Archive for category JBL

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その2)

日本においてはウィリアムソン・アンプのことが広く知れ渡るようになったのは、
1947年の「Wireless World」の記事ではなく、2年後の49年の同誌8月号に掲載された、より詳細な記事であり、
この記事が翌50年のラジオ技術3月号に掲載されてから、ということだ。

アメリカではどうだったのだろうか。
当時の日本と比べれば、出力トランスの優秀なものはいくつもあったと思う。
けれどパートリッジ製のトランスと同等の性能のトランスで、
出力トランスの2次側から20dBものNFBをかけて高域で発振しないトランスは、
それほど多くはなかったのではなかろうか。
だからこそ、ウィリアムソン・アンプはアメリカでは注目されていったように思う。

JBLのD130は1948年に登場している。
ウィリアムソン・アンプの最初の記事の1年後なのだが、
アメリカに住むランシングがこのときウィリアムソン・アンプを手にしていたとは思えない。

ランシングがどんなアンプを使っていたのか、で、もうひとついえることは、
自作の真空管アンプ、もしくは電蓄の真空管アンプに近いものであった可能性がある、ということ。

いわゆるハイファイアンプと呼べる真空管アンプが登場するのは、もう少し後のことである。
マッキントッシュがユニティ・カップルド回路で特許を取得したのが1948年、D130と同じ年。
マッキントッシュの設立は翌49年1月のことである。
マッキントッシュの最初のアンプはパワーアンプ15W-1、50W-1である。

一方マランツの設立は1951年で、最初のアンプはコントロールアンプのModel 1で、
パワーアンプのModel 2の登場は1956年のことである。

マッキントッシュの15W-1、50W-1の回路がどうなっているのかは知らない。
回路図を見たことがないからだが、1951年に登場した20W-2の回路図を見ると、
出力トランスの2次側からのNFBはない。
おそらく15W-1、50W-1も出力管とそれにともなう出力の違いはあっても、
基本的な回路は20W-1と同じと考えていいはずだ。

となるとマッキントッシュの最初のパワーアンプも出力トランスの2次側からのNFBはなかった、といえる。
NFBは出力管のカソードから初段管のカソードへとかけられている。
もちろんプッシュプル構成なのでNFBの経路は2つあるわけだ。

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その1)

6年ぐらい前のことになるが、
このときはmixiをやっていて、そこで「JBLのランシングはどんなアンプを使っていたのか」という質問を受けた。

JBLブランドのアンプが登場するのはランシングが亡くなってから、
真空管からトランジスターへ移行してからである。
ランシングが、どんなアンプで自らのスピーカーユニットを鳴らしていたのかは、
いくつかな資料を見てもまったく手掛かりがない。

確実にいえることは、真空管アンプだ、ということだけ。
真空管アンプといっても、いろいろな形態がある。
どんな真空管アンプなのか、は、もう想像するしかない。

真空管アンプで、20dBもの高帰還アンプとして登場したウィリアムソンアンプは、
イギリスの雑誌「Wireless World」の1947年4/5月号で論文発表されている。

ウィリアムソン・アンプは、電圧増幅段に使われているのはL63/6J5、
出力段はKT66を三極管接続にしたプッシュプル。
位相反転は2段目のP-K分割。初段とこの位相反転とのあいだは直結となっている。
NFBは出力トランスの2次側から初段のカソードへとかけられている。

いまウィリアムソン・アンプの回路図を眺めても、
ウィリアムソン・アンプの登場を体験していない世代にとっては、
当時の人が受けた衝撃の大きさはなかなか理解しにくいが、
真空管アンプの歴史を少しでも調べていった人ならば、その大きさの何割かは実感できると思う。

ウィリアムソン・アンプは、イギリスの雑誌に発表されたことからもわかるようにイギリスで生れた。
そしてウィリアムソン・アンプの要となる出力トランスは、分割巻きのトランスで知られるパートリッジ製である。

このパートリッジ製の出力トランスの優秀性のバックアップがあったからこそ、
20dBものNFBを安定にかけられた、ということだ。
つまり当時ウィリアムソン・アンプを実現するには、
パートリッジ製と同等の性能をもつ出力トランスが必要だったことになる。

