Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 1月 6th, 2015
Cate: LNP2, Mark Levinson, デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(LNP2のこと・その2)

ステレオサウンド別冊「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」で、
菅野先生がML7のところでマークレビンソンのアンプのデザインについて書かれている。
     *
ただし、マーク・レビンソンの一連の製品についていえることだが、明らかに一般ハイファイ・マニアを相手にしながら、プロ機器仕様とデザインを決めこんでいるのはどうかと思う。トラックかブルドーザーのようなデザインばかりではないか。中ではLNP2Lが一番まともだが、決して使いやすくもない。
     *
これを読んで、LNP2のデザインに感じていたのは的外れではなかった、とほっとした。
ただトラックやブルドーザーのようなデザインには、完全には同意できなかったけれど、
菅野先生とはいわんとされているところはわかる。

何度も書くが、LNP2のデザインを悪いデザインとは思っていない。
けれど、優れたデザイン、美しいデザインとはこれまで思ったことはないし、
これから先もそう感じることはない、と言い切れる。

なのに、なぜLNP2は、いいデザインという評価が得られているのだろうか。
オーディオマニアすべてがそう思っているわけではないにしても、
少なくない人が、しみじみと「LNP2のデザイン、いいですよね」と発するのを聞いている。

悪いデザインとまでは思っていないから、あからさまに否定することはしないものの、
この人もそうなんだ、とは思ってしまう。

「LNP2のデザイン、いいですよね」という人は、
菅野先生の「トラックやブルドーザーのようなデザイン」という発言をどう受けとめているのだろうか。

Date: 1月 5th, 2015
Cate: LNP2, Mark Levinson, デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(LNP2のこと・その1)

マークレビンソンのLNP2というコントロールアンプ。
1970年代後半もっとも注目を集めたといえるコントロールアンプ。
私も憧れたことのあるコントロールアンプ。

よく耳にするのが「LNP2のデザイン、いいですよね」である。
あの時代の、憧れのコントロールアンプだから、悪いデザインとはいわないものの、
優れたデザインか、となると、そうとはいえない。

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 1のカラー口絵。
JBLの4343をバックに、マークレビンソンのアンプが真正面から撮られたページがある。

この写真が象徴しているように、LNP2には精度感があった。
ウェストンのメーターは大きすぎず小さくもない、
三つあるレベルコントロールのツマミの周囲には、減衰量がdB表示されていた。
ツマミの大きさも大きすぎない。

精度感を損なう要素は見当たらないLNP2のフロントパネルであった。

HIGH-TECHNIC SERIES 1の写真は、そのことを充分伝えていた。
このページを切り取って壁に貼りたいとも思っていた。

それでもLNP2のデザインは優れているとは、思っていなかった。
これは、いまも変らない。

Date: 1月 3rd, 2015
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(serial No.1001・その4)

ステレオサウンド 42号の音楽欄に、平田良子氏による「時間に挑戦する男 デビッド・ボウイー」が載っている。

David Bowie、いまではカタカナ表記ではデヴィッド・ボウイだけれど、
42号が出た1977年は、デビッド・ボウイーだった。

私がデヴィッド・ボウイのことを知ったのは、この42号の記事だった。
4ページの記事、四枚のモノクロの写真。

世の中には、こういう人がいるんだ、と思いながら記事を読んだ。
記事には、こうある。
     *
ボウイーという人間は、中性的という以上の存在である。彼のなかには、性別や年齢を超越したもうひとりのかれがいて、ボウイーが生み出す方法論をつぎからつぎへとあざやかに実践してみせるのだ。
     *
42号の記事を読んだ時は、音楽記事としてだけ読み、デヴィッド・ボウイのことを知っただけで終った。
この記事を読んだからといって、デヴィッド・ボウイのレコードを買うことはしなかったし、
デヴィッド・ボウイ主演の映画「地球に落ちてきた男」も観ることはなかった。
(最寄りの映画館では上映していなかったように記憶している。)

だからデヴィッド・ボウイの音楽を聴いたのは、もう少し先のことだったし、
聴いたからといって、特にオーディオと結びつくことはなかった。

それからずいぶん経ち、デヴィッド・ボウイのある写真を目にして、4343のことが頭に浮んだ。
その写真は、やはりモノクロで1970年代後半のころのもののようで、いわゆるスナップ写真だった。
日本での写真だった。
背景には電車が写っている。

