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Date: 2月 11th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・余談)

D130の特性は、ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES 4 に載っている。
D130の前にランシングによるJBLブランド発のユニットD101の特性は、どうなっているのか。
(これは、アルテックのウーファー515とそっくりの外観から、なんとなくではあるが想像はつく。)

1925年、世界初のスピーカーとして、
スピーカーの教科書、オーディオの教科書的な書籍では必ずといっていいほど紹介されているアメリカGE社の、
C. W. RiceとE. W. Kelloggの共同開発によるスピーカーの特性は、どうなっているのか。
このスピーカーの振動板の直径は6インチ。フルレンジ型と捉えていいだろう。

エジソンが1877年に発明・公開した録音・再生機フォノグラフの特性は、どうなっているのか。

おそらく、どれも再生帯域幅の広さには違いはあっても、
人の声を中心とした帯域をカバーしていた、と思う。

エジソンは「メリーさんの羊」をうたい吹き込んで実験に成功している、ということは、
低域、もしくは高域に寄った周波数特性ではなかった、といえる。
これは偶然なのだろうか、と考える。
エジソンのフォノグラフは錫箔をはりつけた円柱に音溝を刻む。
この材質の選択にはそうとうな実験がなされた結果であろうと思うし、
もしかすると最初から錫箔で、偶然にもうまくいった可能性もあるのかもしれない、とも思う。

どちらにしろ、人の声の録音・再生にエジソンは成功したわけだ。

GEの6インチのスピーカーユニットは、どうだったのか。
エジソンがフォノグラフの公開実験を成功させた1877年に、
スピーカーの特許がアメリカとドイツで申請されている。
どちらもムービングコイル型の構造で、つまり現在のコーン型ユニットの原型ともいえるものだが、
この時代にはスピーカーを鳴らすために必要なアンプがまだ存在しておらず、
世界で初めて音を出したスピーカーは、それから約50年後のGEの6インチということになる。

このスピーカーユニットの音を聴きたい、とは特に思わないが、
周波数特性がどの程度の広さ、ということよりも、どの帯域をカヴァーしていたのかは気になる。

なぜRiceとKelloggは、振動板の大きさを6インチにしたのかも、気になる。
振動板の大きさはいくつか実験したのか、それとも最初から6インチだったのか。
最初から6インチだったとしたら、このサイズはどうやって決ったのか。

Date: 2月 8th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その25)

JBL・D130のトータルエネルギー・レスポンスをみていると、
ほぼフラットな帯域が、偶然なのかそれとも意図したものかはわからないが、
ほぼ40万の法則に添うものとなっている。
100Hzから4kHzまでがほぼフラットなエネルギーを放出できる帯域となっている。

とにかくこの帯域において、もう一度書くがピークもディップもみられない。
このことが、コーヒーカップのスプーンが音を立てていくことに関係している、と確信できる。

D130と同等の高能率のユニット、アルテックの604-8G。
残響室内の能率はD130が104dB/W、604-8Gが105dB/Wと同等。
なのに604-8Gの試聴感想のところに、コーヒーカップのスプーンについての発言はない。
D130も604-8Gも同じレベルの音圧を取り出せるにも関わらず、この違いが生じているのは、
トータルエネルギー・レスポンスのカーヴの違いになんらかの関係があるように考えている。

604-8Gのトータルエネルギー・レスポンスは1kから2kHzあたりにディップがあり、
100Hzから4kHzまでの帯域に限っても、D130のほうがきれいなカーヴを描く。

ならばタンノイのHPD315はどうかというと、
100Hzから4kHzのトータルエネルギー・レスポンスはほぼフラットだが、
残響室内の能率が95.5dB/Wと約10dB低い。
それにHPD315は1kHzにクロスオーバー周波数をもつ同軸型2ウェイ・ユニットである。

コーヒーカップのスプーンに音を立てさせるのは、いわば音のエネルギーであるはず。音力である。
この音力が、D130とHPD315とではいくぶん開きがあるのと、
ここには音流(指向特性や位相と関係しているはず)も重要なパラメーターとして関わっているような気がする。
(試聴音圧レベルも、試聴記を読むと、D130のときはそうとうに高くされたことがわかる。)