Date: 4月 24th, 2012
Cate: D130, JBL, 異相の木

「異相の木」(その6)

この項の(その2)でも書いているように、(その1)を書いてから(その2)までを書くのに三年以上あいている。
(その2)を書こうと思ったのは、別項でJBLのD130について書き始めたからである。

D130は、私がこれまで使ってきたスピーカーとは異る。
私が聴く音楽、求めている音、そして理想とするスピーカー像からしても、D130はぴったりくるモノではない。
それでも、昔からD130の存在は気になっていた。

気になっていた、といっても、ものすごく気になる存在というレベルではなく、
なんとなく、すこし気になる程度の存在であったD130が、
ここにきてすごく気になる存在になってきた。

これはD130が、私のなかで「異相の木」として育ってきたからなのかもしれない。
最初は芽がでたばかり、という存在のD130が、D130の存在を知って30年以上経て、
いつしか、どうしても視界にはいってくる気になる木になっていた。

これまでは、いままで使ってきたいくつかのスピーカーシステムという木の陰にかくれていたからか、
ここにくるまで気がつかなかったのだろう。

でも、いまははっきりと視界のなかにいるD130は、私にとっては「異相の木」だという確信がある。
だから、欲しい、という気持ではなく、
一度本気で使ってみなければならない、という気持が日増しに強くなっている。

黒田先生が「異相の木」をステレオサウンド 56号に書かれて、読んだ時から30年以上経ち、
私にとっての、オーディオにおける「異相の木」をやっと見つけることができた──。
というよりも気づくことができた、というべきかもしれない。

Date: 3月 29th, 2012
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その20)

ステレオサウンド 124号の座談会の中から井上先生の発言を抜き書きしてみる。
     *
そもそもスピーカーというものは物理特性が非常に悪いものなんです。ところが上手に鳴らすと巧いこと鳴ってしまう。その意味で、僕は20cmクラスのフルレンジが一番面白いのではないかと思っています。
僕がスピーカーの開発に携わってから30年。レコードを聴きはじめてからは、もう60年。最初好きだったのはローラとかジェンセンの25cmのユニット。英国のフェランティというスピーカーもありましたね。そういったものが家に転がっていたものだから、子供の頃からそれで遊んでいた。もともとシングルコーン派なんですね。
(中略)
要するに、僕はホーンやマルチウェイをイヤというほどやってきたんですね。しかしマルチウェイのクロスオーバーを突き詰めて考えると色々な問題が生じてくる。減衰が18dB/オクターヴでも、24dBでも、12dBでもおかしい。これらの場合は、3ウェイでも2ウェイでも、現実にはユニット同士の位相がすべてバラバラなんです。振幅特性よりも位相特性を考えると、クロスオーバーの減衰は6dBしかないというのが僕の意見。もちろんこれは何を重視するかによって変りますよ。
それでフルレンジをベースとして、ある程度はレンジを広げたい、ということでいま使っているのがボザークのB310。これのネットワークの減衰特性は6dBです。低域は30cmウーファーか4発。中高域は、16cmスコーカーが2発と、二個一組のトゥイーターが4発で、すべてコーン型ユニットで構成され、中域以上はメタルコーンにゴムでダンピングをした振動板を使っている。僕の持論ですが、低音楽器の再生を考えると、本来ならウーファーは30cmなら4発、38cmなら2発必要なんです。そんな理由からボザークを選んで使って30年近くが経ちました。
     *
ステレオサウンド 124号の座談会は出席者が9人と多かったせいもあってか、
それとおそらくは座談会のまとめの段階で誌面のページ数の制約によって、
実際はもっともっといろいろと語られているであろうことが削られているようにも思える。
それは編集上仕方のないことであって、文句を言うことでもない。
だから、井上先生が、フルレンジの良さについて具体的に語られているのは、
124号ではなく、ステレオサウンド別冊の「いまだからフルレンジ 1939-1997」を参照する。

この別冊は、1997年当時の現行フルレンジユニット15機種、
往年の名器と呼ばれるフルレンジユニット12機種の紹介と、
巻頭に「フルレンジの魅力」という井上先生が文章がある。