デヴィッド・ボウイと日本の当時の日常風景との組合せ。
その写真をみて、4343はデヴィッド・ボウイのようなスピーカー(スター)なのかもしれない──、
そんなことがふいに頭に浮んだのだった。

私にとって、4343の存在を知ったのも、デヴィッド・ボウイのことを知ったのも、
ほぼ同時期(三ヵ月違うだけ)であるからこそなのかもしれない。

Date: 12月 25th, 2014
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(serial No.1001・その3)

最近では、名器も、こんなものにまで……、と思えるモノもそう呼ばれる。
傑作、佳作、力作──、こちらの言葉のほうがあてはまるだろうにと思えるモノを名器と呼ぶ人がいる。

人それぞれといえばそれまでだが、釈然としないものがのこる。

マークレビンソンのLNP2は名器なのか。
すなおにそうだとは、私はいえない。
強く憧れたオーディオ機器である。
有名なコントロールアンプである。
ある時期、LNP2に対するおもいははっきりと薄れてしまったが、
十年ほど前から、やっぱり手に入れたいアンプである、と思っている。

けれど LNP2を名器だと思っているからではない。
LNP2が現役だったころも、名器だとは思っていなかった。
このころ、強く憧れていた。

それは往年の名器と現代の名器の違いからくるものではないか、とそう考えたこともある。
けれど、違うように思う。

私のLNP2への憧れは、ポップスターへの憧れに近いものだったように、いまは思う。
往年の大スターが、どこか近寄り難い雰囲気をもつのとは、そこが違っている。

ポップスターといっても、LNP2、同時代のJBLの4343は大スターだった。
どちらも100万円をこえる価格だった。
それでも、どちらも相当に売れていた。

Date: 12月 2nd, 2014
Cate: JBL, 型番

JBLの型番

JBLのプロフェッショナル用スピーカーユニットの型番は四桁の数字。
2100シリーズがフルレンジユニット、2200シリーズがウーファー、
2300シリーズがホーン、2400シリーズがコンプレッションドライバーが基本となっている。

ミッドバス用のコーン型ユニットは2121、2122という型番だから、
ウーファーのようでもあるが、型番からはフルレンジということになる。
実際はウーファーに分類されるけれど。

数字の順序からすればフルレンジ、ウーファー、ホーン、コンプレッションドライバーとなっている。
ということはJBLの考え方としては、ホーンとコンプレッションドライバーの組合せにおいては、
まずホーンを選べ、ということなのではないか、と型番をみていると思えてくる。

フルレンジもウーファーもスピーカーユニットであり、音を発する。
コンプレッションドライバーもそうだ。
ホーンは違う。
なのに型番的にはウーファーとコンプレッションドライバーのあいだにいる。

ホーンとコンプレッションドライバーの組合せでコンプレッションドライバーを中心に考えるのであれば、
型番のつけ方としては2300シリーズがコンプレッションドライバーのほうがすっきりする。
けれど実際は2300シリーズはホーンの型番である。

誰がどういう意図で型番をつけていたのかはわからない。
けれど2300シリーズをホーンとしたのは、なんらかの意図があったのではないだろうか。

どの程度の空間にどういう指向特性で音を放射するのか。
まずこのことを決めた上でホーンを選び、次にコンプレッションドライバーを選べ、ということではないのか。

Date: 11月 9th, 2014
Cate: Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その11)

私が自分のモノとしたテクニクスのオーディオ機器はふたつある。
ひとつはSB-F01。
アルミダイキャストのエンクロージュア(といっても手のひらにのるサイズ)に、
ヘッドフォンのユニットを搭載したような小型スピーカーだ。

アンプのスピーカー端子でも鳴るし、ヘッドフォン端子に接いでも鳴る。
ペアで15000円だった。

サブスピーカーとして高校生の時に購入した。
ロジャースのLS3/5Aは高くて買えなかったから、というのもSB-F01を購入した理由のひとつである。
いまも実家にあるはずだし、手元にも1ペアある。
瀬川先生が所有されていたSB-F01である。

このSB-F01で、中目黒のマンションで深夜ひっそりとした音量で聴かれていたのだろうか。
はっきりとしたことはわからないが、瀬川先生がSB-F01をお持ちだったことが意外だったし、嬉しくもあった。

