Archive for category 「スピーカー」論

Date: 10月 6th, 2013
Cate: 「スピーカー」論

「スピーカー」論(その3)

スピーカーは、アンプからの電気信号を振動板のピストニックモーションとする変換器であるとすれば、
アンプからの電気信号のとおりに、振動板が前後に動けばいい、ということになる。

もちろん分割振動という余計なものはなく、振動板が正確に前後にのみ、
電気信号にあくまでも忠実に動く。

低音から高音まで、ピアニシモからフォルテシモまで、
あらゆるおとの電気信号が来ても、それを振動板の前後運動に正確に変換する。
そしてエンクロージュアの振動も極力抑えていく。

とにかく振動板以外の振動は不要な振動と判断して、
振動板のみが正確にピストニックモーションする──、
大ざっぱに言えば、これがいまのスピーカーの目差すところである。

このことが100%実現できる日が来たとしよう。
それでHigh-Fidelityは実現された、といえるようになる──、とは私には思えない。

これは、あくまでもアンプからの電気信号に対してのHigh-Fidelity(高忠実度)でしかない。
Signal-Fidelityの理想を実現した、としかいえない。

アンプからの電気信号を正確に振動板がピストニックモーションできれば、
それで理想が実現、問題解決となるほど、オーディオはたやすくない。

スピーカーがそんなふうになるころには、
アンプも当然進歩していて、入力信号そのままに増幅して、歪もノイズもいっさいなしになっていることだろう。
ならばアンプからの電気信号の通りに振動板がピストニックモーションしていれば、問題はない──、
はたしてそう言えるのだろうか、それだけで充分なのだろうか。

Date: 9月 19th, 2013
Cate: 「スピーカー」論

「スピーカー」論(その2)

以前から「スピーカー楽器」論がある。

スピーカーは、変換器である。あくまでも入力信号(アンプからの信号)に対して高忠実であるべきだ、という、
いわゆるHigh Fidelityに基づく考え方、「スピーカー変換器」がある。

スピーカーの開発者・技術者であれば、
スピーカーをでき得る限り高忠実な電気→音響変換器として捉え、考えていくことは、至極当然である。
そうやってスピーカーは、いわば進歩してきた。

このことに対し「スピーカー楽器」論は、
スピーカーの開発者・技術者側からの意見ではなく、
聴き手・受け手側からのものであることは、
スピーカーは、楽器なのか、高忠実な変換器であるべきなのかについて語るときに忘れたり、
ごっちゃにしたりしてはいけない。

「スピーカー楽器」論は、あくまでも聴き手側からのもので、
「スピーカー楽器」論を、スピーカーの開発者・技術者が唱えることではない。

最近では、「スピーカー楽器」論を謳うメーカーがある。
その存在を、だからといって否定はしないものの、
「スピーカー楽器」論を謳うメーカーでスピーカーをつくっている人を、
スピーカー開発者・技術者とは、呼びにくい。

あくまでも、「スピーカー楽器」論を前面に謳うかぎりは、スピーカー製作者である。

Date: 9月 17th, 2013
Cate: 「スピーカー」論

「スピーカー」論(その1)

このブログを書き始めて、丸五年が経過した。
書き始めた頃は、いったいどこまで書けるだろうか、
書くことに困る日がいつかは来るだろう。

そうなった時に、今日は何を聴きました、とか、こんなことをしました、などで、行をうめていくことはしたくない。
ブログを、公開日記だとは思っていないからだ。

そんな不安とまではいかないものの、
そんな時が来たら、その時に対処するしかない……という気持もあった。

でも書き始めていくと、
そのとき書いているテーマが、関連する別のテーマに気づかせてくれる。
ひとつのテーマでも、書き進めていくうちに、最初は予定していなかったことについて、
あれも書いておかねば、これも書いておいたほうがいい──、
そんなことが連枝のように拡がっていく。

けっこうなことではあるけれど、
早く結論(最終的なこと)にたどり着きたいのに、
書けば書くほど、なかなかたどり着けなくなるような気すらしてくる。

いまもスピーカーについて書いている。
これまでも書いてきている。
まだまだ書き足らない、と感じている。
ますます書くことは増えていく。

先に書いておこうと、だから思った。
私が、スピーカーを、どう捉えているかについて、を。

私は「スピーカーは役者だ」と捉え、考えている。