Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 11月 9th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(ウーファーについて・その4)

2231Aで採用されたアルミ製のリングを、
マスコントロールリング(Mass Control Ring)を呼ぶのは実に的確といえる。

仮に2230と2231AのMmsがほとんど同じだとしよう。
LE14AのMmsと口径の違いからすると、150gぐらいなのではないだろうか。

LE15A、そのプロ版にあたる2215のMmsはともに97g。
コーン紙そのものはほとんど同じものだとすれば、
2230におけるアクアプラスによる質量増加は約50gで、この50g分がコーン紙全面ほぼ均一に分布している。
2231Aではマスコントロールリングが50g分になり、
こちらはコーン紙とボイスコイルボビンとの接着面のところにある。

2230と2231Aでは質量の分布の仕方が大きく異る。分散と集中である。
このことは仮にMmsが同じだとしても実際の動作では大きく違ってきても不思議ではない。

”JBL 60th Anniversary”には、マスコントロールリングにより、
低域の下限周波数の拡張だけでなく、堅くて軽いコーン紙を使うことで中低域のレスポンスも向上する、とある。

そうだと考えられる。
それにコーン紙とボイスコイルボビンとの接着面にマスコントロールリングがあることで、
この部分の強度はなしにくらべて増しているはず。
とすればボイスコイル(およびボビン)のピストニックモーションがより精確に振動板に伝わる、ともいえる。

Mmsが150gというのは確かに重いと受けとめがちな値だが、
どこに重いと感じさせる部分があるのか(分散か集中か)によって、
重たい振動板イコール中域までレスポンスが伸びない、とは一概にはいえない。

ただマスコントロールリングはアルミ製であるため導電性がある。
このため実際の動作では電磁制動がこの部分で発生する。

もしJBLがマスコントロールリングを他の素材(導電性のないもの)にしていたら、
とどうしても考えてしまう。

Date: 11月 8th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(ウーファーについて・その2)

2230はコーン紙の色からわかるようにアクアプラスが塗布されている。
アクアプラスは石灰を主成分としているときいたことがある。
はっきりとしたことはわからない。
しかも塗り方にノウハウがずいぶんあるようで、JBLのコーン紙の製造が日本でなされていたときも、
アクアプラスの塗布はアメリカで行っていた。

私は2230を搭載した4350は聴いたことはあるけれど、いい音で鳴っていたわけではなかった。
だからなんともいえないのだが、4350がいい音で鳴っているのを聴いたことのある知人によれば、
4350A(2231A搭載)よりも4350の方が、低音の質感は良かった、らしい。

そうかもしれない。
4310、4311も白いコーン紙のウーファーだし、
4345も表からみれば黒いコーン紙だが、
18インチ・ウーファーの2245Hはコーン紙の裏側にアクアプラスが塗布されている。

にも関わらず2230から2231Aになっていったのか。
ステレオサウンド別冊”JBL 60th Anniversary”によれば、
250Hzという低めのクロスオーバー周波数は効果的であるアクアプラスも、
4331、4333のようにミッドバスを持たないシステムの場合、クロスオーバー周波数は高くなる。
4331、4333は800Hzとなっている。

そうなるとアクアプラス塗布のウーファーは振動板が重くなりすぎて、
さらにアクアプラスは一種のダンプ剤でもあるため、中低域より上の帯域でレスポンスが波打つ、
感度の低下が明らかになるから、とある。

2230のmmsがどのくらいなのかはわからない。
ただアクアプラス塗布の14インチ・ウーファーのLE14Aは140gであるから、
2230は140gよりも重たいことだけははっきりしている。

Date: 11月 7th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(ウーファーについて・その1)

“THIELE SMALL LOW FREQUENCY DRIVER PARAMETERS AND DEFINITIONS”というPDFがある。
JBLのウーファー、フルレンジユニットのティール・スモール・パラメータの一覧表である。