もうひとつのテクニクス製品はSL10である。
LPジャケットサイズのアナログプレーヤーである。
ダイレクトドライヴ開発10周年を記念して開発された製品だから、型番に10がついている。

このふたつのテクニクス製品に共通していえることは、小型ということ。
もともとテクニクスというブランドは、Technics1という小型スピーカーからスタートしている。
だからというわけでもないが、他のメーカーよりも小型の機器をうまくつくるところがある。

SL10がまさにそうだし、コンサイスコンポもそうだった。
それにSB7000の小型版、SB007もある。
その一方で非常に大型のアンプ、スピーカーシステムも手がけている。

小型のモノと大型のモノ。
テクニクスの製品に限っていえば、小型のモノには遊び心があるように感じている。
その遊び心に気づいたから、SB-F01とSL10を買ったのかもしれない。

遊び心。
辞書にこうある。
 ①遊びたがる気持ち
 ②まじめ一方でなく、ゆとりやしゃれ気のある気持ち
 ③音楽をたしなむ心

③の意味があるのは、意外だった。

遊び心という、自分自身が愉しむという気持、
これが使い手(買い手)に伝わる。

Date: 11月 9th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(ウーファーについて・その4)

2231Aで採用されたアルミ製のリングを、
マスコントロールリング(Mass Control Ring)を呼ぶのは実に的確といえる。

仮に2230と2231AのMmsがほとんど同じだとしよう。
LE14AのMmsと口径の違いからすると、150gぐらいなのではないだろうか。

LE15A、そのプロ版にあたる2215のMmsはともに97g。
コーン紙そのものはほとんど同じものだとすれば、
2230におけるアクアプラスによる質量増加は約50gで、この50g分がコーン紙全面ほぼ均一に分布している。
2231Aではマスコントロールリングが50g分になり、
こちらはコーン紙とボイスコイルボビンとの接着面のところにある。

2230と2231Aでは質量の分布の仕方が大きく異る。分散と集中である。
このことは仮にMmsが同じだとしても実際の動作では大きく違ってきても不思議ではない。

”JBL 60th Anniversary”には、マスコントロールリングにより、
低域の下限周波数の拡張だけでなく、堅くて軽いコーン紙を使うことで中低域のレスポンスも向上する、とある。

そうだと考えられる。
それにコーン紙とボイスコイルボビンとの接着面にマスコントロールリングがあることで、
この部分の強度はなしにくらべて増しているはず。
とすればボイスコイル(およびボビン)のピストニックモーションがより精確に振動板に伝わる、ともいえる。

Mmsが150gというのは確かに重いと受けとめがちな値だが、
どこに重いと感じさせる部分があるのか(分散か集中か)によって、
重たい振動板イコール中域までレスポンスが伸びない、とは一概にはいえない。

ただマスコントロールリングはアルミ製であるため導電性がある。
このため実際の動作では電磁制動がこの部分で発生する。

もしJBLがマスコントロールリングを他の素材(導電性のないもの)にしていたら、
とどうしても考えてしまう。

Date: 11月 8th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(ウーファーについて・その2)

2230はコーン紙の色からわかるようにアクアプラスが塗布されている。
アクアプラスは石灰を主成分としているときいたことがある。
はっきりとしたことはわからない。
しかも塗り方にノウハウがずいぶんあるようで、JBLのコーン紙の製造が日本でなされていたときも、
アクアプラスの塗布はアメリカで行っていた。

私は2230を搭載した4350は聴いたことはあるけれど、いい音で鳴っていたわけではなかった。
だからなんともいえないのだが、4350がいい音で鳴っているのを聴いたことのある知人によれば、
4350A(2231A搭載)よりも4350の方が、低音の質感は良かった、らしい。

そうかもしれない。
4310、4311も白いコーン紙のウーファーだし、
4345も表からみれば黒いコーン紙だが、
18インチ・ウーファーの2245Hはコーン紙の裏側にアクアプラスが塗布されている。

にも関わらず2230から2231Aになっていったのか。
ステレオサウンド別冊”JBL 60th Anniversary”によれば、
250Hzという低めのクロスオーバー周波数は効果的であるアクアプラスも、
4331、4333のようにミッドバスを持たないシステムの場合、クロスオーバー周波数は高くなる。
4331、4333は800Hzとなっている。

そうなるとアクアプラス塗布のウーファーは振動板が重くなりすぎて、
さらにアクアプラスは一種のダンプ剤でもあるため、中低域より上の帯域でレスポンスが波打つ、
感度の低下が明らかになるから、とある。