「いまだからフルレンジ 1939-1997」は井上先生監修の別冊である。

Date: 3月 28th, 2012
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その19)

ステレオサウンド 124号の特集は、オーディオの流儀──自分だけの「道」を探そう、と題されて、
第一部が「独断的オーディオの流儀を語る」で、
朝沼予史宏、井上卓也、上杉佳郎、小林貢、菅野沖彦、長島達夫、傅信幸、三浦孝仁、柳沢功力、
以上9氏による座談会。
第二部は「流儀別システムプラン28選」という組合せの紹介、という二部構成になっている。

座談会のページは、各氏の紹介囲み的に各ページにあり、そこには各人がそれぞれの流儀について書かれている。
井上先生は、こう書かれている。
     *
録音・再生系を基本としたオーディオでは、再生音を楽しむための基本条件として、原音再生は不可能であるということがある。録音サイドの問題にタッチせず、再生側のみのコントロールで、各種のプログラムを材料として再生音を楽しむこと、の2点が必要だ。再生系ではスピーカーシステムが重要だが、電気系とくらべ性能は非常に悪い。しかし、ルーム・アコースティック・設置条件、駆動アンプ等の調整次第でかなり原音的なイリュージョンが聴きとれるのは不思議なことだ。
スピーカーは20cm級全域型が基本と考えており、簡潔で親しみやすい魅力がある。プログラムソースの情報量が増えれば、マルチウェイ化の必要に迫られるが、クロスオーバーの存在は振幅的・位相的に変化をし、予想以上の情報欠落を生じるため、遮断特性は6dB型しかないであろう。
ステレオ再生では、音場再生が大切で、非常に要素が多く、各種各様な流儀が生じるかもしれない。
     *
そして、井上先生はシンボル・スピーカーとして、
パイオニアExclusive 2404とアクースティックラボStella Elegansを挙げられている。

Stella Elegansは、ドイツのマンガーのBWTを中心としたシステム。
BWTは、Bending Wave Transducerの頭文字をとったもので、
ジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットと同じベンディングウェーヴ型(非ピストニックモーション)で、
口径は20cmで、振動板はジャーマン・フィジックスと同じで柔らかい。
Stella Elegansは、BWTに22cm口径のコーン型ウーファーをダブルで追加している。

井上先生は、座談会のなかでも20cm口径のフルレンジについて語られている。

Date: 2月 25th, 2012
Cate: 4343, JBL

4343と2405(その6)

ステレオサウンド 47号には、前号(46号)の特集、モニタースピーカーの測定結果が掲載されている。
この測定結果も実に興味深いものだが、ここではその一部、つまり2405に関することだけを書く。

47号には10機種(アルテック602A、キャバス・ブリガンタン、ダイヤトーンMonitor1、JBL・4333A、4343、
K+H・O92、OL10、スペンドールBCIII、UREI・813、ヤマハNS1000M)の実測データが載っている。
これらのデータで首を傾げてしまったのが、4333Aと4343の超高域周波数特性だった。
いうまでもなく4333Aと4343のトゥイーターは2405。
なのに実測データをみると、同じトゥイーターが付いているとも思い難い違いがあった。
4333Aと4343ではLCネットワークに違いはあるというものの、2405に関してはローカットだけであり、
47号に掲載されている超高域周波数特性の、
それも20kHz以上に関してはLCネットワークの違いによる影響はないもの、といってよい。
なのに、47号のデータはずいぶん違うカーヴを描いている。

もしかすると2405のバラツキなのかも……、と思ったりしたが、確信はなかった。
ステレオサウンドで働くようになって、2405はバラツキが意外と多い、という話も耳にした。
このときはそうかもしれないぁ、ぐらいに受けとめていた。

ステレオサウンドを離れてけっこう経って、ある方からある話を聞いた。
実はNHKはJBLのスタジオモニターの導入を検討していたことがあった、という話だった。
最終的にはJBLは採用されなかったのだが、その大きな理由が2405の、予想以上のバラツキの大きさだった。
導入台数が1ペアとか2ペアといったものではなく、
ひじょうに大きな台数であっただけにバラツキの大きさは無視できない問題となった、ときいた。

