Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その11)

BBCのライセンスが与えられていることをあらわすLSナンバーのつくスピーカーシステム。
現在入手できるのは、ロジャース・ブランドのLS3/5A。
これには通常のヴァージョンの他に、65th Anniversary Editionもある。
それからLS5/9。こちらも型番の末尾に”65th Anniversary Edition”がつく。

ロジャースといっても、以前の体制とは違っていて、いまでは中国で製造されている、ときく。
とはいえ写真で見ても、販売店に並んでいるモノを見ても、少なくとも見た目の雰囲気は、
昔のロジャースのLS3/5Aそのものに感じられる。

同様に中国で生産されていると言われているのが、チャートウェル・ブランドのLS3/5Aだ。

これらとは異りイギリスで製造されているのが、
スターリング・プロードキャストのLS3/5a V2とLS3/6。
それにグラハムオーディオのLS5/9である。

これらの中で、スターリング・プロードキャストのLS3/5a V2の音は、
ハイエンドオーディオショウでたまたま入ったブースで鳴っていた。

LS3/5a V2の真横にもスピーカーシステムが置いてあったし、後にも複数のスピーカーシステムが並べてあったが、
鳴っていた音を聴いて、LS3/5a V2が鳴っていることはすぐにわかった。

これはきちんと聴いておきたいと思い、いちばん前の席がひとつ空いているのを見つけ坐った。
でもすぐにスピーカーが他の機種に切り替えられてしまった。

じっくりとは聴けなかった。一曲のみである。
しかも聴いたことのディスクではあった。

ただ音量が少しばかりLS3/5aには大きすぎていた。
女性ヴォーカルのCDだったが、そこでの張った声がヒステリックになりかけていた。
あきらかにLS3/5aというスピーカーに要求する音量をこえたところで鳴らしているからである。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その10)

忘れ去られていく音(音の良さ)というのは、確かにある。
これについてはいずれ新たに項を立てて書いていきたいテーマである。
BBCモニターの音は忘れ去れていく音に入っていた。

スペンドール、ハーベスがあったことをわすれているわけではない。
だがハーベスもハーウッドからアラン・ショウに代替わりしてからのスピーカーシステムには、
私個人は惹かれなくなっていた。
HL Compact 7ES-3が出てくるまでのハーベスのスピーカーに関しては、そのせいもあって関心が薄かった。

スペンドールもスペンサー・ヒューズから息子のデレク・ヒューズの時代になり、
BCIIに匹敵する傑作が生まれなくなっていた。

この二社が輝いていれば、少しは状況は違っていたのか、というと、
必ずしもそうとはいえない、とも思う。
HL Compact 7ES-3はアラン・ショウのハーベスのスピーカーの中で、もっともいいスピーカーだが、
世評も良かったはずなのだが、BBCモニターの音に対する関心が高まってくるようなことはなかった、と感じている。

だがLS3/5Aに対する関心だけは違っていた。
LS3/5Aが再評価されるようになったのは、この10年くらいだろうか。
中古市場でも人気がある、ときいている。

でも、この現象はBBCモニターが、
というよりもLS3/5Aという特定のスピーカーシステムに対しての現象だと私は受けとっていた。

けれどどうも私が間違っていたようだ。
LS3/5Aだけでなく、LS3/6、LS5/9の復刻版が出ている。
LS3/6を作っているのは一社だけだが、LS3/5Aは三社、LS5/9は二社が作っている。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その9)

ロジャースのPM510を手離して、それからいくつかのスピーカーシステムを鳴らしたあと、
BBCモニタースピーカーの原点ともいってよいLS5/1を手に入れた。

まだインターネット・オークションはなかった時代だから、
オーディオ雑誌の巻末に載っている売買欄の「売ります」に、LS5/1が載っていた。

そこにはKEF LS5/1Aとあったが、実際にはLS5/1だった。
美品とあったけれど、お世辞にも美品とはいえなかった。
附属の専用アンプのオーバーホール済み(ACバランス、DCバランスともに調整済み)と書いてあったが、
中をみればわかるのだが、いったいどこを調整したの? といいたいくらい状態だった。

LS5/1とPM510の音の傾向はずいぶんと違うところがある。
それでも音が鳴った瞬間、いいなぁ、と反応してしまっていた。
改めてBBCモニターの音には惹かれてしまうことを再確認した。

これが1990年だった。
このころBBCモニターの新製品はまったく登場してこなくなっていた。
BBCの放送局で使用する性格のモノだけに、新製品が毎年登場するわけではない。
それはわかっていても、オーディオ雑誌の誌面にもほとんど登場していなかった、と記憶している。

