガラスエポキシ基板とベークライト基板だけを買ってきて、
親指と人さし指で基板をはさみ、指で弾いた音を聞いてほしい。

テフロン基板単体を手にしたことはないので、弾いたことはないけれど、
ガラスエポキシともベークライトとも違う音なのは確かだ。

プリント基板は、トランジスター、FET、OPアンプ、真空管などの能動素子、
コンデンサー、抵抗、半固定抵抗などの受動素子を支えるベース(基板)である。

こんなことがあったのを思い出す。
DATが登場したときのことだ。ステレオサウンドの試聴室で、各社のDATデッキ、テープの試聴が終った後、
「振ってみろ」と言いながら、井上先生が、使用テープをこちらに渡された。

親指と人さし指ではさみ数回振ってみる。無音ではない。テープ機構の音がする。
カチャカチャという音、カシャカシャという感じに近い音、ガチャガチャと濁る音……、
まったく同じ音がするものはひとつもなかった。

「いましがた聴いた音と、いまのその音、似てるだろう」とも言われた。
そのとおりなのだ。

そのテープにはデジタルで記録される。にも関わらず、アナログ的な要素が音と関係してくる。

Date: 1月 9th, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その38)

スピーカーの聴感上のSN比には、ネットワークの処理も、もちろん大きく関係してくる。
回路が同じ、コンデンサー、コイル、抵抗などの使用パーツも同じでも、
個々のパーツの配置や取りつけ方法が異れば、音は変るし、聴感上のSN比も良くなれば悪くなることもある。

私がステレオサウンドにいた頃のスピーカーは、海外製品でネットワークの構成に、
プリント基板を使っていないものは、ほとんどなかった。
一方国産スピーカーは、いわゆる598のスピーカー(スピーカー1本の価格が59800円のもの)でも、
ネットワークにプリント基板を使ったものは見たことがない。
たいていが木のベースにパーツを固定して、パーツのリード線同士をハンダ付けもしくは圧着している。

エンクロージュア内部の音圧は高い。ネットワークは振動に取り囲まれている。

プリント基板の採用は絶対悪だと言いたいわけではない。
ただ細心の注意が求められる。
ネットワークの設置場所は、エンクロージュア内のどこなのか。またプリント基板の向きはどうなのか。
こんなことでも、聴感上のSN比には影響する。
プリント基板の材質も、もちろん影響する。

スピーカーのネットワークだけでなく、アンプ、CDプレーヤーの大半に使われているのは、
ガラスエポキシ基板である。

20年ほど前に、マークレビンソンが、No.26Lのプリント基板を、
ガラスエポキシからテフロン製のものに交換したNo.26SLを出し、その音の違いが話題になった。
プリント基板が異るだけで、回路もその他の使用パーツはまったく同一なのに、
大きく音が変化したからだ。

このときテフロン基板の電気的特性の良さが注目されたが、理由はこれだけだろうか。

アンプの自作経験がある方のなかには、
プリント基板の材質によって音が違うのは経験されているだろう。
テフロン基板なんてものは入手が容易でないため比較対象に入らなかったが、
少なくともベークライト基板とガラスエポキシ基板の音を較べると、
電気的特性、信頼性ではガラスエポキシが基板が上だし、価格も高いが、
こと音に関しては、ガラスエポキシ基板がいいとは言い切れない。

Date: 1月 7th, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その37)

エンクロージュアの仕上げで、スピーカーの音は変る。

ツキ板と塗装の違いもあるし、
塗装にしても、一回だけの塗装と2回、3回と重ね塗りしたものも違うし、
一般的なウレタン塗装と、ダイヤトーンがDS10000で採用した漆黒塗装でも、大きな違いがある。

エンクロージュア表面の仕上げが音に影響することは、具体例を細かく挙げなくても周知のことだろう。

エンクロージュアの表面は、なにも表から見えているだけではなく、
エンクロージュア内部から見れば、内側もまた表面である。

外側の表面を丁寧に仕上げているスピーカーでも、エンクロージュア内部、
内側の表面を仕上げているものは、おそらくほとんど存在しないだろう。

けれど、エンクロージュア内部の音は、吸音材の違いが音となって表われるように、封じ込められるものではない。

手間もお金もかかるのはわかっている──。
聴感上のSN比をさらに高めるためには、内側の表面も仕上げたほうがいい。

Date: 1月 6th, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その36)

聴感上のSN比に関係するものとして、エンクロージュア内部の吸音材もあげられる。

ダイヤトーンのDS5000は、SN比の劣化を嫌い、グラスウールではなく100%のウールを採用している。
ビクターのZero-L10もそうだ。

グラウスウールは工業製品で、繊維の一本一本がほぼ同じ太さで同じ長さ。
つまりグラスウールが立てる音、いいかえれば雑音はある帯域に集中する。
帯域が分散してれば、それぞれのレベルも低く、それほど聴感上のSN比を劣化させないが、
なまじ均一なものをつくるのが得意な日本製だと、それが裏目に出てしまう。

4343当時のアメリカのグラスウールは、日本製ほど繊維の太さも長さもそれほど揃っていない。
工業製品としては、出来が悪いということになるのだが、このことがかえって聴感上のSN比を、
国産グラスウールほどは劣化させなかった。

グラスウールを押しつぶしたときの音を聴いてみるとわかる。
その音がエンクロージュア内で発生しているのだ。

Date: 1月 5th, 2009
Cate: 4343, JBL, 井上卓也

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その35)

ステレオサウンド 63号の記事で井上先生がやられていることは、
4343の聴感上のSN比を高めることである。

そのために音響レンズ2308のフィンの間に消しゴムを小さく刻んだものをはめていく、
2405の取付け穴のメクラ板の鳴きを抑えるためにブチルゴムを、ほんのすこし貼る、などである。

大事なのは、雑共振を適度に抑えられていること。

たとえばメクラ板全面にベタッとたっぷりのブチルゴムを貼れば、ほとんど鳴きを抑えることは出来るが、
音が必ずしも良くなるものではないことは、言うまでもないことだろう。

しかも重要なのは、井上先生がやられていることは、気に喰わなければすぐに原状復帰できる点である。

だからハンダ付けを必要とするパーツの交換については、いっさい語られていない。

ネットワークのコンデンサーを、違う銘柄のモノに交換する場合、
まず既存のパーツを取り外すためにハンダゴテを当てる。
当然熱が加わる。取り外すパーツにも、それ以外のパーツにも、である。
この熱が、少なからずパーツに影響をあたえる。しかもその影響を取り除くことはできない。

井上先生が言われていたのは、アンプでもスピーカーでもいい、
パーツに熱を加えたら、それだけ音は変化(劣化)する。決して元には戻せない、ということだ。

交換したコンデンサーをまた外して元のコンデンサーを取りつけても、
以前のまったく同じ音にはならないことは肝に銘じておきたい。

このことは修理にも言える。
音をよく理解しているメーカーは、アンプの修理の場合、片チャンネルのあるパーツを交換した際、
異常がなくても、反対チャンネルの同じパーツを交換する。
片チャンネルだけのパーツの交換では、熱による影響によって、微妙とはいえ、
左右チャンネルの音に無視できない音の差が生じるためである。

ブチルゴムは、貼った音が気に喰わなければ剥がせばいい。
全面的に気にいらなくても、すこしでもいい点を感じとることが出来たら、
ブチルゴムの大きさや貼り方を工夫してみる。
さらにはメクラ板を、いろんな材質で、厚みを変えて作ってみるという手もある。

そうやって経験を、ひとつひとつ積み重ねていくことは、いずれ宝となる。