2230のmmsがどのくらいなのかはわからない。
ただアクアプラス塗布の14インチ・ウーファーのLE14Aは140gであるから、
2230は140gよりも重たいことだけははっきりしている。

Date: 11月 7th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(ウーファーについて・その1)

“THIELE SMALL LOW FREQUENCY DRIVER PARAMETERS AND DEFINITIONS”というPDFがある。
JBLのウーファー、フルレンジユニットのティール・スモール・パラメータの一覧表である。

14のパラメータが載っている。
その中に”Mms”がある。Effective moving massのことで、単位はgrams。
振動板の実効質量である。

いくつかのウーファー、フルレンジのMmsを書き出してみる。
LE8Tは16g、D130は60g、130Aは70g、2202Aは50g、
2220Aは70g、2231Aは151g、2235Hは155g、LE15Aは97g。
LE8Tは8インチのフルレンジユニット、2202Aは12インチのウーファー、
あとは15インチ・ウーファーもしくはフルレンジである。
2231Aは4343、4350A、4331、4333などに搭載されている。
2235Hは4344のウーファーである。

2231Aと2235Hは重い。
同じ15インチであっても2220Aは半分以下。

ちなみに18インチのウーファーは2240Hが164g、2245Hが185gで、
2245Hは4345のウーファーでもある。

なぜ2231A、2235Hは重いのかというと、マスコントロールリングを搭載しているからだ。
コーン紙とボイスコイルボビンとの接着面のところにアルミ製のリングを装着している。
エド・メイの考案である。
これにより実効質量が増し、f0は低くなる。低域の下限周波数を拡張できる。

エド・メイは4350の搭載されていた白いウーファー、2230も開発している。
4350に2231Aが搭載されたのが4350Aとなる。

“THIELE SMALL LOW FREQUENCY DRIVER PARAMETERS AND DEFINITIONS”に2230は載っていない。

Date: 11月 3rd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その14)

JBLの4343が一本560000円だった時期とPM510の登場には半年ほどの間があるというものの、
ほぼ同価格帯のスピーカーシステムとして見られていたことだろう。
そうなると、4343は15インチ・ウーファー、10インチ・ミッドバス、ホーン型のミッドハイとトゥイーター、
しかもマグネットはすべてアルニコ。
PM510は12インチ・ウーファーとソフトドーム型トゥイーター。マグネットはフェライト。
こんなふうに書いてしまうと、4343とPM510はスピーカーとしてのポテンシャルに大きな違いあるように感じる。

実際に大きな違いがあった。
ステレオサウンド 56号の組合せの特集で、瀬川先生がこう書かれている。
     *
 だが、ここにもっと欲ばった要求をしてみる。クラシックも好き、ジャズやロックも気が向けばよく聴く。ニューミュージックも、ときに艶歌も聴く。たまにはストリングス・ムードなどのイージー・リスニングも……。そういう聴き方だから、レコードの録音も新旧、内外、多岐に亘り、しかも再生するときの音量も、深夜はひっそりと、またあるときは目の前でピアノやドラムスが直接鳴るのを聴くような音量まで要求する──としたら?
 これは決して架空の設定ではない。私自身がそうだし、音楽を妙に差別しないで本当に好きで楽しむ人なら、そう特殊な要求とはいえない。だとしたら、どういうスピーカーがあるのか。
 再生能力の可能性の、こんにち考えられる範囲でできるだけ広いスピーカーを選ぶしかない。となると、これが最上ではないが、といってこれ以外に具体的に何があるかと考えてみると、結局、これしかないという意味で、やはりJBL♯4343あたりに落ちつくのではないだろうか。
     *
音とは正直な面があり、広範囲の要求をすれば、
PM510よりも4343に可能性がある、といえる。

PM510よりもすべての点で4343が優っているわけではなくとも、
瀬川先生も書かれているように「再生能力の可能性」ということでは、はっきりとした違いがある。

このことを承知のうえで、私はPM510を買った。
4343も欲しかったスピーカーである。

瀬川先生はKEFのLS5/1AとJBLの4341(のちに4343にされている)を鳴らされていた。
これを目標としていた。
どちらを先に手に入れるか。
迷うことなくPM510だった。