20Hzから20kHzという帯域幅においては、マルチウェイに分があることも生じるが、
100Hzから4kHzという狭い帯域内では、マルチウェイよりもシングルコーンのフルレンジユニットのほうが、
音流に関しては、帯域内での息が合っている、とでもいおうか、流れに乱れが少ない、とでもいおうか、
結局のところ、D130のところでスプーンが音を立てたのは音力と音流という要因、
それらがきっと関係しているであろう一瞬一瞬の音のエネルギーのピークの再現性ではなかろうか。

このD130の「特性」が、岩崎先生のジャズの聴き方にどう影響・関係していったのか──。
(私にとって、James Bullough Lansing = D130であり、岩崎千明 = D130である。
そしてD130 = 岩崎千明でもあり、D130 = Jazz Audioなのだから。)

Date: 1月 15th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その24)

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4には、37機種のフルレンジユニットが取り上げられている。
国内メーカー17ブランド、海外メーカー8ブランドで、うち10機種が同軸型ユニットとなっている。

HIGH-TECHNIC SERIES 4には、周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率、インピーダンス特性、
トータルエネルギー・レスポンスと残響室内における能率、リアル・インピーダンスが載っている。
測定に使われた信号は、周波数・指向特性、高調波歪率、インピーダンス特性がサインウェーヴ、
トータルエネルギー・レスポンス、残響室内における能率、リアル・インピーダンスがピンクノイズとなっている。

HIGH-TECHNIC SERIES 4をいま見直しても際立つのが、D130のトータルエネルギー・レスポンスの良さだ。
D130よりもトータルエネルギー・レスポンスで優秀な特性を示すのは、タンノイのHPD315Aぐらいである。
あとは同じくタンノイのHPD385Aも優れているが、このふたつは同軸型ユニットであることを考えると、
D130のトータルエネルギー・レスポンスは、
帯域は狭いながらも(100Hzあたりから4kHzあたりまで)、
ピーク・ディップはなくなめらかなすこし弓なりのカーヴだ。

この狭い帯域に限ってみても、ほかのフルレンジユニットはピーク・ディップが存在し、フラットではないし、
なめらかなカーヴともいえない、それぞれ個性的な形を示している。
D130と同じJBLのLE8Tでも、トータルエネルギー・レスポンスにおいては、800Hzあたりにディップが、
その上の1.5kHz付近にピークがあるし、全体的な形としてもなめらかなカーヴとは言い難い。
サインウェーヴでの周波数特性ではD130よりもはっきりと優秀な特性のLE8Tにも関わらず、
トータルエネルギー・レスポンスとなると逆転してしまう。

その理由は測定に使われる信号がサインウェーヴかピンクノイズか、ということに深く関係してくるし、
このことはスピーカーユニットを並列に2本使用したときに音圧が何dB上昇するか、ということとも関係してくる。
ただ、これについて書いていくと、この項はいつまでたっても終らないので、項を改めて書くことになるだろう。

とにかく周波数特性はサインウェーヴによる音圧であるから、
トータルエネルギー・レスポンスを音力のある一部・側面を表していると仮定するなら、
周波数特性とトータルエネルギー・レスポンスの違いを生じさせる要素が、音流ということになる。

Date: 1月 14th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その23)

ステレオサウンド 54号のころには私も高校生になっていた。
高校生なりに考えた当時の結論は、
電気には電圧・電流があって、電圧と電流の積が電力になる。
ということはスピーカーの周波数特性は音圧、これは電圧に相当するもので、
電流に相当するもの、たとえば音流というものが実はあるのかもしれない。
もし電流ならぬ音流があれば、音圧と音流の積が電力ならぬ音力ということになるのかもしれない。

そう考えると、52号、53号でのMC2205、D79、TVA1の4343負荷時の周波数特性は、
この項の(その21)に書いたように、4343のスピーカー端子にかかる電圧である。

一方、トータルエネルギー・レスポンスは、エネルギーがつくわけだから、
エネルギー=力であり、音力と呼べるものなのかもしれない。
そしてスピーカーシステムの音としてわれわれが感じとっているものは、
音圧ではなく、音力なのかもしれない──、こんなことを17歳の私の頭は考えていた。