結局、2405の、それもアルニコ時代のものは、
クサビ状イコライザーとダイアフラム間の精度(工作精度、取付け精度)にやや問題があり、
周波数特性でのバラツキが出ていた、らしい。
(おそらく、この問題はシリアルナンバーが近いから、連番だから発生しない、ということではないはずだ。)
この点は後期のものでは改良されたようで、
それがいつごろからなのかははっきりしないものの、
少なくともフェライト仕様の2405Hでは解消されている、ときいている。

もちろん2405のアルニコ・モデルすべてに大きなバラツキがあるわけではないけれど、
バラツキのまったくないスピーカーユニットというのも、少し極端な言い方をすれば、ひとつもない、といえる。
スピーカーユニットは、大なり小なりバラついているモノである。

この事実を、どう受けとめるかは、結局はその人次第のはずだ。

Date: 2月 21st, 2012
Cate: 4343, JBL

4343と2405(その5)

JBLのトゥイーター、2405を最初に写真で見た時、
ホーン型といわれてもすぐにはどういう構造なのか理解できなかった。
JBLのホーン型トゥイーターの075は写真を見れば、すぐにわかる。
それに較べると2405は、不思議な形をしているものだ、と感じた。

仮に075が2405と同じ周波数特性をもっていたとして、
4343のトゥイーターとして075(そのプロ仕様の2402)がついていたら、
4343の印象とずいぶんと違ったものになっていたことは間違いないし、
そうだとしたらステレオサウンド 41号の表紙を見た時に、これほど強くは魅かれなかった可能性もある。

2405は、075とは違う系統のトゥイーターのようにも思えていた。
だとしたら、2405はどうやって生れてきたのか。

10年ほど前か、2405は最初オーディオ用のトゥイーターとして開発されたものではなくて、
警察がスピード違反を取り締まるため、その測定用のモノとしてつくられ、
聴感上も特性上も好ましいモノだったので、のちにオーディオ用として使われていった、という話を聞いた。

この話をしてくれた人も細部の記憶があやふやで、それが事実なのかはっきりとはしなかった。
075の形、2405の形を見れば、それも頷けるものの、もっとはっきりとしたことが知りたかった。

スイングジャーナル 1978年6月号にJBLproのゲイリー・マルゴリスのインタヴュー記事が載っている。
そこに24045のことが語られている。
     *
最初このツイーターは、ある鉄道会社の依頼で列車の連結台数を数える超音波の発信器として作ったのですが、これが特性的にも聴感的にも優れたもので、現在2405と呼ばれるものです。
     *
2405についての話は細部は違っていたものの、
もともと測定用の超音波発生器として開発されたものであることは事実だった。

Date: 2月 11th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・余談)

D130の特性は、ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES 4 に載っている。
D130の前にランシングによるJBLブランド発のユニットD101の特性は、どうなっているのか。
(これは、アルテックのウーファー515とそっくりの外観から、なんとなくではあるが想像はつく。)

1925年、世界初のスピーカーとして、
スピーカーの教科書、オーディオの教科書的な書籍では必ずといっていいほど紹介されているアメリカGE社の、
C. W. RiceとE. W. Kelloggの共同開発によるスピーカーの特性は、どうなっているのか。
このスピーカーの振動板の直径は6インチ。フルレンジ型と捉えていいだろう。

エジソンが1877年に発明・公開した録音・再生機フォノグラフの特性は、どうなっているのか。

おそらく、どれも再生帯域幅の広さには違いはあっても、
人の声を中心とした帯域をカバーしていた、と思う。

エジソンは「メリーさんの羊」をうたい吹き込んで実験に成功している、ということは、
低域、もしくは高域に寄った周波数特性ではなかった、といえる。
これは偶然なのだろうか、と考える。
エジソンのフォノグラフは錫箔をはりつけた円柱に音溝を刻む。
この材質の選択にはそうとうな実験がなされた結果であろうと思うし、
もしかすると最初から錫箔で、偶然にもうまくいった可能性もあるのかもしれない、とも思う。