なぜか。
4343よりもPM510のほうが、私ひとりのために鳴ってくれる実感を強く感じたからだ。

Date: 11月 3rd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その13)

ハイエンドオーディオショウでLS3/5Aでの鳴らし方、
個人宅でのいくつかのLS3/5Aの鳴らし方、
これらを聴くたびに、私がBBCモニターに感じている良さは違うだけでなく、
個人的なところにつよく関係している良さであることを確認していたように思う。

BBCモニターは万能なスピーカーシステムでは決してない。
欠点も少なくない。
なのに、私の場合、これまで挙げてきたBBCモニターで聴くと、ほとんどストレスを感じない。

ジャズを眼前に鳴っているようには絶対に鳴らないスピーカーである。
PM510はジャズ好きの人が「低音がぶよぶよじゃないか」といっているくらいだから、
強烈な音のエネルギーを浴びるような聴き方にはまったく向いていない。

それではジャズがまったく聴けないのか、というと、そうでもない。
確かに眼前で鳴っている感じはしないし、強い衝撃的な音でもPM510はそのまま出してくることはない。

その意味で不満を感じる人がいるけれど、
そういった音を直接的に表現しないだけで、
聴き手には、いま鳴っている音はその種の音だということは伝えてくれる。
だから、私はPM510でもジャズを聴いていける。

このことにストレスを感じてしまう人もいれば、
私のようにストレスを感じることなく聴ける人もいる。
多くを要求しようとするとBBCモニターのスピーカーには不満が少しずつ生じてくることだろう。

それでも人は多くを求めたくなる。
私だってそうである。
PM510は一本440000円した。

このときJBLの4343はフェライト仕様のBタイプになり、価格も変った。
サテングレー仕上げが720000円、ウォールナット仕上げが730000円(その後600000円、630000円になる)、
アルニコ仕様の4343は、その半年前までは560000円と580000円だった。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その12)

LS3/5Aはもともと大きな音で鳴らせるスピーカーではなかった。
ウーファーは10cm口径。
昔のステレオサウンド別冊HI-FI STEREO GUIDEを見れば、
このユニット(B110)はウーファーのところではなくスコーカーのところに掲載されている。

しかも以前はアナログディスクで鳴らされることがもっぱらだった。
低域共振の問題をうまく処理しておかなければLS3/5Aのようなスピーカーを鳴らすのは難しい。
ウーファーが余計な信号で揺すられてしまえば、そのだけパワーは入れられなくなる。

CDにはそういった問題はなかった。
低域共振の問題から解放されたLS3/5Aは、意外にもパワーが入れられる。
そうなるとLS3/5Aのセッティングも、以前とは違ったものになってきた。

LS3/5Aを持っている人は割と多い。
そういうところで何度か聴いている。
私がそうやって聴いたLS3/5Aの持主はメインスピーカーは別にもっていて、
あくまでもLS3/5Aはサブ的な使い方(鳴らし方)だった。

ただ皆2mから3mくらい離れたところに置いて鳴らしていた。
そうやって鳴らされるLS3/5Aの音を聴くたびに、
この人もLS3/5Aはいいスピーカーだ、といっているけれど、
私が感じている良さとこの人が感じている良さは、かなり違うようだ、と思っていた。

CDのおかげでパワーの心配をする必要はなくなったけれど、
それでもLS3/5Aはぐっと近づいて聴いてこそ魅力的な世界を展開してくれる。
私が理想とするLS3/5Aのセッティングは一辺が1mの正三角形の頂点にスピーカーと聴き手の頭がくる配置である。

ここまで近づいた時にLS3/5Aの音はある種の密度の高さがあり、
このスピーカーがなぜこれほど高い評価を得てきたのかが瞬時に理解できるはずだ。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その11)

BBCのライセンスが与えられていることをあらわすLSナンバーのつくスピーカーシステム。
現在入手できるのは、ロジャース・ブランドのLS3/5A。
これには通常のヴァージョンの他に、65th Anniversary Editionもある。
それからLS5/9。こちらも型番の末尾に”65th Anniversary Edition”がつく。

ロジャースといっても、以前の体制とは違っていて、いまでは中国で製造されている、ときく。
とはいえ写真で見ても、販売店に並んでいるモノを見ても、少なくとも見た目の雰囲気は、
昔のロジャースのLS3/5Aそのものに感じられる。