では音流はどんなものなのか、音力とはどういうものなのか、について、
これらの正体を具体的に掴んでいたわけではない。
単なる思いつきといわれれば、たしかにそうであることは認めるものの、
音力と呼べるものはある、といまでも思っている。

音力を表したものがトータルエネルギー・レスポンス、とは断言できないものの、
音力の一部を捉えたものである、と考えているし、
この考えにたって、D130のトータルエネルギー・レスポンスをみてみると、
その6)に書いた、コーヒーカップのスプーンがカチャカチャと音を立てはじめたことも納得がいく。

Date: 1月 14th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その22)

マッキントッシュのMC2205はステレオサウンド 52号に、
オーディオリサーチD79とマイケルソン&オースチンのTVA1は53号に載っている。
つづく54号は、スピーカーシステムの特集号で、この号に掲載されている実測データは、
周波数・志向特性、インピーダンス特性、トータルエネルギー・レスポンス、
残響室における平均音量(86dB)と最大音量レベル(112dB)に必要な出力、
残響室での能率とリアル・インピーダンスである。

サインウェーヴによる周波数特性とピンクノイズによるトータルエネルギー・レスポンスの比較をやっていくと、
44号、45号よりも、差が大きいものが増えたように感じた。
44号、45号は1977年、54号は1980年、約2年半のあいだにスピーカーシステムの特性、
つまり周波数特性は向上している、といえる。
ピークやディップが目立つものが、特に国産スピーカーにおいては減ってきている。
しかし、国産スピーカーに共通する傾向として、中高域の張り出しが指摘されることがある。

けれど周波数特性をみても、中高域の帯域がレベル的に高いということはない。
中高域の張り出しは聴感的なものでもあろうし、
単に周波数特性(振幅特性)ではなく歪や位相との兼ね合いもあってものだと、
54号のトータルエネルギー・レスポンスを見るまでは、なんとなくそう考えていた。

けれど54号のトータルエネルギー・レスポンスは、中高域の張り出しを視覚的に表示している。
サインウェーヴで計測した周波数特性はかなりフラットであっても、
ピンクノイズで計測したトータルエネルギー・レスポンスでは、
まったく違うカーヴを描くスピーカーシステムが少なくない。
しかも国産スピーカーシステムのほうが、まなじ周波数特性がいいものだから、その差が気になる。

中高域のある帯域(これはスピーカーシステムによって多少ずれている)のレベルが高い。
しかもそういう傾向をもつスピーカーシステムの多くは、その近くにディップがある。
これではよけいにピーク(張り出し)が耳につくことになるはずだ。

ステレオサウンド 52、53、54と3号続けて読むことで、
周波数特性とはいったいなんなのだろうか、考えることになった。

Date: 1月 13th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その21)

ステレオサウンド 52号、53号で行われた4343負荷時の周波数特性の測定は、
いうまでもないことだが、4343を無響室にいれて、4343の音をマイクロフォンで拾って、という測定方法ではない。
4343の入力端子にかかる電圧を測定して、パワーアンプの周波数特性として表示している。

パワーアンプの出力インピーダンスは、考え方としてはパワーアンプの出力に直列にはいるものとなる。
そしてスピーカーが、これに並列に接続されるわけで、
パワーアンプからみれば、自身の出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンスの合せたものが負荷となり、
その形は、抵抗を2本使った減衰器(分割器)そのものとなる。
パワーアンプの出力インピーダンスが1Ωを切って、0.1Ωとかもっと低い値であれば、
この値が直列に入っていたとしても、スピーカーのインピーダンスが8Ωと十分に大きければ、
スピーカーにかかる電圧はほぼ一定となる。つまり周波数特性はフラットということだ。

ところが出力インピーダンスが、仮に8Ωでスピーカーのインピーダンスと同じだったとする。
こうなるとスピーカーにかかる電圧は半分になってしまう。
スピーカーのインピーダンスは周波数によって変化する。
スピーカーのインピーダンスが8Ωよりも低くなると、スピーカーにかかる電圧はさらに低くなり、
8Ωよりも高くなるとかかる電圧は高くなるわけだ。
しかもパワーアンプの出力インピーダンスも周波数によって変化する。
可聴帯域内ではフラットなものもあるし、
低域では低い値のソリッドステート式のパワーアンプでも、中高域では出力インピーダンスが上昇するものも多い。