どちらにしろ、人の声の録音・再生にエジソンは成功したわけだ。

GEの6インチのスピーカーユニットは、どうだったのか。
エジソンがフォノグラフの公開実験を成功させた1877年に、
スピーカーの特許がアメリカとドイツで申請されている。
どちらもムービングコイル型の構造で、つまり現在のコーン型ユニットの原型ともいえるものだが、
この時代にはスピーカーを鳴らすために必要なアンプがまだ存在しておらず、
世界で初めて音を出したスピーカーは、それから約50年後のGEの6インチということになる。

このスピーカーユニットの音を聴きたい、とは特に思わないが、
周波数特性がどの程度の広さ、ということよりも、どの帯域をカヴァーしていたのかは気になる。

なぜRiceとKelloggは、振動板の大きさを6インチにしたのかも、気になる。
振動板の大きさはいくつか実験したのか、それとも最初から6インチだったのか。
最初から6インチだったとしたら、このサイズはどうやって決ったのか。

Date: 2月 8th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その25)

JBL・D130のトータルエネルギー・レスポンスをみていると、
ほぼフラットな帯域が、偶然なのかそれとも意図したものかはわからないが、
ほぼ40万の法則に添うものとなっている。
100Hzから4kHzまでがほぼフラットなエネルギーを放出できる帯域となっている。

とにかくこの帯域において、もう一度書くがピークもディップもみられない。
このことが、コーヒーカップのスプーンが音を立てていくことに関係している、と確信できる。

D130と同等の高能率のユニット、アルテックの604-8G。
残響室内の能率はD130が104dB/W、604-8Gが105dB/Wと同等。
なのに604-8Gの試聴感想のところに、コーヒーカップのスプーンについての発言はない。
D130も604-8Gも同じレベルの音圧を取り出せるにも関わらず、この違いが生じているのは、
トータルエネルギー・レスポンスのカーヴの違いになんらかの関係があるように考えている。

604-8Gのトータルエネルギー・レスポンスは1kから2kHzあたりにディップがあり、
100Hzから4kHzまでの帯域に限っても、D130のほうがきれいなカーヴを描く。

ならばタンノイのHPD315はどうかというと、
100Hzから4kHzのトータルエネルギー・レスポンスはほぼフラットだが、
残響室内の能率が95.5dB/Wと約10dB低い。
それにHPD315は1kHzにクロスオーバー周波数をもつ同軸型2ウェイ・ユニットである。

コーヒーカップのスプーンに音を立てさせるのは、いわば音のエネルギーであるはず。音力である。
この音力が、D130とHPD315とではいくぶん開きがあるのと、
ここには音流(指向特性や位相と関係しているはず)も重要なパラメーターとして関わっているような気がする。
(試聴音圧レベルも、試聴記を読むと、D130のときはそうとうに高くされたことがわかる。)

20Hzから20kHzという帯域幅においては、マルチウェイに分があることも生じるが、
100Hzから4kHzという狭い帯域内では、マルチウェイよりもシングルコーンのフルレンジユニットのほうが、
音流に関しては、帯域内での息が合っている、とでもいおうか、流れに乱れが少ない、とでもいおうか、
結局のところ、D130のところでスプーンが音を立てたのは音力と音流という要因、
それらがきっと関係しているであろう一瞬一瞬の音のエネルギーのピークの再現性ではなかろうか。

このD130の「特性」が、岩崎先生のジャズの聴き方にどう影響・関係していったのか──。
(私にとって、James Bullough Lansing = D130であり、岩崎千明 = D130である。
そしてD130 = 岩崎千明でもあり、D130 = Jazz Audioなのだから。)

Date: 1月 15th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その24)

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4には、37機種のフルレンジユニットが取り上げられている。
国内メーカー17ブランド、海外メーカー8ブランドで、うち10機種が同軸型ユニットとなっている。

HIGH-TECHNIC SERIES 4には、周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率、インピーダンス特性、
トータルエネルギー・レスポンスと残響室内における能率、リアル・インピーダンスが載っている。
測定に使われた信号は、周波数・指向特性、高調波歪率、インピーダンス特性がサインウェーヴ、
トータルエネルギー・レスポンス、残響室内における能率、リアル・インピーダンスがピンクノイズとなっている。