イギリスのスピーカーといえば、タンノイがあったしB&W、ATCなどもあった。
B&WのスピーカーはタンノイよりもBBCモニターの方に近い、といえなくもないが、
同じとは決していえず、優秀なスピーカーという印象に、私の場合、留まってしまう。

もうBBCモニターの音、その流れを汲む音は忘れ去られてしまっているのか。
ますますそう感じるようになっていっていた。

Date: 11月 1st, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その8)

1981年のオーディオフェアで、もうひとつよく憶えているのはエレクトリのブースだった。
マッキントッシュのXRT20が鳴っていた。菅野先生によるデモだった。
ブースに人がはいりきれないほどで、立って聴いていた。それでも窮屈な思いをしながら聴いた。

この年の6月に出たステレオサウンド 59号の新製品紹介のページで、
菅野先生がXRT20について書かれていた。
その数ヵ月後のオーディオフェアである。
衆目を集めるのは当然とはいえ、オーデックスのブースの人の入り具合がなんとなく悲しく思えた。

本来ならば瀬川先生が鳴らされるはずだったのが無理になったことも重なって、
これが人気のあるスピーカーとさほどでもないスピーカーの違いでもあるという現実だった。

BBCモニター系列のスピーカーシステムは、アメリカのスピーカーシステムからすれば、地味といえた。
それに物量投入という点でも、BBCモニターにはもの足りなさをおぼえていたことは、すでに書いた。
BBCモニターの音に惚れ込んでいる私でもそうなのだから、
BBCモニターの音に魅力を感じない人にとっては、よけいにもの足りなさとなるはず。

それに瀬川先生も書かれているように、クリアーでシャープな音、
いいかえれば最新の音の傾向に馴染んでしまっている耳に、
音のピントを会わせるのに時間が必要だったのかもしれない。

私はそのころは最新の音に馴染む機会はあまりなかったし、
スペンドールのBCIIの音が心のどこかに残っているくらいだったから、
条件的には決していいとはいえない環境で鳴っていたPM510の音に、ピントはすぐに合った。
というよりもとくに合わせる、という意識はなかった。

私には、PM510の音は異色などではなかった。

Date: 11月 1st, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その7)

ロジャースのPM510を聴いたのは、オーディオフェアでの輸入元であったオーデックスのブースだった。
1981年のオーディオフェアは私にとって初めてのオーディオフェアであったし、
オーデックスのブースでは予定では瀬川先生がPM510を鳴らされる、ということになっていた。

オーディオ雑誌に掲載されていたオーディオフェアの予定表を見ながら、
これだけは絶対に聴き逃せない、と思い楽しみにしていた。
けれど直前に出たオーディオ雑誌に載っていた予定表からは、瀬川冬樹の名前が消えていた。
えっ? と思いつつも、以前の予定表と同じように、その日、その時刻にはPM510のデモが行なわれる。

結局、瀬川先生は来られなかった。
あとで知ることになるのだが、このときすでに入院されていた。

よくインターナショナルオーディオショウの条件はひどい、という人がいる。
出展社のスタッフにも来場者にもいる。
けれど、晴海で行なわれていたころのオーディオフェアの条件は、もっと厳しいものだった。

そんなところで音を聴いて、何がわかるの? という人もけっこう多い。
それでもわかることは、はっきりとある。
1981年のオーディオフェアのオーデックスのブースで、私はPM510を初めて聴いた。

いま思えばさほどでもなかったけれど、それでもステレオサウンド 56号に瀬川先生が書かれた音が、
少なくとも私には聴き取ることができた。

どんな条件で聴いても、自分にとって運命のスピーカーといえるモノであれば、すぐにわかる。
そのことを瀬川先生から聞いたことがある。

そういう存在のスピーカーがあることを感じとれるのが、直感であり、
スピーカー選びで大事なことは、この直感だけでしかない。

どんなに試聴環境を整えようと、自宅でいま鳴らしているスピーカーと時間をたっぷりかけて比較試聴しようと、
それで自分にとって正しいスピーカーが選べるとは限らない。
むしろ誤ってしまう可能性を自分で高めているだけなのかもしれない。

そうやって私はPM510を選んだ。

Date: 11月 1st, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その6)