おおまかな説明だが、こういう理由により出力インピーダンスが高いパワーアンプだと、
スピーカーのインピーダンスの変化と相似形の周波数特性となりがちだ。

TVA1では1kHz以上の帯域が約1dBほど、D79では2dBほど高くなっている。
たとえばスクロスオーバー周波数が1kHzのあたりにある2ウェイのスピーカーシステムで、
レベルコントロールでトゥイーターを1dBなり2dBあげたら、はっきりと音のバランスは変化することが聴きとれる。

だからステレオサウンド 52号、53号の測定結果をみて、不思議に思った。
そうなることは頭で理解していても、このことがどう音に影響するのか、そのことを不思議に思った。

この測定で使われている信号は、いうまでもなくサインウェーヴである。

Date: 1月 12th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その20)

ステレオサウンド 52号では53機種、53号では28機種のアンプがテストされている。
この81機種のうち3機種だけが、負荷を抵抗からJBLの4343にしたさいに周波数特性が、
4343のインピータンス・カーヴをそのままなぞるようなカーヴになる。

具体的な機種名を挙げると、マッキントッシュのMCMC2205、オーディオリサーチのD79、
マイケルソン&オースチンのTVA1である。

D79とTVA1は管球式パワーアンプ、MC2205はソリッドステート式だが、
この3機種には出力トランス(オートフォーマーを含む)を搭載しているという共通点がある。
これら以外の出力トランスを搭載していないその他のパワーアンプでは、
ごく僅か高域が上昇しているものがいくつか見受けられるし、逆に高域が減衰しているものもあるが、
MC2205、D79、TVA1の4343負荷時のカーヴと比較すると変化なし、といいたくなる範囲でしかない。

MC2205もD79、TVA1も、出力インピーダンスが高いことは、この実測データからすぐにわかる。
ちなみにMC2205のダンピングファクターは8Ω負荷時で16、となっている。
他のアンプでは100とか200という数値が、ダンピングファクターの値としてカタログに表記されているから、
トランジスター式とはいえ、MC2205の値は低い(出力インピーダンスが高い)。

MC2205の4343接続時の周波数特性のカーヴは、60Hzあたりに谷があり400Hzあたりにも小さな谷がある。
1kHzより上で上昇し+0.7dBあたりまでいき、
10kHzあたりまでこの状態がつづき、少し下降して+0.4dB程度になる。
D79はもっともカーヴのうねりが多い機種で、ほぼ4343のインピーダンス・カーヴそのものといえる。
4343のf0あたりに-1.7dB程度の山がしり急激に0dBあたりまで下りうねりながら1kHzで急激に上昇する。
ほぼ+2dBほどあがり、MC2205と同じようにこの状態が続き、10kHzで少し落ち、また上昇する。
1kHzでは0dbを少し切るので、周波数特性の下限と上限の差は2dB強となる。
TVA1はD79と基本的に同じカーヴを描くが、レベル変動幅はD79の約半分程度である。

こんなふうに書いていくと、MC2205、D79、TVA1が聴かせる音は、
周波数特性的にどこかおかしなところのある音と受けとられるかもしれないが、
これらのアンプの試聴は、岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦の三氏によるが、そんな指摘は出てこない。

Date: 1月 11th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その19)

ステレオサウンド 52号、53号でのアンプの測定で注目すべきは、負荷条件を変えて行っている点である。
測定項目は混変調歪率、高調波歪率(20kHzの定格出力時)、それに周波数特性と項目としては少ないが、
パワーアンプの負荷として、通常の測定で用いられるダミー抵抗の他に、
ダミースピーカーとJBLの4343を用いている。

歪が、純抵抗を負荷としたときとダミースピーカーを負荷にしたときで、どう変化するのかしないのか。
大半のパワーアンプはダミースピーカー接続時よりも純抵抗接続時のほうが歪率は低い。
けれど中にはダミースピーカー接続時も変らないものもあるし、ダミースピーカー接続時のほうが低いアンプもある。