14のパラメータが載っている。
その中に”Mms”がある。Effective moving massのことで、単位はgrams。
振動板の実効質量である。

いくつかのウーファー、フルレンジのMmsを書き出してみる。
LE8Tは16g、D130は60g、130Aは70g、2202Aは50g、
2220Aは70g、2231Aは151g、2235Hは155g、LE15Aは97g。
LE8Tは8インチのフルレンジユニット、2202Aは12インチのウーファー、
あとは15インチ・ウーファーもしくはフルレンジである。
2231Aは4343、4350A、4331、4333などに搭載されている。
2235Hは4344のウーファーである。

2231Aと2235Hは重い。
同じ15インチであっても2220Aは半分以下。

ちなみに18インチのウーファーは2240Hが164g、2245Hが185gで、
2245Hは4345のウーファーでもある。

なぜ2231A、2235Hは重いのかというと、マスコントロールリングを搭載しているからだ。
コーン紙とボイスコイルボビンとの接着面のところにアルミ製のリングを装着している。
エド・メイの考案である。
これにより実効質量が増し、f0は低くなる。低域の下限周波数を拡張できる。

エド・メイは4350の搭載されていた白いウーファー、2230も開発している。
4350に2231Aが搭載されたのが4350Aとなる。

“THIELE SMALL LOW FREQUENCY DRIVER PARAMETERS AND DEFINITIONS”に2230は載っていない。

Date: 11月 3rd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その14)

JBLの4343が一本560000円だった時期とPM510の登場には半年ほどの間があるというものの、
ほぼ同価格帯のスピーカーシステムとして見られていたことだろう。
そうなると、4343は15インチ・ウーファー、10インチ・ミッドバス、ホーン型のミッドハイとトゥイーター、
しかもマグネットはすべてアルニコ。
PM510は12インチ・ウーファーとソフトドーム型トゥイーター。マグネットはフェライト。
こんなふうに書いてしまうと、4343とPM510はスピーカーとしてのポテンシャルに大きな違いあるように感じる。

実際に大きな違いがあった。
ステレオサウンド 56号の組合せの特集で、瀬川先生がこう書かれている。
     *
 だが、ここにもっと欲ばった要求をしてみる。クラシックも好き、ジャズやロックも気が向けばよく聴く。ニューミュージックも、ときに艶歌も聴く。たまにはストリングス・ムードなどのイージー・リスニングも……。そういう聴き方だから、レコードの録音も新旧、内外、多岐に亘り、しかも再生するときの音量も、深夜はひっそりと、またあるときは目の前でピアノやドラムスが直接鳴るのを聴くような音量まで要求する──としたら?
 これは決して架空の設定ではない。私自身がそうだし、音楽を妙に差別しないで本当に好きで楽しむ人なら、そう特殊な要求とはいえない。だとしたら、どういうスピーカーがあるのか。
 再生能力の可能性の、こんにち考えられる範囲でできるだけ広いスピーカーを選ぶしかない。となると、これが最上ではないが、といってこれ以外に具体的に何があるかと考えてみると、結局、これしかないという意味で、やはりJBL♯4343あたりに落ちつくのではないだろうか。
     *
音とは正直な面があり、広範囲の要求をすれば、
PM510よりも4343に可能性がある、といえる。

PM510よりもすべての点で4343が優っているわけではなくとも、
瀬川先生も書かれているように「再生能力の可能性」ということでは、はっきりとした違いがある。

このことを承知のうえで、私はPM510を買った。
4343も欲しかったスピーカーである。

瀬川先生はKEFのLS5/1AとJBLの4341(のちに4343にされている)を鳴らされていた。
これを目標としていた。
どちらを先に手に入れるか。
迷うことなくPM510だった。

なぜか。
4343よりもPM510のほうが、私ひとりのために鳴ってくれる実感を強く感じたからだ。

Date: 11月 3rd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その13)

ハイエンドオーディオショウでLS3/5Aでの鳴らし方、
個人宅でのいくつかのLS3/5Aの鳴らし方、
これらを聴くたびに、私がBBCモニターに感じている良さは違うだけでなく、
個人的なところにつよく関係している良さであることを確認していたように思う。