ロジャースのPM510は、ピーエム・ファイヴ・テンと読む。
ピーエム・ゴーイチマルでもピーエム・ゴヒャクジュウでもない。

PM510に惚れ込んだ人に対しては、510(ファイヴ・テン)で通じる。

書いていて思い出した。
以前、PM510をことを話していたら、「ほんとうにファイヴ・テンっていうんですか」と言ってきた人がいる。
揚げ足を取りたい感じだった。
惚れ込んで買ったスピーカーの正しい呼称を間違えるはずがないし、勝手に読み方を考えたわけでもない。

PM510がステレオサウンドに登場したのは56号。
瀬川先生の文章によってだった。

PM510の音を、こう書き出されている。
     *
 PM510は、本誌試聴室と自宅との2ヵ所で聴くことができた。
 全体の印象を大掴みにいうと、音の傾向はスペンドールBCIIのようなタイプ。それをグンと格上げして品位とスケールを増した音、と感じられる。BCIIというたとえでまず想像がつくように、このスピーカーは、音をあまり引緊めない。たとえばJBLのモニターや、国産一般の、概して音をピシッと引緊めて、音像をシャープに、音の輪郭誌を鮮明に、隅から隅まで明らかにしてゆく最近の多くの作り方に馴染んだ耳には、最初緊りがないように(とくに低音が)きこえるかもしれない。正直のところ、私自身もこのところずっと、JBL♯4343の系統の音、それもマーク・レヴィンソン等でドライヴして、DL303やMC30を組み合わせた、クリアーでシャープな音に少々馴染みすぎていて、しばらくのあいだ、この音にピントを合わせるのにとまどった。
     *
音の傾向がBCIIのようなタイプとあったのが、うれしかった。
しかも「グンと格上げして品位とスケールを増した音」である。
BCIIの音に惚れ込みながらも、オーディオマニアとしてモノとしてのBCIIにのめり込めるかというと、
どこが不満というわけではないけれど、もの足りなさをおぼえてしまう。

だからこそPM510の登場と、瀬川先生の文章のこの部分に、待望のスピーカーシステムの誕生(登場)だと思った。

これはもう早く聴きたかった。
実際に聴けたのは一年くらいしてからだった。

Date: 11月 1st, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その5)

こういう音が好きなんだ、と実感した最初のスピーカーシステムは、スペンドールのBCIIだった。
瀬川先生が熊本のオーディオ販売店に定期的に来られていた時に聴くことができた。
そのとき、もうひとつスピーカーがあった。JBLの4341だった。

このころすでに4341は製造中止になっていて4343に切り替って二年くらい経っていたはずなのに、
なぜか4341だった。
4341はすごいスピーカーだ、と感じた。
けれどその後に鳴らされたBCIIの音に惹かれた。

スピーカーシステムとしての性能の高さは、はっきりと4341が格段にBCIIよりも高い。
けれどどちらの音に惹かれるのか、といえば、BCIIとはっきりといえた。

BCIIも、このスピーカーをつくっているスペンドールも、BBCモニターの流れを汲んでいる。
つまり、この時がBBCモニターの音との出会いだった。

それから一年くらい経って聴いたBBCモニターはLS3/5Aだった。
その前にKEFのModel 105を聴いている。
この時代のKEFのスピーカーシステムも、私にとってはBBCモニター系列に属する音である。
ややきまじめすぎる印象はあるけれど。

ハーベスのMonitor HLも、しばらくして聴いた。
それからロジャースのPM510を聴いた。

BCIIからPM510を聴くまでに、他のスピーカーシステムも聴いてきた。
その中にはイギリスのスピーカーを代表する存在であるタンノイも含まれる。

同じイギリスのスピーカーであっても、BBCモニター系列の音とは違う。
私が惹かれるのは、この時代はBBCモニターの音であった。
BCII、Model 105、LS3/5A、Monitor HL、PM510、
その音を思い出すと(美化されているのだろうが)、グッドリプロダクションとはまさにこういう音であり、
いまも惹かれていることを感じてしまう。

Date: 10月 31st, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その4)

1983年にステレオサウンドからTHE BRITISH SOUNDという別冊が出た。
この本に岡先生によるBBCモニター物語という記事がある。
この中で、岡先生が書かれている。
《BBCモニターのことを書くべき最適任者は、故瀬川冬樹さんだったと思う》と。
BBCモニターに関心のある人の多く(すべてといっていい)が、首肯いたことだろう。