歪率のカーヴも純抵抗とダミースピーカーとで比較してみると興味深い。
このことについて書き始めると、本題から大きく外れてしまうのがわかっているからこのへんにしておくが、
52号、53号に掲載されている測定データが、この項と関連することで興味深いのは、
JBLの4343を負荷としたときの周波数特性である。

4343のインピーダンス特性はステレオサウンドのバックナンバーに何度か掲載されている。
f0で30Ω近くまで上昇した後200Hzあたりでゆるやかに盛り上り(とはいっても10Ωどまり)、
その羽化ではややインピーダンスは低下して1kHzで最低値となり、こんどは一点上昇していく。
2kHzあたりで20Ωになり3kHzあたりまでこの値を保ち、また低くなっていくが、8kHzから上はほほ横ばい。
ようするにかなりうねったインピーダンス・カーヴである。

ステレオサウンド 52号、53号は1979年発売だから、
このころのアンプの大半はトランジスター式でNFB量も多いほうといえる。
そのおかげでパワーアンプの出力インピーダンスはかなり低い値となっているものばかりといえよう。
つまりダンピングファクターは、NFB量の多い帯域ではかなり高い値となる。

ダンピングファクターをどう捉えるかについても、ここでは詳しくは述べない。
ここで書きたいのは、52号、53号に登場しているパワーアンプの中にダンピングファクターの低いものがあり、
これらのアンプの周波数特性は、抵抗負荷時と4343負荷時では周波数特性が大きく変化する、ということである。

Date: 1月 10th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その18)

ステレオサウンド 44号は、41号から読みはじめた私にはやっと1年が経った号。
いまと違い、3ヵ月かけてじっくりステレオサウンドをすみずみ(それこそ広告を含めて)読んでいた。
実測データも、もっと大きな写真にしてくれれば細部までよく見えるのに……、
と思いながらも、じーっと眺めていた。

同じスピーカーシステムの周波数特性なのに、サインウェーヴで無響室での特性と、
ピンクノイズで残響室でスペクトラムアナライザーで測定した特性では、
こんな違うのか、と思うものがいくつかあった。
どちらも特性も似ているスピーカーシステムもあるが、それでも細部を比較すると違う傾向が見えてくる。

とはいうものも、このころはまだオーディオの知識もデータの読み方も未熟で、
データの違いは見ることで気がつくものの、それが意味するところを、どれほど読み取れていたのか……。
それでも、このトータルエネルギー・レスポンスは面白い測定だ、とは感じていた。

このトータルエネルギー・レスポンスについては、
瀬川先生もステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES-3(トゥイーター特集号)で触れられている。
     *
(トゥイーターの指向周波数特性についてふれながら)残響室を使ってトゥイーターのトータルの周波数対音響出力(パワーエナージィ・レスポンス)が測定できれば、トゥイーターの性格をいっそう細かく読みとることもできる。だが今回はいろいろな事情で、パワーエナージィは測定することができなかったのは少々残念だった。
ただし、指向周波数特性の30度のカーブは、パワーエナージィ・レスポンスに近似することが多いといわれる。
     *
サインウェーヴ・無響室での周波数特性よりも、
私がトータルエネルギー・レスポンスのほうをさらに重視するきっかけとなった実測データが、
ステレオサウンド 52号、53号で行われたアンプの測定データのなかにある。

Date: 1月 10th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その17)