HIGH-TECHNIC SERIES 4をいま見直しても際立つのが、D130のトータルエネルギー・レスポンスの良さだ。
D130よりもトータルエネルギー・レスポンスで優秀な特性を示すのは、タンノイのHPD315Aぐらいである。
あとは同じくタンノイのHPD385Aも優れているが、このふたつは同軸型ユニットであることを考えると、
D130のトータルエネルギー・レスポンスは、
帯域は狭いながらも(100Hzあたりから4kHzあたりまで)、
ピーク・ディップはなくなめらかなすこし弓なりのカーヴだ。

この狭い帯域に限ってみても、ほかのフルレンジユニットはピーク・ディップが存在し、フラットではないし、
なめらかなカーヴともいえない、それぞれ個性的な形を示している。
D130と同じJBLのLE8Tでも、トータルエネルギー・レスポンスにおいては、800Hzあたりにディップが、
その上の1.5kHz付近にピークがあるし、全体的な形としてもなめらかなカーヴとは言い難い。
サインウェーヴでの周波数特性ではD130よりもはっきりと優秀な特性のLE8Tにも関わらず、
トータルエネルギー・レスポンスとなると逆転してしまう。

その理由は測定に使われる信号がサインウェーヴかピンクノイズか、ということに深く関係してくるし、
このことはスピーカーユニットを並列に2本使用したときに音圧が何dB上昇するか、ということとも関係してくる。
ただ、これについて書いていくと、この項はいつまでたっても終らないので、項を改めて書くことになるだろう。

とにかく周波数特性はサインウェーヴによる音圧であるから、
トータルエネルギー・レスポンスを音力のある一部・側面を表していると仮定するなら、
周波数特性とトータルエネルギー・レスポンスの違いを生じさせる要素が、音流ということになる。

Date: 1月 14th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その23)

ステレオサウンド 54号のころには私も高校生になっていた。
高校生なりに考えた当時の結論は、
電気には電圧・電流があって、電圧と電流の積が電力になる。
ということはスピーカーの周波数特性は音圧、これは電圧に相当するもので、
電流に相当するもの、たとえば音流というものが実はあるのかもしれない。
もし電流ならぬ音流があれば、音圧と音流の積が電力ならぬ音力ということになるのかもしれない。

そう考えると、52号、53号でのMC2205、D79、TVA1の4343負荷時の周波数特性は、
この項の(その21)に書いたように、4343のスピーカー端子にかかる電圧である。

一方、トータルエネルギー・レスポンスは、エネルギーがつくわけだから、
エネルギー=力であり、音力と呼べるものなのかもしれない。
そしてスピーカーシステムの音としてわれわれが感じとっているものは、
音圧ではなく、音力なのかもしれない──、こんなことを17歳の私の頭は考えていた。

では音流はどんなものなのか、音力とはどういうものなのか、について、
これらの正体を具体的に掴んでいたわけではない。
単なる思いつきといわれれば、たしかにそうであることは認めるものの、
音力と呼べるものはある、といまでも思っている。

音力を表したものがトータルエネルギー・レスポンス、とは断言できないものの、
音力の一部を捉えたものである、と考えているし、
この考えにたって、D130のトータルエネルギー・レスポンスをみてみると、
その6)に書いた、コーヒーカップのスプーンがカチャカチャと音を立てはじめたことも納得がいく。

Date: 1月 14th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その22)

マッキントッシュのMC2205はステレオサウンド 52号に、
オーディオリサーチD79とマイケルソン&オースチンのTVA1は53号に載っている。
つづく54号は、スピーカーシステムの特集号で、この号に掲載されている実測データは、
周波数・志向特性、インピーダンス特性、トータルエネルギー・レスポンス、
残響室における平均音量(86dB)と最大音量レベル(112dB)に必要な出力、
残響室での能率とリアル・インピーダンスである。

サインウェーヴによる周波数特性とピンクノイズによるトータルエネルギー・レスポンスの比較をやっていくと、
44号、45号よりも、差が大きいものが増えたように感じた。
44号、45号は1977年、54号は1980年、約2年半のあいだにスピーカーシステムの特性、
つまり周波数特性は向上している、といえる。
ピークやディップが目立つものが、特に国産スピーカーにおいては減ってきている。
しかし、国産スピーカーに共通する傾向として、中高域の張り出しが指摘されることがある。

