Archive for category 名器

Date: 3月 17th, 2012
Cate: 名器

名器、その解釈(その6)

昨年10月5日に四谷三丁目・喫茶茶会記で行った工業デザイナーの坂野博行さんとの、
「オーディオのデザイン論」を語るために、の中で、
パラゴンの話になったときに坂野さんから出たキーワードが、この「スケール」である。

タンノイのオートグラフとウェストミンスターとのあいだに私が感じていることについては、
違う方向から語るつもりでいたのだが、坂野さんのいわれた「スケール」を聞いて、
これほど簡潔に表現できるキーワードがあったことに気がついた。

ここでいう「スケール」とは、製品そのもののスケールという意味ではない。
製品そのもののスケールでいえば、オートグラフとウェストミンスターとほぼ同等か、
むしろウェストミンスターのほうがスケールは大きいといえるところもある。

けれど、坂野さんが使われた意味での「スケール」では、
私の解釈ではオートグラフのほうがスケールが大きい、ということになる。

坂野さんは、このとき、「スケール」についてパラゴンとの対比で同じJBLのハーツフィールドを例に挙げられた。
パラゴンとハーツフィールドは、どちらもJBLの家庭用スピーカーシステムとして、
アメリカのいわば黄金時代を代表するモノ(名器)であるけれど、
ハーツフィールドはモノーラル時代の、パラゴンはステレオ時代になって開発されたスピーカーシステムであり、
どちらが見事とか、素晴らしい、とか、そういった比較をするようなものではないのだが、
このふたつのスピーカーシステムを生み出した発想の「スケール」ということになると、
パラゴンの方がハーツフィールドよりも大きい、ということになる(そう私は聞いていた)。

ハーツフィールドとパラゴンとでは、
ハーツフィールドのほうが美しいスピーカーシステムだと思っていた時期があった。
いまも、このスピーカーが似合う部屋のコーナーに収められたときに醸し出される雰囲気には魅かれるものがある。

けれどパラゴンには、ステレオ用スピーカーシステムとして左右のスピーカーをひとつにまとめてしまうという、
そういう意味での「スケール」の大きさがあり、
これに関しては、モノーラル、ステレオという時代背景も関係していることは百も承知のうえで、
ハーツフィールドには、仕方のないことだが、パラゴン的な「スケール」の大きさは乏しい、と思う。

この「スケール」がタンノイでは、逆転してモノーラル時代に生み出されたオートグラフに感じられ、
ステレオ時代になってからのウェストミンスターには、ないとはいわないまでも稀薄になっている。

Date: 10月 6th, 2011
Cate: 名器

名器、その解釈(その5)

ウェストミンスター・ロイヤル/SEを名器と思えないのは、
なにもウェストミンスターが現行製品だから、というのが理由ではない。

JBLのパラゴンは、いまでは製造中止になってひさしいが、
私がオーディオに関心をもちはじめたころ(1976年当時)は現行製品だった。
実物を見たのは数年後であったし、
当時はパラゴンからは私が求めている音は出てこない、という思い込みもあったけれど、
それでもパラゴンは名器である、と感じていた。

同じタンノイのスピーカーシステムなのに、
オートグラフを名器として感じ、ウェストミンスターを名器とは思えない、
現行製品であってもパラゴンは名器と直感したのに、ウェストミンスターはそうではなかった。

誤解のないようにことわっておくが、
ここであげている3つのスピーカーシステム(オートグラフ、ウェストミンスター、パラゴン)では、
名器とは思えないウェストミンスター・ロイヤル/SEは完成度が高いところにあるといえるし、
鳴らしていくうえでの、いわゆるクセの少なさもウェストミンスターである。

ウェストミンスター・ロイヤル/SEはよく出来たスピーカーシステムだ、と思う。
なのに、どうしてもウェストミンスターは、私にとって名器ではない。

オートグラフに感じられてウェストミンスターに感じられないもの、
パラゴンに感じられてウェストミンスターに感じられないもの、
つまりオートグラフとパラゴンに共通して感じられるもの、とはいったいなんなのか。

「スケール」だと思う。

Date: 9月 1st, 2011
Cate: 名器

名器、その解釈(その4)

「名器」ときいて、私がすぐに思い浮べるオーディオ機器は、すでに製造中止になったものばかりである。
でも、これは私だけのこと、とは思えず、「名器」ときいて、最新製品を思い浮べる人は少ないように思う。