ステレオサウンドは44号で、サインウェーヴではなくピンクノイズを使い、
無響室ではなく残響室での周波数特性を測定している。

44号での測定に関する長島先生の「測定の方法とその見方・読み方」によると、
36号、37号でもピンクノイズとスペクトラムアナライザーによる測定を行なっている、とある。
ただし36号、37号では無響室での測定である。
それを44号から残響室に変えている。
その理由について、長島先生が触れられている
     *
(残響室内での能率、リアル・エフィシェンシーについて)今回はなぜ残響室で測ったのか、そのことを少し説明しておきましょう。スピーカーシステムの音はユニットからだけ出ていると思われがちですが、実はそれだけではないのです。ユニットが振動すれば当然エンクロージュアも振動して、エンクロージュア全体から音が出ているわけです。そして実際にリスナーが聴いているスピーカーシステムの音は、スピーカーからダイレクトに放射された音、エンクロージュアから放射された音、場合によっては部屋の壁などが振動して、その壁から反射された音を聴いているわけです。
ところが一般的に能率というと、スピーカー正面、つまりフロントバッフルから放射される音しか測っていないわけです。これは無響室の性質からいっても当然のことなのですが、能率というからには、本来はスピーカーがだしているトータルエナジー──全体のエネルギーを測定した方が実情に近いだろうという考え方から、今回は残響室内で能率を測定して、リアル・エフィシェンシーとして表示しました。
(残響室内での周波数特性、トータルエネルギー・レスポンスについて)今回のように残響室内で周波数特性を測定したのは本誌では初めての試みです。従来の無響室内でのサインウェーブを音源にした周波数特性よりも、実際にスピーカーをリスニングルーム内で聴いたのに近い特性が得られるため、スピーカー本来の性格を知る上で非常に参考になると思います。
(中略)この項目も先ほどの能率と同様に残響室を使っているため、スピーカーシステムの持っているトータルエナジーがどのようなレスポンスになっているかが読み取れます。
     *
ステレオサウンドでの測定に使われた残響室は日本ビクター音響研究所のもので、
当時国内最大規模の残響室で、内容積280㎥、表面積198㎡、残響時間・約10秒というもので、
壁同士はだけでなく床と天井も平行面とならない形状をもっている。
ただ、これだけの広さをもっていても、波長の長い200hz以下の周波数では部屋の影響が出はじめ、
測定精度が低下してしまうため、
掲載されているデータ(スペクトラムアナライザーの画面を撮った写真)は、200Hz以下にはアミがかけられている。

Date: 1月 9th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その16)

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4で、菅野先生は2115Aについて、こう語られている。
     *
オーケストラのトゥッティの分解能とか弦のしなやかさという点では、LE8Tに一歩譲らざるを得ないという感じです。ところがジャズを聴きますと、LE8Tのところでいった不満は解消されて、むしろコクのある脂の乗った、たくましいテナーサックスの響きが出てきます。ベースも少し重いけれど積極的によくうなる。そういう点で、この2115はLE8Tの美しさというものを少し殺しても、音のバイタリティに富んだ音を指向しているような感じです。
     *
瀬川先生は、こんなふうに、2115AとLE8Tの違いについて語られている。
     *
2115の方がいろいろな意味でダンピングがかかっていないので、それだけ能率も高くなり、いま菅野さんがいわれたような音の違いが出てきているんだと思うんです確かに。2115は緻密さは後退していますが、そのかわり無理に抑え込まない明るさ、あるいはきわどさすれすれのような音がしますね。どちらが好きかといわれれば、ぼくはやはりLE8Tの方が好ましいと思います。
(中略)そもそもJBLのLEシリーズというのは、能率はある程度抑えても特性をフラットにコントロールしようという発想から出てきたわけですから、よくいえば理知的ですがやや冷たい音なんです。ですからあまりエキサイトしないんですね。
     *
LE8Tは優秀なフルレンジユニットだということは実測データからも読みとれるし、試聴記からも伝わってくる。
D130はマキシマム・エフィシェンシー・シリーズで、LE8Tはリニア・エフィシェンシー・シリーズを、
それぞれ代表する存在である。
だからD130はとにかく変換効率の高さ、高感度ぶりを誇る。そのためその他の特性はやや犠牲にされている──、
おそらくこんな印象でD130はずっとみてこられたにちがいない。

たしかにそれを裏付けるかのようなHIGH-TECHNIC SERIES 4での実測データではあるが、
私が注目してほしいと思い、これから書こうとしているのは、
周波数・指向特性、高調波歪率ではなくトータルエネルギー・レスポンスである。

Date: 1月 9th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その15)

HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場しているJBLのユニットは、
LE8T(30000円)、D123-3(32000円)、2115A(36000円)、
D130(45000円)、2145(65000円)の5機種で、
2145は30cmコーン型ウーファーと5cmコーン型トゥイーターの組合せによる同軸型ユニットで、
いわゆる純粋なシングルボイスコイルのフルレンジユニットはLE8T、D123-3、2115A、D130であり、
これらすべてセンターキャップにアルミドームを採用している(価格はいずれも1979年当時のもの)。