BBCモニターは万能なスピーカーシステムでは決してない。
欠点も少なくない。
なのに、私の場合、これまで挙げてきたBBCモニターで聴くと、ほとんどストレスを感じない。

ジャズを眼前に鳴っているようには絶対に鳴らないスピーカーである。
PM510はジャズ好きの人が「低音がぶよぶよじゃないか」といっているくらいだから、
強烈な音のエネルギーを浴びるような聴き方にはまったく向いていない。

それではジャズがまったく聴けないのか、というと、そうでもない。
確かに眼前で鳴っている感じはしないし、強い衝撃的な音でもPM510はそのまま出してくることはない。

その意味で不満を感じる人がいるけれど、
そういった音を直接的に表現しないだけで、
聴き手には、いま鳴っている音はその種の音だということは伝えてくれる。
だから、私はPM510でもジャズを聴いていける。

このことにストレスを感じてしまう人もいれば、
私のようにストレスを感じることなく聴ける人もいる。
多くを要求しようとするとBBCモニターのスピーカーには不満が少しずつ生じてくることだろう。

それでも人は多くを求めたくなる。
私だってそうである。
PM510は一本440000円した。

このときJBLの4343はフェライト仕様のBタイプになり、価格も変った。
サテングレー仕上げが720000円、ウォールナット仕上げが730000円(その後600000円、630000円になる)、
アルニコ仕様の4343は、その半年前までは560000円と580000円だった。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その12)

LS3/5Aはもともと大きな音で鳴らせるスピーカーではなかった。
ウーファーは10cm口径。
昔のステレオサウンド別冊HI-FI STEREO GUIDEを見れば、
このユニット(B110)はウーファーのところではなくスコーカーのところに掲載されている。

しかも以前はアナログディスクで鳴らされることがもっぱらだった。
低域共振の問題をうまく処理しておかなければLS3/5Aのようなスピーカーを鳴らすのは難しい。
ウーファーが余計な信号で揺すられてしまえば、そのだけパワーは入れられなくなる。

CDにはそういった問題はなかった。
低域共振の問題から解放されたLS3/5Aは、意外にもパワーが入れられる。
そうなるとLS3/5Aのセッティングも、以前とは違ったものになってきた。

LS3/5Aを持っている人は割と多い。
そういうところで何度か聴いている。
私がそうやって聴いたLS3/5Aの持主はメインスピーカーは別にもっていて、
あくまでもLS3/5Aはサブ的な使い方(鳴らし方)だった。

ただ皆2mから3mくらい離れたところに置いて鳴らしていた。
そうやって鳴らされるLS3/5Aの音を聴くたびに、
この人もLS3/5Aはいいスピーカーだ、といっているけれど、
私が感じている良さとこの人が感じている良さは、かなり違うようだ、と思っていた。

CDのおかげでパワーの心配をする必要はなくなったけれど、
それでもLS3/5Aはぐっと近づいて聴いてこそ魅力的な世界を展開してくれる。
私が理想とするLS3/5Aのセッティングは一辺が1mの正三角形の頂点にスピーカーと聴き手の頭がくる配置である。

ここまで近づいた時にLS3/5Aの音はある種の密度の高さがあり、
このスピーカーがなぜこれほど高い評価を得てきたのかが瞬時に理解できるはずだ。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その11)

BBCのライセンスが与えられていることをあらわすLSナンバーのつくスピーカーシステム。
現在入手できるのは、ロジャース・ブランドのLS3/5A。
これには通常のヴァージョンの他に、65th Anniversary Editionもある。
それからLS5/9。こちらも型番の末尾に”65th Anniversary Edition”がつく。

ロジャースといっても、以前の体制とは違っていて、いまでは中国で製造されている、ときく。
とはいえ写真で見ても、販売店に並んでいるモノを見ても、少なくとも見た目の雰囲気は、
昔のロジャースのLS3/5Aそのものに感じられる。