少なくともオーディオにおいての「名器」は、
新製品として世に登場して、それからある長さの期間を経たモノではないだろうか。

この、ある長さの期間は、具体的に何年と決まっているわけではない。
たとえばタンノイのウェストミンスターは1982年に登場している。
約30年が経ち、その間に、幾度かの改良が保護され、ウェストミンスター・ロイヤル/SEとなっている。
これは、もう名器と呼んでいい、と思いながらも、なぜか、私の中ではオートグラフは名器と素直に呼べても、
ウェストミンスターに対しては、抵抗感とまではいえないけれども、
素直に名器とは呼べないのはなぜかと、自分でも不思議に思っている。

ウェストミンスターに、とくに現行のウェストミンスター・ロイヤル/SEに、
オートグラフと比較して云々、というケチをつけるところはない。
フロントショートホーンのつくりにしても、オートグラフは直線的なホーンだったのに対して、
ウェストミンスターでは手間をかけて曲線に仕上げている。
搭載されているスピーカーユニットも、最初のウェストミンスターはフェライト磁石採用で、
この点ですこしがっかりしたのが正直なところだが、タンノイもそのことは理解していたのか、
現在のユニットは見事だと感心してしまう。

それにウェストミンスター・ロイヤル/SEは2006年登場とはいうものの、ポッと出の新製品ではなく、
その時点で24年の月日を経てきている。

オートグラフを名器と呼ぶのであれば、
ウェストミンスター・ロイヤル/SEを、名器と呼ばない理由は思い浮ばない。
にも関わらず、こういうふうに書いていっても、ウェストミンスター・ロイヤル/SEは、
私にとって名器として、いまのところ存在していない。

Date: 12月 13th, 2010
Cate: 名器

名器、その解釈(その3)

そう、ほとんどの機種は、感覚的にも直感的にも名器だと納得できる。
それはステレオサウンド 50号を最初に読んだとき、まだ16歳だったけれど、
それぞれの写真から伝わってくるもの、それぞれの筆者の書かれたものから伝わってくるのはわかった。

それでもJBLのオリンパスS7R、ARのAR3aは、これもなのか……と思うところも正直あった。

オリンパスが選ばれるのであれば、なぜ同じJBLのハークネスがないのか。
柳沢氏の文章を読んでも、完全には納得できなかった。
私は、オリンパスよりもずっとハークネスが、スピーカーシステムとして美しいと思っている。
それにハークネスは、JBLのスピーカーシステムとしてはじめて左右対称に作られたモノでもある。
ステレオ再生ということを念頭に置いて作られた、それほど大きくもなく、
いま見ても美しいスピーカーシステムが、ない。

オリンパスに較べるとAR3aは、まだ納得がいく。
ARのスピーカーシステムが登場した時代を体験しているわけではないが、
それでもいくつか、このころについて書かれた文章を読めば、
ARのアコースティックサスペンション方式のもたらした衝撃がどれほど大きかったのかは理解できる。
ブックシェルフ型スピーカーは、ARがつくりだした、ひとつのジャンルであるのだから。
だから、頭では理解できる……。

あとひとつあげれば、マッキントッシュのMC240。
MC3500、MC275が選ばれているし、この2機種と比較すると、
なんとなく影が薄い、そんな存在のMC240がなぜ選ばれているの? という疑問がないわけじゃない。
それでも、理解できないわけでもない。

ステレオサウンド 50号が出たのは、31年前。
いま同じ企画を行ったら、それでも50号で選ばれたオーディオ機器の多くは、また選ばれるだろう。
そして、何が加わるのだろうか。

Date: 12月 12th, 2010
Cate: 名器

名器、その解釈(その2)

ステレオサウンド 50号の旧製品 State of the Art 賞の扉にはこう書いてある。
     *
往年の名器の数々の中から、〝ステート・オブ・ジ・アート〟賞に値する製品を選定していただいた。
以下に掲載した製品がその栄誉ある賞を獲得した名器たちであるが、いずれもその後のオーディオ製品に多大な影響を与えた機種であり、また今日のオーディオ発展のための大きな原動力ともなったものである。ここではこれらの名器がなぜ名器たり得たのか、そこに息づいているクラフツマンシップの粋、真のオーディオ機器の精髄とは、を探っている。
     *
ここには名器という言葉の他に、クラフツマンシップの粋、という言葉もある。