瀬川先生によるBBCモニター物語、
きっと瀬川先生自身も書きたいと思われていただろうだけに、
読みたかった……、という気持は募る。

岡先生はBBCモニター物語を書くにあたり、
ステレオサウンド編集部から、瀬川先生が渡英の際に入手されたいくつかの資料を借覧されている。

その瀬川資料の中に、BBCモニターの型番のクラシフィケーションの説明があり、
その資料を元に岡先生がLSナンバーの区分について書かれている。
     *
●LS1/ アッセンブルされたラウドスピーカーで、用途は種主あるが主力にはなっていない(現用正式モデルではない)。
●LS2/ シャーシ・ユニットのみのもの。
●LS3/ アッセンブルされたスピーカー(主として外録その他に使用される。可搬性をもつ小型のもの)。
●LS5/ アッセンブルされたスピーカー(スタジオ用)。
 将来は、LS1/、LS2/、LS5/のクラシフィケーションを用いることになり、外録用のLS3/シリーズもLS5/のコード番号のなかに組み込まれることになる、という注記がある。
     *
LS5/9は20cm口径のウーファーとソフトドーム型トゥイーター、
エンクロージュアの外形寸法はW36.0×H55.0×D36.0cm。
本来ならばLS3/8という型番がついても不思議ではないし、
むしろ、その方が、このスピーカーシステムの性格をはっきりとさせると思うのだが、
岡先生が書かれているとおり、LS3/シリーズはLS5/シリーズに組み込まれたことがわかる。

Date: 10月 31st, 2014
Cate: BBCモニター, PM510, Rogers

BBCモニター、復権か(その3)

PM510をいいスピーカーと認めている人は確かに少ない。
それでもいいじゃないか、と思うのだが、
PM510をいいスピーカーとしながらも、PM510IIを改良型として高く評価している人をみると、
この人が感じているPM510の良さと私が感じているPM510の良さは違っているんだな、と思ってしまう。

PM510はロジャースのLS5/8の内蔵ネットワーク版である。
LS5/8は型番が示すようにBBCモニターであり、
QUADのパワーアンプ405にデヴァイディングネットワークを内蔵しバイアンプ駆動するというシステム。
ユニット構成、エンクロージュアはLS5/8、PM510は同じである。

このLS5/8はロジャース(スイストーン)が買収した会社チャートウェルが開発したモノだ。
チャートウェル時代の型番はPM450E(LS5/8)、PM450(PM510)だった。
もちろんチャートウェルのLS5/8も存在している。

ロジャース製とチャートウェル製は、若干音のニュアンスが違う、といわれている。
そうだろう。
同じ規格で作られているLS3/5Aが、各社、音のニュアンスが微妙に違うのと同じである。
チャートウェル製も聴きたいという気持はあるけれど、
ロジャースのPM510に惚れ込んでいたのだから、
どちらがいいのかを判断するようなことは、いまではどうでもよくなっている。

ロジャースからはLS5/8に続いて、中型モニターのLS5/9が登場する。
ちょうどステレオサウンドにいたころだった。
聴く機会は何度もあった。

でもLS5/8とLS3/5Aの間に位置するサイズ。
このサイズにした理由をついあれこれ考えてしまうくらいに、
私には中途半端な大きさに思えたし、そうなると出て来た音もなんとなくそう感じられてしまう。

でもPM510の低音をぶよぶよじゃないか、という人はLS5/9の方を高く評価していた。

Date: 10月 31st, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その2)

ロジャースのPM510はいいスピーカーだ。
けれど改良型にあたるPM510IIは、少しもいいとは思えなかった。

PM510の低音はぶよぶよじゃないか、という人たちは、PM510IIの方がずっといい、といっていた。
だが締っている低音が優れた低音ではないし、表現力豊かな低音でもない。
私が聴きたい音楽にとって、PM510の低音は不満となることはなかった。

PM510IIは中途半端に感じてしまう。
PM510の良さが、もう感じられなかった。

PM510IIが、他のスピーカーシステムの改良型であれば、もう少し認めることもできると思うのだが、
惚れ込んだスピーカーシステムの改良型として登場して、
惚れ込んだ男に愛想をつかしてしまう出来のモノを認めることはできない。

今年二月に、ある人のリスニングルームを訪れた。
メインのスピーカーシステムはアメリカ製のモノ。
だが部屋の片隅にPM510が置いてあった。
PM510IIではなく、PM510である。

こればかりは手離せない、ということだった。
その気持はよくわかる。

瀬川先生が《心から「欲しい」》と思われたスピーカーシステムとしての良さは、
PM510にあり、PM510IIにはないと言い切れる。

Date: 10月 30th, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その1)