けれど周波数特性をみても、中高域の帯域がレベル的に高いということはない。
中高域の張り出しは聴感的なものでもあろうし、
単に周波数特性(振幅特性)ではなく歪や位相との兼ね合いもあってものだと、
54号のトータルエネルギー・レスポンスを見るまでは、なんとなくそう考えていた。

けれど54号のトータルエネルギー・レスポンスは、中高域の張り出しを視覚的に表示している。
サインウェーヴで計測した周波数特性はかなりフラットであっても、
ピンクノイズで計測したトータルエネルギー・レスポンスでは、
まったく違うカーヴを描くスピーカーシステムが少なくない。
しかも国産スピーカーシステムのほうが、まなじ周波数特性がいいものだから、その差が気になる。

中高域のある帯域(これはスピーカーシステムによって多少ずれている)のレベルが高い。
しかもそういう傾向をもつスピーカーシステムの多くは、その近くにディップがある。
これではよけいにピーク(張り出し)が耳につくことになるはずだ。

ステレオサウンド 52、53、54と3号続けて読むことで、
周波数特性とはいったいなんなのだろうか、考えることになった。

Date: 1月 13th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その21)

ステレオサウンド 52号、53号で行われた4343負荷時の周波数特性の測定は、
いうまでもないことだが、4343を無響室にいれて、4343の音をマイクロフォンで拾って、という測定方法ではない。
4343の入力端子にかかる電圧を測定して、パワーアンプの周波数特性として表示している。

パワーアンプの出力インピーダンスは、考え方としてはパワーアンプの出力に直列にはいるものとなる。
そしてスピーカーが、これに並列に接続されるわけで、
パワーアンプからみれば、自身の出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンスの合せたものが負荷となり、
その形は、抵抗を2本使った減衰器(分割器)そのものとなる。
パワーアンプの出力インピーダンスが1Ωを切って、0.1Ωとかもっと低い値であれば、
この値が直列に入っていたとしても、スピーカーのインピーダンスが8Ωと十分に大きければ、
スピーカーにかかる電圧はほぼ一定となる。つまり周波数特性はフラットということだ。

ところが出力インピーダンスが、仮に8Ωでスピーカーのインピーダンスと同じだったとする。
こうなるとスピーカーにかかる電圧は半分になってしまう。
スピーカーのインピーダンスは周波数によって変化する。
スピーカーのインピーダンスが8Ωよりも低くなると、スピーカーにかかる電圧はさらに低くなり、
8Ωよりも高くなるとかかる電圧は高くなるわけだ。
しかもパワーアンプの出力インピーダンスも周波数によって変化する。
可聴帯域内ではフラットなものもあるし、
低域では低い値のソリッドステート式のパワーアンプでも、中高域では出力インピーダンスが上昇するものも多い。

おおまかな説明だが、こういう理由により出力インピーダンスが高いパワーアンプだと、
スピーカーのインピーダンスの変化と相似形の周波数特性となりがちだ。

TVA1では1kHz以上の帯域が約1dBほど、D79では2dBほど高くなっている。
たとえばスクロスオーバー周波数が1kHzのあたりにある2ウェイのスピーカーシステムで、
レベルコントロールでトゥイーターを1dBなり2dBあげたら、はっきりと音のバランスは変化することが聴きとれる。

だからステレオサウンド 52号、53号の測定結果をみて、不思議に思った。
そうなることは頭で理解していても、このことがどう音に影響するのか、そのことを不思議に思った。

この測定で使われている信号は、いうまでもなくサインウェーヴである。

Date: 1月 12th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その20)

ステレオサウンド 52号では53機種、53号では28機種のアンプがテストされている。
この81機種のうち3機種だけが、負荷を抵抗からJBLの4343にしたさいに周波数特性が、
4343のインピータンス・カーヴをそのままなぞるようなカーヴになる。