同様に中国で生産されていると言われているのが、チャートウェル・ブランドのLS3/5Aだ。

これらとは異りイギリスで製造されているのが、
スターリング・プロードキャストのLS3/5a V2とLS3/6。
それにグラハムオーディオのLS5/9である。

これらの中で、スターリング・プロードキャストのLS3/5a V2の音は、
ハイエンドオーディオショウでたまたま入ったブースで鳴っていた。

LS3/5a V2の真横にもスピーカーシステムが置いてあったし、後にも複数のスピーカーシステムが並べてあったが、
鳴っていた音を聴いて、LS3/5a V2が鳴っていることはすぐにわかった。

これはきちんと聴いておきたいと思い、いちばん前の席がひとつ空いているのを見つけ坐った。
でもすぐにスピーカーが他の機種に切り替えられてしまった。

じっくりとは聴けなかった。一曲のみである。
しかも聴いたことのディスクではあった。

ただ音量が少しばかりLS3/5aには大きすぎていた。
女性ヴォーカルのCDだったが、そこでの張った声がヒステリックになりかけていた。
あきらかにLS3/5aというスピーカーに要求する音量をこえたところで鳴らしているからである。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その10)

忘れ去られていく音(音の良さ)というのは、確かにある。
これについてはいずれ新たに項を立てて書いていきたいテーマである。
BBCモニターの音は忘れ去れていく音に入っていた。

スペンドール、ハーベスがあったことをわすれているわけではない。
だがハーベスもハーウッドからアラン・ショウに代替わりしてからのスピーカーシステムには、
私個人は惹かれなくなっていた。
HL Compact 7ES-3が出てくるまでのハーベスのスピーカーに関しては、そのせいもあって関心が薄かった。

スペンドールもスペンサー・ヒューズから息子のデレク・ヒューズの時代になり、
BCIIに匹敵する傑作が生まれなくなっていた。

この二社が輝いていれば、少しは状況は違っていたのか、というと、
必ずしもそうとはいえない、とも思う。
HL Compact 7ES-3はアラン・ショウのハーベスのスピーカーの中で、もっともいいスピーカーだが、
世評も良かったはずなのだが、BBCモニターの音に対する関心が高まってくるようなことはなかった、と感じている。

だがLS3/5Aに対する関心だけは違っていた。
LS3/5Aが再評価されるようになったのは、この10年くらいだろうか。
中古市場でも人気がある、ときいている。

でも、この現象はBBCモニターが、
というよりもLS3/5Aという特定のスピーカーシステムに対しての現象だと私は受けとっていた。

けれどどうも私が間違っていたようだ。
LS3/5Aだけでなく、LS3/6、LS5/9の復刻版が出ている。
LS3/6を作っているのは一社だけだが、LS3/5Aは三社、LS5/9は二社が作っている。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その9)

ロジャースのPM510を手離して、それからいくつかのスピーカーシステムを鳴らしたあと、
BBCモニタースピーカーの原点ともいってよいLS5/1を手に入れた。

まだインターネット・オークションはなかった時代だから、
オーディオ雑誌の巻末に載っている売買欄の「売ります」に、LS5/1が載っていた。

そこにはKEF LS5/1Aとあったが、実際にはLS5/1だった。
美品とあったけれど、お世辞にも美品とはいえなかった。
附属の専用アンプのオーバーホール済み(ACバランス、DCバランスともに調整済み)と書いてあったが、
中をみればわかるのだが、いったいどこを調整したの? といいたいくらい状態だった。

LS5/1とPM510の音の傾向はずいぶんと違うところがある。
それでも音が鳴った瞬間、いいなぁ、と反応してしまっていた。
改めてBBCモニターの音には惹かれてしまうことを再確認した。

これが1990年だった。
このころBBCモニターの新製品はまったく登場してこなくなっていた。
BBCの放送局で使用する性格のモノだけに、新製品が毎年登場するわけではない。
それはわかっていても、オーディオ雑誌の誌面にもほとんど登場していなかった、と記憶している。