LSナンバーをもつ、いわゆるBBCモニターが商品化、市販されるようになったのは1970年代からである。
LS3/5Aは最初はロジャース製だけだったが、
チャートウェル、ハーベス、KEF、オーディオマスターからもLS3/5Aが登場した。
これがBBCモニターの全盛だったようだ。

LSナンバーのBBCモニターは、LS5/9を最後に途絶えてしまった。
BBCモニター、BBCモニターの流れを汲むスピーカーシステムに惹かれてきた私は、寂しい思いをしていた。

LS3/5Aはいまでも人気である。
けれど日本ではBBCモニターの人気が高かった、とは思えない。
むしろ低い。

瀬川先生も嘆かれていた。
私の手元には瀬川先生のメモがある。
その中にロジャースのPM510について書かれたものがある。
三年前にも書いているが、もう一度書いておく。
     *
◎どうしてもっと話題にならないのだろう、と、ふしぎに思う製品がある。最近の例でいえばPM510。
◎くいものや、その他にたとえたほうが色がつく
◎だが、これほど良いスピーカーは、JBLの♯4343みたいに、向う三軒両隣まで普及しない方が、PM510をほんとうに愛する人間には嬉しくもある。だから、このスピーカーの良さを、あんまりしられたくないという気持もある。

◎JBLの♯4345を借りて聴きはじめている。♯4343よりすごーく改良されている(その理由を長々と書く)けれど、そうしてまた2歩も3歩も完成に近づいたJBLを聴きふけってゆくにつれて、改めて、JBLでは(そしてアメリカのスピーカーでは)絶対に鳴らせない音味というものがあることを思い知らされる。
◎そこに思い至って、若さの中で改めて、Rogers PM510を、心から「欲しい」と思いはじめた。
◎いうまでもなく510の原形はLS5/8、その原形のLS5/1Aは持っている。宝ものとして大切に聴いている。それにもかかわらずPM510を「欲しい!!」と思わせるものは、一体、何か?

◎前歴が刻まれる!
     *
一部、判読困難な文字がいくつかあり、数カ所、書き間違えているかもしれないが、
瀬川先生がPM510をどう思われていたのか、そして日本でのPM510の評価も知ることはできる。

私もPM510には惚れ込んだ、だから、このスピーカーシステムも相当に無理して買った。

Date: 10月 20th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その10)

テクニクスのEPC100Cは、
1978年11月にMK2(65000円)、1980年11月にMK3(70000円)に改良されている。
MK2もMK3も聴く機会はなかったが、MK4(これが最終モデルである。70000円)は、
ステレオサウンドにいる時に登場したので、試聴室でじっくりと聴く機会があった。

もともと忠実な変換器を目指して開発され、それをかなりのレベルで具現化しているカートリッジをベースに、
細かな改良を加えていった末のMK4であるから、悪かろうはずがない。

試聴条件は、EPC100Cを聴いたときとずいぶん違っている。
その間に、さまざまなカートリッジを聴く機会があった。
EPC100Cが登場したころとは、他のカートリッジの性能も向上している。

そういう中にあっては、以前のようにEPC100Cの「毒にも薬にもならない」音は、
もう魅力的に感じられなかった。

すこしがっかりしていた。
改良を受けることで、もっと魅力的なカートリッジに仕上っているのでは、と勝手に期待していたからでもあり、
私自身も変ってきていたためでもある。

私にとって一時期までは、日本の音ということでイメージするのは、EPC100Cの音だったことがある。
EPC100Cは製造中止にならず、地道に改良されていけば、名器になったかも、という想いもあった。

EPC100 CMK4を聴いたときから、32年が経ってやっと気がついた。
テクニクスは、一般的なイメージとしての名器をつくろうとしていたのではない、と。
標準原器としてのカートリッジとしてEPC100C MK4を評価すべきだったことに気づく。

Date: 10月 19th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その9)

菅野先生はEPC100Cについて、
ステレオサウンド 43号で「音質の聴感的コントロールは、意識的に排除されているようだが」と書かれている。

菅野先生はまたステレオサウンド別冊「テクニクス」号で、テクニクスの製品は、
「出た音が良いとか悪いとかいった感覚的な、芸術的な領域には触れようとしていないのが大きな特徴だ」
と書かれている。

つまりEPC100Cはカートリッジという、
レコードの溝による振動を電気信号に変換するモノとしての、徹底的な技術的追求から生れてきた、といえる。
いわば忠実な変換器としてのカートリッジである。