具体的な機種名を挙げると、マッキントッシュのMCMC2205、オーディオリサーチのD79、
マイケルソン&オースチンのTVA1である。

D79とTVA1は管球式パワーアンプ、MC2205はソリッドステート式だが、
この3機種には出力トランス(オートフォーマーを含む)を搭載しているという共通点がある。
これら以外の出力トランスを搭載していないその他のパワーアンプでは、
ごく僅か高域が上昇しているものがいくつか見受けられるし、逆に高域が減衰しているものもあるが、
MC2205、D79、TVA1の4343負荷時のカーヴと比較すると変化なし、といいたくなる範囲でしかない。

MC2205もD79、TVA1も、出力インピーダンスが高いことは、この実測データからすぐにわかる。
ちなみにMC2205のダンピングファクターは8Ω負荷時で16、となっている。
他のアンプでは100とか200という数値が、ダンピングファクターの値としてカタログに表記されているから、
トランジスター式とはいえ、MC2205の値は低い(出力インピーダンスが高い)。

MC2205の4343接続時の周波数特性のカーヴは、60Hzあたりに谷があり400Hzあたりにも小さな谷がある。
1kHzより上で上昇し+0.7dBあたりまでいき、
10kHzあたりまでこの状態がつづき、少し下降して+0.4dB程度になる。
D79はもっともカーヴのうねりが多い機種で、ほぼ4343のインピーダンス・カーヴそのものといえる。
4343のf0あたりに-1.7dB程度の山がしり急激に0dBあたりまで下りうねりながら1kHzで急激に上昇する。
ほぼ+2dBほどあがり、MC2205と同じようにこの状態が続き、10kHzで少し落ち、また上昇する。
1kHzでは0dbを少し切るので、周波数特性の下限と上限の差は2dB強となる。
TVA1はD79と基本的に同じカーヴを描くが、レベル変動幅はD79の約半分程度である。

こんなふうに書いていくと、MC2205、D79、TVA1が聴かせる音は、
周波数特性的にどこかおかしなところのある音と受けとられるかもしれないが、
これらのアンプの試聴は、岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦の三氏によるが、そんな指摘は出てこない。

Date: 1月 11th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その19)

ステレオサウンド 52号、53号でのアンプの測定で注目すべきは、負荷条件を変えて行っている点である。
測定項目は混変調歪率、高調波歪率(20kHzの定格出力時)、それに周波数特性と項目としては少ないが、
パワーアンプの負荷として、通常の測定で用いられるダミー抵抗の他に、
ダミースピーカーとJBLの4343を用いている。

歪が、純抵抗を負荷としたときとダミースピーカーを負荷にしたときで、どう変化するのかしないのか。
大半のパワーアンプはダミースピーカー接続時よりも純抵抗接続時のほうが歪率は低い。
けれど中にはダミースピーカー接続時も変らないものもあるし、ダミースピーカー接続時のほうが低いアンプもある。

歪率のカーヴも純抵抗とダミースピーカーとで比較してみると興味深い。
このことについて書き始めると、本題から大きく外れてしまうのがわかっているからこのへんにしておくが、
52号、53号に掲載されている測定データが、この項と関連することで興味深いのは、
JBLの4343を負荷としたときの周波数特性である。

4343のインピーダンス特性はステレオサウンドのバックナンバーに何度か掲載されている。
f0で30Ω近くまで上昇した後200Hzあたりでゆるやかに盛り上り(とはいっても10Ωどまり)、
その羽化ではややインピーダンスは低下して1kHzで最低値となり、こんどは一点上昇していく。
2kHzあたりで20Ωになり3kHzあたりまでこの値を保ち、また低くなっていくが、8kHzから上はほほ横ばい。
ようするにかなりうねったインピーダンス・カーヴである。

ステレオサウンド 52号、53号は1979年発売だから、
このころのアンプの大半はトランジスター式でNFB量も多いほうといえる。
そのおかげでパワーアンプの出力インピーダンスはかなり低い値となっているものばかりといえよう。
つまりダンピングファクターは、NFB量の多い帯域ではかなり高い値となる。

ダンピングファクターをどう捉えるかについても、ここでは詳しくは述べない。
ここで書きたいのは、52号、53号に登場しているパワーアンプの中にダンピングファクターの低いものがあり、
これらのアンプの周波数特性は、抵抗負荷時と4343負荷時では周波数特性が大きく変化する、ということである。