イギリスのスピーカーといえば、タンノイがあったしB&W、ATCなどもあった。
B&WのスピーカーはタンノイよりもBBCモニターの方に近い、といえなくもないが、
同じとは決していえず、優秀なスピーカーという印象に、私の場合、留まってしまう。

もうBBCモニターの音、その流れを汲む音は忘れ去られてしまっているのか。
ますますそう感じるようになっていっていた。

Date: 11月 1st, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その8)

1981年のオーディオフェアで、もうひとつよく憶えているのはエレクトリのブースだった。
マッキントッシュのXRT20が鳴っていた。菅野先生によるデモだった。
ブースに人がはいりきれないほどで、立って聴いていた。それでも窮屈な思いをしながら聴いた。

この年の6月に出たステレオサウンド 59号の新製品紹介のページで、
菅野先生がXRT20について書かれていた。
その数ヵ月後のオーディオフェアである。
衆目を集めるのは当然とはいえ、オーデックスのブースの人の入り具合がなんとなく悲しく思えた。

本来ならば瀬川先生が鳴らされるはずだったのが無理になったことも重なって、
これが人気のあるスピーカーとさほどでもないスピーカーの違いでもあるという現実だった。

BBCモニター系列のスピーカーシステムは、アメリカのスピーカーシステムからすれば、地味といえた。
それに物量投入という点でも、BBCモニターにはもの足りなさをおぼえていたことは、すでに書いた。
BBCモニターの音に惚れ込んでいる私でもそうなのだから、
BBCモニターの音に魅力を感じない人にとっては、よけいにもの足りなさとなるはず。

それに瀬川先生も書かれているように、クリアーでシャープな音、
いいかえれば最新の音の傾向に馴染んでしまっている耳に、
音のピントを会わせるのに時間が必要だったのかもしれない。

私はそのころは最新の音に馴染む機会はあまりなかったし、
スペンドールのBCIIの音が心のどこかに残っているくらいだったから、
条件的には決していいとはいえない環境で鳴っていたPM510の音に、ピントはすぐに合った。
というよりもとくに合わせる、という意識はなかった。

私には、PM510の音は異色などではなかった。

Date: 11月 1st, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その7)

ロジャースのPM510を聴いたのは、オーディオフェアでの輸入元であったオーデックスのブースだった。
1981年のオーディオフェアは私にとって初めてのオーディオフェアであったし、
オーデックスのブースでは予定では瀬川先生がPM510を鳴らされる、ということになっていた。

オーディオ雑誌に掲載されていたオーディオフェアの予定表を見ながら、
これだけは絶対に聴き逃せない、と思い楽しみにしていた。
けれど直前に出たオーディオ雑誌に載っていた予定表からは、瀬川冬樹の名前が消えていた。
えっ? と思いつつも、以前の予定表と同じように、その日、その時刻にはPM510のデモが行なわれる。

結局、瀬川先生は来られなかった。
あとで知ることになるのだが、このときすでに入院されていた。

よくインターナショナルオーディオショウの条件はひどい、という人がいる。
出展社のスタッフにも来場者にもいる。
けれど、晴海で行なわれていたころのオーディオフェアの条件は、もっと厳しいものだった。

そんなところで音を聴いて、何がわかるの? という人もけっこう多い。
それでもわかることは、はっきりとある。
1981年のオーディオフェアのオーデックスのブースで、私はPM510を初めて聴いた。

いま思えばさほどでもなかったけれど、それでもステレオサウンド 56号に瀬川先生が書かれた音が、
少なくとも私には聴き取ることができた。

どんな条件で聴いても、自分にとって運命のスピーカーといえるモノであれば、すぐにわかる。
そのことを瀬川先生から聞いたことがある。

そういう存在のスピーカーがあることを感じとれるのが、直感であり、
スピーカー選びで大事なことは、この直感だけでしかない。

どんなに試聴環境を整えようと、自宅でいま鳴らしているスピーカーと時間をたっぷりかけて比較試聴しようと、
それで自分にとって正しいスピーカーが選べるとは限らない。
むしろ誤ってしまう可能性を自分で高めているだけなのかもしれない。