LE8Tは20cm口径の白いコーン紙、D123-3は30cm口径でコルゲーション入りのコーン紙、
2115Aは20cm口径で黒いコーン紙、D130は38cm口径。
2115AはLE8Tのプロフェッショナル・ヴァージョンと呼べるもので、
コーン紙の色こそ異るものの、磁気回路、フレームの形状、それにカタログ上のスペックのいくつかなど、
共通点がいくつもある中で、能率はLE8Tが89dB/W/mなのに対し2115Aは92dB/W/mと、3dB高くなっている。
この3dBの違いの理由はコーン紙の色、
つまりLE8Tのコーン氏に塗布されているダンピング材によるものといって間違いない。

LE8Tはこのことが表しているように、全体に適度にダンピングを効かしている。
このことはHIGH-TECHNIC SERIES 4に掲載されている周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率からも伺える。
周波数・指向特性もLE8Tのほうがあきらかにうねりが少ないし、
高調波歪率もLE8Tはかなり優秀なユニットといえる。
高調波歪率のグラフをみていると、基本的な設計が同じスピーカーユニットとは思えないほど、
LE8Tと2115Aは、その分布が大きく異っている。

2115AにもD130と同じように5kHzあたりにアルミドームの共振によるピークががある。
D123-3にもやはり、そのピークは見られる。
さらにこのピークとともに、第2次高調波歪が急激に増しているところも、D130と共通している。
ところがLE8Tこの高調波歪も見事に抑えられている。

LE8Tのこういう特徴は、試聴記にもはっきりと出ている。

Date: 1月 9th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その14)

スピーカーユニット、それもコーン型ユニットの測定はスピーカーユニットだけでは行なえない。
なんらかの平面バッフルもしくはエンクロージュアにとりつけての測定となる。

IECでは平面バッフルを推奨していた(1970年代のことで現在については調べていない)。
縦1650mm、横1350mmでそれぞれの中心線の交点から横に150mm、上に225mm移動したところを中心として、
スピーカーユニットを取りつけるように指定されている。

日本ではJIS箱と呼ばれている密閉型エンクロージュアが用いられる。
このJIS箱は厚さ20mmのベニア板を用い、縦1240mm、横940mm、奥行540mm、
内容積600リットルのかなり大型のものである。

ステレオサウンド別冊HIGH-TRCHNIC SERIES 4で、後者のJIS箱にて測定されている。
IEC標準バッフルにしても、JIS箱にしても、
測定上理想とされている無限大バッフルと比較すると、
バッフル効果の、低域の十分に低いところまで作用しない点、
エンクロージュアやバッフルが有限であるために、ディフラクション(回折)による影響で、
周波数(振幅)特性にわずかとはいえ乱れ(うねり)が生じる。

無限大バッフルに取りつけた状態の理想的な特性、
つまりフラットな特性と比べると、JIS箱では200Hzあたりにゆるやかな山ができ、
500Hzあたりにこんどはゆるやかで小さな谷がてきる。
この山と谷は、範囲が小さくなり振幅も小さくなり、周期も短くなっていく。

IEC標準バッフルでは100Hzあたりにゆるやかな山ができ、400Hzあたりにごくちいさな谷と、
JIS箱にくらべると周期がやや長いのは、バッフルの面積が大きいためであろう。

どんなに大きくても有限のバッフルなりエンクロージュアにとりつけるかぎりは、
特性にもバッフル、エンクロージュアの影響が多少とはいえ出てくることになる。

ゆえに実測データの読み方として、複数の実測データに共通して出てくる傾向は、
いま述べたことに関係している可能性が高い、ということになる。

Date: 1月 7th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その13)

D130は厳密にはJBLの出発点とは呼びにくい。
実質的にはD130が出発点ともいえるわけだが、事実としてはD101が先にあるのだから、
D130はJBLの特異点なのかもしれない。

そのD130の実測データは、ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4に出ている。
無響室での周波数特性(0度、30度、60度の指向特性を併せて)と、
残響室でのピンクノイズとアナライザーによるトータルエネルギー・レスポンスがある。