古い読者の方なら「クラフツマンシップの粋」ときいて、
このころステレオサウンドに連載されていた同盟の記事を思いだされるはずだ。
「クラフツマンシップの粋」の1回目は37号(1975年12月発売)に載っている。
とりあげられているのはマランツの#7、#9、#10B。
2回目は38号。JBLのSG520、SE400S、SA600。3回目は39号で、ガラード301、トーレンスTD124。
4回目は41号。JBLのハーツフィールド。
5回目は43号、QUADの管球アンプ、6回目は44号、アンペックスのデッキ。
7回目は45号でエレクトロボイスのパトリシアン・シリーズ、
8回目(最終回)はノイマンDSTなどのカートリッジだ。

この「クラフツマンシップの粋」でとりあげられたオーディオ機器は、
ほとんど旧製品 State of the Art 賞として選ばれている。

50号で掲載されているの機種は以下のとおり。カッコ内は執筆者。
●スピーカーシステム
 エレクトロボイス Patrician 600(山中)
 JBL D30085 Hartsfield(柳沢)
 タンノイ Autograph(岡)
 KEF LS5/1A(瀬川)
 シーメンス Eurodyn(長島)
 JBL Olympus S7R(柳沢)
 ローサー(ラウザー) TP1(上杉)
 AR AR-3a(岡)
●スピーカーユニット
 ウェスターン・エレクトリック 594A(山中)
 グッドマン AXIOM 80(瀬川)
 ジェンセン G610B(長島)
●コントロールアンプ
 マランツ Model 7(山中)
 JBL SG520(菅野)
 フェアチャイルド Model 248(岡)
●パワーアンプ
 マランツ Model 9(長島)
 マッキントッシュ MC3500(山中)
 マッキントッシュ MC275(菅野)
 マッキントッシュ MC240(上杉)
 マランツ Model 2(井上)
 QUAD QUAD II(岡)
 ラックス MQ36(井上)
●FMチューナー
 マランツ Model 10B(長島)
●プレーヤーシステム
 EMT 927Dst(瀬川)
●ターンテーブル
 ガラード 301(柳沢)
 トーレンス TD124(岡)
 T.T.O R-12(瀬川)
●カートリッジ
 ノイマン DST(山中)
 デッカ MKI(岡)
●トーンアーム
 SME 3012(瀬川)
 グラド Laboratory Tone-Arm(瀬川)

ほとんどが、名器として個人的にも納得できるモノばかりである。

Date: 12月 11th, 2010
Cate: 名器

名器、その解釈(その1)

「名器」と呼ばれるモノが、どんなジャンルにおいてもある。
もちろんオーディオにも、名器と呼ばれたモノは、いくつもあった。

名器と呼ぶにふさわしいオーディオ機器とは、いったいどういうものなのだろうか。
一流品、高級品と呼ばれるものが、名器とはかぎらない。
名器は一流品ではあっても、必ずしも高級品(高額品)ではない。

あれは名器だ、といったことを口にすることもあるし、耳にすることもある。
納得できるときもあれば、口に出して反論はしないまでも首を傾げたくなるときもある。
私が名器としているモノを、ある人はそうは受けとっていないかもしれないし、また反対のこともある。
そういうモノは、果して名器と呼べるのか。
すくなくとも名器と呼ばれる以上は、私も他の人も、ほとんど多くの人が認めるモノでなくてはならないのだろうか。
そんなモノ、そういう名器は存在してきただろうか。

そして、ずっと名器の名を欲しいままにしてきたモノは、あるのだろうか。

1978年の暮に出たステレオサウンド 49号の特集は”State of the Art” 賞だった。
その2年前の41号で、コンポーネントステレオ 世界の一流品、という特集をやっているのが、
49号の前身ともいえる。

State of the Art は数年後に Component of the year 賞に名称がかわり、
さらにステレオサウンド・グランプリとなり、現在も年末に出る号の特集として定着している。
これらの号で取り扱っているのは現行製品だけだが、49号のすぐあとに出た50号は、
ステレオサウンド創刊50号記念特集として、栄光のコンポーネント 旧製品 State of the Art として、
過去の製品、スピーカーシステムではJBLのハーツフィールド、タンノイのオートグラフ、
エレクトロボイスのパトリシアン600、マランツ、マッキントッシュの管球アンプ、
ガラード301にトーレンスTD124、ノイマンのDSTなどが選ばれている。

この50号に登場するモノは、ステレオサウンドの筆者が選んだ「名器」といえる。