そうやって私はPM510を選んだ。

Date: 11月 1st, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その6)

ロジャースのPM510は、ピーエム・ファイヴ・テンと読む。
ピーエム・ゴーイチマルでもピーエム・ゴヒャクジュウでもない。

PM510に惚れ込んだ人に対しては、510(ファイヴ・テン)で通じる。

書いていて思い出した。
以前、PM510をことを話していたら、「ほんとうにファイヴ・テンっていうんですか」と言ってきた人がいる。
揚げ足を取りたい感じだった。
惚れ込んで買ったスピーカーの正しい呼称を間違えるはずがないし、勝手に読み方を考えたわけでもない。

PM510がステレオサウンドに登場したのは56号。
瀬川先生の文章によってだった。

PM510の音を、こう書き出されている。
     *
 PM510は、本誌試聴室と自宅との2ヵ所で聴くことができた。
 全体の印象を大掴みにいうと、音の傾向はスペンドールBCIIのようなタイプ。それをグンと格上げして品位とスケールを増した音、と感じられる。BCIIというたとえでまず想像がつくように、このスピーカーは、音をあまり引緊めない。たとえばJBLのモニターや、国産一般の、概して音をピシッと引緊めて、音像をシャープに、音の輪郭誌を鮮明に、隅から隅まで明らかにしてゆく最近の多くの作り方に馴染んだ耳には、最初緊りがないように(とくに低音が)きこえるかもしれない。正直のところ、私自身もこのところずっと、JBL♯4343の系統の音、それもマーク・レヴィンソン等でドライヴして、DL303やMC30を組み合わせた、クリアーでシャープな音に少々馴染みすぎていて、しばらくのあいだ、この音にピントを合わせるのにとまどった。
     *
音の傾向がBCIIのようなタイプとあったのが、うれしかった。
しかも「グンと格上げして品位とスケールを増した音」である。
BCIIの音に惚れ込みながらも、オーディオマニアとしてモノとしてのBCIIにのめり込めるかというと、
どこが不満というわけではないけれど、もの足りなさをおぼえてしまう。

だからこそPM510の登場と、瀬川先生の文章のこの部分に、待望のスピーカーシステムの誕生(登場)だと思った。

これはもう早く聴きたかった。
実際に聴けたのは一年くらいしてからだった。

Date: 11月 1st, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その5)

こういう音が好きなんだ、と実感した最初のスピーカーシステムは、スペンドールのBCIIだった。
瀬川先生が熊本のオーディオ販売店に定期的に来られていた時に聴くことができた。
そのとき、もうひとつスピーカーがあった。JBLの4341だった。

このころすでに4341は製造中止になっていて4343に切り替って二年くらい経っていたはずなのに、
なぜか4341だった。
4341はすごいスピーカーだ、と感じた。
けれどその後に鳴らされたBCIIの音に惹かれた。

スピーカーシステムとしての性能の高さは、はっきりと4341が格段にBCIIよりも高い。
けれどどちらの音に惹かれるのか、といえば、BCIIとはっきりといえた。

BCIIも、このスピーカーをつくっているスペンドールも、BBCモニターの流れを汲んでいる。
つまり、この時がBBCモニターの音との出会いだった。

それから一年くらい経って聴いたBBCモニターはLS3/5Aだった。
その前にKEFのModel 105を聴いている。
この時代のKEFのスピーカーシステムも、私にとってはBBCモニター系列に属する音である。
ややきまじめすぎる印象はあるけれど。

ハーベスのMonitor HLも、しばらくして聴いた。
それからロジャースのPM510を聴いた。

BCIIからPM510を聴くまでに、他のスピーカーシステムも聴いてきた。
その中にはイギリスのスピーカーを代表する存在であるタンノイも含まれる。

同じイギリスのスピーカーであっても、BBCモニター系列の音とは違う。
私が惹かれるのは、この時代はBBCモニターの音であった。
BCII、Model 105、LS3/5A、Monitor HL、PM510、
その音を思い出すと(美化されているのだろうが)、グッドリプロダクションとはまさにこういう音であり、
いまも惹かれていることを感じてしまう。