同様に中国で生産されていると言われているのが、チャートウェル・ブランドのLS3/5Aだ。

これらとは異りイギリスで製造されているのが、
スターリング・プロードキャストのLS3/5a V2とLS3/6。
それにグラハムオーディオのLS5/9である。

これらの中で、スターリング・プロードキャストのLS3/5a V2の音は、
ハイエンドオーディオショウでたまたま入ったブースで鳴っていた。

LS3/5a V2の真横にもスピーカーシステムが置いてあったし、後にも複数のスピーカーシステムが並べてあったが、
鳴っていた音を聴いて、LS3/5a V2が鳴っていることはすぐにわかった。

これはきちんと聴いておきたいと思い、いちばん前の席がひとつ空いているのを見つけ坐った。
でもすぐにスピーカーが他の機種に切り替えられてしまった。

じっくりとは聴けなかった。一曲のみである。
しかも聴いたことのディスクではあった。

ただ音量が少しばかりLS3/5aには大きすぎていた。
女性ヴォーカルのCDだったが、そこでの張った声がヒステリックになりかけていた。
あきらかにLS3/5aというスピーカーに要求する音量をこえたところで鳴らしているからである。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その10)

忘れ去られていく音(音の良さ)というのは、確かにある。
これについてはいずれ新たに項を立てて書いていきたいテーマである。
BBCモニターの音は忘れ去れていく音に入っていた。

スペンドール、ハーベスがあったことをわすれているわけではない。
だがハーベスもハーウッドからアラン・ショウに代替わりしてからのスピーカーシステムには、
私個人は惹かれなくなっていた。
HL Compact 7ES-3が出てくるまでのハーベスのスピーカーに関しては、そのせいもあって関心が薄かった。

スペンドールもスペンサー・ヒューズから息子のデレク・ヒューズの時代になり、
BCIIに匹敵する傑作が生まれなくなっていた。

この二社が輝いていれば、少しは状況は違っていたのか、というと、
必ずしもそうとはいえない、とも思う。
HL Compact 7ES-3はアラン・ショウのハーベスのスピーカーの中で、もっともいいスピーカーだが、
世評も良かったはずなのだが、BBCモニターの音に対する関心が高まってくるようなことはなかった、と感じている。

だがLS3/5Aに対する関心だけは違っていた。
LS3/5Aが再評価されるようになったのは、この10年くらいだろうか。
中古市場でも人気がある、ときいている。

でも、この現象はBBCモニターが、
というよりもLS3/5Aという特定のスピーカーシステムに対しての現象だと私は受けとっていた。

けれどどうも私が間違っていたようだ。
LS3/5Aだけでなく、LS3/6、LS5/9の復刻版が出ている。
LS3/6を作っているのは一社だけだが、LS3/5Aは三社、LS5/9は二社が作っている。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その9)

ロジャースのPM510を手離して、それからいくつかのスピーカーシステムを鳴らしたあと、
BBCモニタースピーカーの原点ともいってよいLS5/1を手に入れた。

まだインターネット・オークションはなかった時代だから、
オーディオ雑誌の巻末に載っている売買欄の「売ります」に、LS5/1が載っていた。

そこにはKEF LS5/1Aとあったが、実際にはLS5/1だった。
美品とあったけれど、お世辞にも美品とはいえなかった。
附属の専用アンプのオーバーホール済み(ACバランス、DCバランスともに調整済み)と書いてあったが、
中をみればわかるのだが、いったいどこを調整したの? といいたいくらい状態だった。

LS5/1とPM510の音の傾向はずいぶんと違うところがある。
それでも音が鳴った瞬間、いいなぁ、と反応してしまっていた。
改めてBBCモニターの音には惹かれてしまうことを再確認した。

これが1990年だった。
このころBBCモニターの新製品はまったく登場してこなくなっていた。
BBCの放送局で使用する性格のモノだけに、新製品が毎年登場するわけではない。
それはわかっていても、オーディオ雑誌の誌面にもほとんど登場していなかった、と記憶している。

イギリスのスピーカーといえば、タンノイがあったしB&W、ATCなどもあった。
B&WのスピーカーはタンノイよりもBBCモニターの方に近い、といえなくもないが、
同じとは決していえず、優秀なスピーカーという印象に、私の場合、留まってしまう。

もうBBCモニターの音、その流れを汲む音は忘れ去られてしまっているのか。
ますますそう感じるようになっていっていた。