このどちらの特性もお世辞にもワイドレンジとはいえない。
D130はアルミ製のセンターキャップの鳴りを利用しているため、
無響室での周波数特性では0度では1kHz以上ではそれ以下の帯域よりも数dB高い音圧となっている。
といってもそれほど高い周波数まで伸びているわけではなく、3kHzでディップがあり、その直後にピークがあり、
5kHz以上では急激にレスポンスが低下していく。
これは共振を利用して高域のレスポンスを伸ばしていることを表している。
周波数特性的には0度の特性よりも30度の特性のほうが、まだフラットと呼べるし、グラフの形も素直だ。

低域の特性も、38cm口径だがそれほど低いところまで伸びているわけではない。
100dBという高い音圧を実現しているのは200Hzあたりまでで、そこから下はゆるやかに減衰していく。
100Hzでは200Hzにくらべて約-4dB落ち、50Hzでの音圧は91dB程度になっている。
トータルエネルギー・レスポンスでも5kHz以上では急激にレスポンスが低下し、
フラットな帯域はごくわずかなことがわかる。

周波数特性的にはD130よりもずっと優秀なフルレンジユニットが、HIGH-TECHNIC SERIES 4には載っている。
HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場するフルレンジユニットの中には、
アルテックの604-8GやタンノイのHPDシリーズのように、
同軸型2ウェイ(ウーファーとトゥイーターの2ボイスコイル)のものも含まれている。
それらを除くと、ボイスコイルがひとつだけのフルレンジユニットとしてはD130は非常に高価もモノである。
HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場するボイスコイルひとつのユニットで最も高価なのは、
平面振動板の朋、SKW200の72000円であり、D130はそれに次ぐ45000円。このときLE8Tは30000円だった。

Date: 1月 7th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その12)

JBLのD130の息の長いスピーカーユニットだったから、
初期のD130と後期のD130とでは、
いくつかのこまかな変更が加えられ、音の変っていることは岩崎先生自身も語られている。
とはいえ、基本的な性格はおそらくずっと同じのはず。
ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4(1979年)で試聴対象となったD130は、
いわば後期モデルと呼んでもいいだけの時間が、D130の登場から経っているものの、
試聴記を読めば、D130はD130のままであることは伝わってくる。

同程度のコンディションの、製造時期が大きく異るD130を直接比較試聴したら、
おそらくこれが同じD130なのかという違いは聴きとれるのかもしれない。
でも、D130を他のメーカーのスピーカーユニット、もしくはスピーカーシステムと比較試聴してしまえば、
D130の個性は強烈なものであり、いかなるほかのスピーカーユニット、スピーカーシステムとは違うこと、
そして同じJBLの他のコーン型ユニットと比較しても、D130はD130であることはいうまでもない。

そのD130は何度か書いているようにランシングがJBLを興したときの最初のスピーカーユニットではない。
D101という、アルテックのウーファー、515のフルレンジ版といえるのが最初であり、
これに対するアルテックにクレームがあったからこそ、D130は生れている。

ということは、もしD101にアルテックのクレームがなかったら、
D130は登場してこなかったはず。
となれば、その後のJBLの歴史は、いまとはかなり異っていた可能性が大きい。
かりにそうなっていたら、つまりD130がこの世に存在してなかったら、
岩崎先生のオーディオ人生はどうなっていたのか、
いったいD130のかわり、どのスピーカーユニット、スピーカーシステムを選択されていたのか、
そしてスイングジャーナル1970年2月号のサンスイの広告で書かれた次の文章──、
この項の(その11)で引用した文章をもう一度引用しておく。
     *
アドリブを重視するジャズにおいては、一瞬一瞬の情報量という点で、ジャズほど情報量の多いものはない。一瞬の波形そのものが音楽性を意味し、その一瞬をくまなく再現することこそが、ジャズの再生の決め手となってくる。
     *
この文章(表現)は生れてきただろうか──、そんなことを考えてしまう。

おそらくD101では、D130のようにコーヒーカップのスプーンのように音は立てない、はずだからだ。
そう考えたとき、ランシングのD101へのアルテックのクレームがD130を生み、
そのD130との出逢いが……、ここから先は書かなくてもいいはず。