Date: 10月 31st, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その4)

1983年にステレオサウンドからTHE BRITISH SOUNDという別冊が出た。
この本に岡先生によるBBCモニター物語という記事がある。
この中で、岡先生が書かれている。
《BBCモニターのことを書くべき最適任者は、故瀬川冬樹さんだったと思う》と。
BBCモニターに関心のある人の多く(すべてといっていい)が、首肯いたことだろう。

瀬川先生によるBBCモニター物語、
きっと瀬川先生自身も書きたいと思われていただろうだけに、
読みたかった……、という気持は募る。

岡先生はBBCモニター物語を書くにあたり、
ステレオサウンド編集部から、瀬川先生が渡英の際に入手されたいくつかの資料を借覧されている。

その瀬川資料の中に、BBCモニターの型番のクラシフィケーションの説明があり、
その資料を元に岡先生がLSナンバーの区分について書かれている。
     *
●LS1/ アッセンブルされたラウドスピーカーで、用途は種主あるが主力にはなっていない(現用正式モデルではない)。
●LS2/ シャーシ・ユニットのみのもの。
●LS3/ アッセンブルされたスピーカー(主として外録その他に使用される。可搬性をもつ小型のもの)。
●LS5/ アッセンブルされたスピーカー(スタジオ用)。
 将来は、LS1/、LS2/、LS5/のクラシフィケーションを用いることになり、外録用のLS3/シリーズもLS5/のコード番号のなかに組み込まれることになる、という注記がある。
     *
LS5/9は20cm口径のウーファーとソフトドーム型トゥイーター、
エンクロージュアの外形寸法はW36.0×H55.0×D36.0cm。
本来ならばLS3/8という型番がついても不思議ではないし、
むしろ、その方が、このスピーカーシステムの性格をはっきりとさせると思うのだが、
岡先生が書かれているとおり、LS3/シリーズはLS5/シリーズに組み込まれたことがわかる。

Date: 10月 31st, 2014
Cate: BBCモニター, PM510, Rogers

BBCモニター、復権か(その3)

PM510をいいスピーカーと認めている人は確かに少ない。
それでもいいじゃないか、と思うのだが、
PM510をいいスピーカーとしながらも、PM510IIを改良型として高く評価している人をみると、
この人が感じているPM510の良さと私が感じているPM510の良さは違っているんだな、と思ってしまう。

PM510はロジャースのLS5/8の内蔵ネットワーク版である。
LS5/8は型番が示すようにBBCモニターであり、
QUADのパワーアンプ405にデヴァイディングネットワークを内蔵しバイアンプ駆動するというシステム。
ユニット構成、エンクロージュアはLS5/8、PM510は同じである。

このLS5/8はロジャース(スイストーン)が買収した会社チャートウェルが開発したモノだ。
チャートウェル時代の型番はPM450E(LS5/8)、PM450(PM510)だった。
もちろんチャートウェルのLS5/8も存在している。

ロジャース製とチャートウェル製は、若干音のニュアンスが違う、といわれている。
そうだろう。
同じ規格で作られているLS3/5Aが、各社、音のニュアンスが微妙に違うのと同じである。
チャートウェル製も聴きたいという気持はあるけれど、
ロジャースのPM510に惚れ込んでいたのだから、
どちらがいいのかを判断するようなことは、いまではどうでもよくなっている。

ロジャースからはLS5/8に続いて、中型モニターのLS5/9が登場する。
ちょうどステレオサウンドにいたころだった。
聴く機会は何度もあった。

でもLS5/8とLS3/5Aの間に位置するサイズ。
このサイズにした理由をついあれこれ考えてしまうくらいに、
私には中途半端な大きさに思えたし、そうなると出て来た音もなんとなくそう感じられてしまう。

でもPM510の低音をぶよぶよじゃないか、という人はLS5/9の方を高く評価していた。