EPC100Cが登場した1976年はCD登場以前であり、
オーディオマニアは一個のカートリッジだけということはなかった。
最低でも二、三個のカートリッジは所有していた。
多い人は十個、それ以上の数のカートリッジを持っていた。

そしてかけるレコードによってカートリッジを交換する。
それは音の追求でもあり、カートリッジは嗜好品としても存在していた。

どのカートリッジメーカーも、嗜好品を作っているという意識はなかったはずだ。
それでもほぼすべてのカートリッジには嗜好品と呼びたくなる面が、このころはあった。

だからこそ、音の特徴が一言で言い表せるモノが多かった。
エラックのSTS455Eを例に挙げているが、
このカートリッジに私が感じていた良さ(特徴)は、
別の人が聴けば良さではなく、悪さにもなり得ることがある。

つまり私が感じていた良さは、私にとっては薬であったわけだが、
別の人にとっては毒になるわけで、どのカートリッジも「毒にも薬にもなる」面があった。

Date: 10月 18th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その8)

テクニクスのEPC100Cといっしょに聴いた他のカートリッジの音は、
その特徴を一言で表そうと思えばできなくはない。
けれどEPC100Cの音は、そのカートリッジを特徴づけるであろう音のきわだった特徴、
つまりその部分において、他のカートリッジよりも秀でていると感じさせるところがないように感じる。

たとえばエラックのSTS455Eだと艶っぽさを色濃く出してくる。
これだけがSTS455Eの特徴ではないのだが、STS455Eの音を思い出そうとすると、
やはり艶ということがまず浮んでくる。

これはSTS455Eというカートリッジの特徴(音の良さ)でもある反面、悪さの裏返しでもある。
STS455Eはいいカートリッジであったし、私も買って常用していた。
けれど完璧に近いカートリッジというわけではない。

足りないところもだめなところもある。
けれど、ときとして、足りないところ、だめなところがあるから、
STS455Eの音の特徴ははっきりと浮び上ってくる。

このことは何もSTS455Eに限ったことではなかった。
他のカートリッジにもいえる。

けれどEPC100Cには当てはまらないような気がする。

Date: 10月 17th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その7)

テクニクスのオーディオ機器で、音を聴いて「欲しい」と思ったのは、
カートリッジのEPC100Cが最初である。
1976年に登場したヘッドシェル一体のMM型カートリッジのEPC100Cは、60000円していた。
高価だった。

この当時のほかのカートリッジの価格。
たとえばEMTのTSD15は55000円、XSD15が65000円、デンオンのDL103は19000円、
エンパイアの4000D/IIIが58000円、シュアーのV15 TypeIIIが34500円だった。

輸入品のカートリッジだと60000円前後はあったけれど、
国産カートリッジで60000円というのは、価格だけでも話題になっていたようだ。

EPC100Cの評価は高かった。
     *
 振動系のミクロ化と高精度化、発電系の再検討とローインピーダンス化、交換針ブロックを単純な差し込みでなくネジ止めすること、そしてカートリッジとヘッドシェルの一体化……。テクニクス100Cが製品化したこれらは、はからずも私自身の数年来の主張でもあった。MMもここまで鳴るのか、と驚きを新たにせずにいられない磨き抜かれた美しい音。いくぶん薄味ながら素直な音質でトレーシングもすばらしく安定している。200C以来の永年の積み重ねの上に見事に花が開いたという実感が湧く。(瀬川冬樹 ステレオサウンド41号「世界の一流品」より)

 モノ時代からMMカートリッジの研究を続けてきたテクニクスが、いわば集大成の形で世に問う高精度のMM型。実に歪感の少ないクリアーな音。トレーシングも全く安定。交換針を完全にボディにネジ止めし、ヘッドシェルと一体化するという理想的な構造の実現で、従来のMMの枠を大きく超えた高品位の音質だ。(瀬川冬樹 ステレオサウンド43号「ベストバイ・コンポーネント」より)

 技術的に攻め抜いた製品でその作りの緻密さも恐ろしく手がこんでいる。HPFのヨーク一つの加工を見ても超精密加工の極みといってよい。音質の聴感的コントロールは、意識的に排除されているようだが、ここまでくると、両者の一致点らしきものが見え、従来のテクニクスのカートリッジより音楽の生命感がある。(菅野沖彦 ステレオサウンド43号「ベストバイ・コンポーネント」より)
     *
EPC100Cの音は、瀬川先生が熊本のオーディオ店の招きで定期的に行なわれていた試聴会で聴くことが出来た。
EMTやオルトフォン、エラック、エンパイア、ピカリングなどのカートリッジと聴いている。