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Date: 11月 17th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、フラットをもってものごとの始まりとす)

ステレオサウンド 61号から63号まで、
池田圭氏による「フラットをもってものごとの始まりとす」という記事が載っている。
dbxの20/20の記事である。

61号は1981年に出ている。
いまから33年前のことである。

そんな以前の池田圭氏のタイトルの意味を考えている。
「フラットをもってものごとの始まりとす」、
ほんとうにそうだと思うからだ。

RIAAカーヴについての論議も、「フラットをもってものごとの始まりとす」でなければならないのに、
実際は多くの人がフラットであることに対して無関心・無頓着であったりする。

確かにメーカー製のスピーカーシステムであるなら、
それも名のとおったメーカーのモノであるなら、おかしな周波数特性はしていない。
カタログに載っている周波数特性グラフをみても、多少のピーク・ディップはあっても、
時代が新しいスピーカーであれば、大きく見れば平坦(フラット)ともいえる。

だがそれを鳴らしているから、自分の部屋で自分の耳に届いている「音」がフラットだという保証はどこにもない。
それにカタログに載っている周波数特性は、出力音圧レベルのグラフであり、
いわばスピーカーの振幅特性を表しているにすぎない。

私的イコライザー考」の(その12)で書いたことを、またくり返しておく。
振幅項(amplitude)と位相項(phase)があり、
それぞれを自乗して加算した値の平方根が周波数特性となる。

つまり振幅項と位相項をそれぞれ自乗して加算した値の平方根、
これをフラットにすることから、ものごとは始まる。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、聴くこと)

レコード(アナログディスク)は思い入れをこめやすいメディアである。
だが忘れてはならないのは、アナログディスクも工業製品である、ということだ。
大量複製される工業製品であり、工業製品である以上、そこにはなんらかの規格が存在する。

レコード会社が意図的にステレオ以降もRIAA以外のカーヴでレコードをつくっていたとしよう。
だが、レコード会社が録音カーヴについて伏せている以上、
そのステレオLPの再生カーヴはRIAAで、ということになる。

ラッカー盤のカッティング時にカッティング・エンジニアがなんらかの信号処理をすることはすでに書いた。
リミッターをかけることもある。
イコライザーで周波数特性を操作することもある。
つまり、この信号処理の延長でRIAA以外のカーヴを使用した、と私は考える。

RIAAカーヴなのかどうかについて考える時に、レコード会社側に立って考えてみる。
音質的なメリットがあるとして、RIAA以外のカーヴでレコードをつくったとする。
では、そのレコードをどう再生してもらいたいのか。

録音カーヴと逆の特性のカーヴで再生してほしいのであれば、
そのステレオLPのジャケットにその旨を書いておくのではないだろうか。
なんら記載がないということは、仮にRIAA以外のカーヴでつくられたレコードだとしても、
再生カーヴはRIAAで、ということになる。

再生はRIAAカーヴでいいから、録音カーヴについての情報がなにも与えられていない。
そういうことなのではないのか。
カッティング時にイコライザーをいじる。
だが、そのことについての情報は何も与えられない。

どの周波数をどのくらい上げ下げしたのか、
仮にそのことがジャケットに記載されていようと、何になるのか、と思う。
録音カーヴにしても同じことである。

それでも録音カーヴと逆の特性で再生しなければならない、と言い張る人はいる。
そう考えるのならば、そうしたらいいではないか。
だがレコード会社から録音カーヴについて、なんの情報も与えられていなければ、
それはRIAAカーヴで再生することがレコード会社の意図に添う再生であり、
録音カーヴと逆のカーヴで再生することが、レコード会社の制作意図に添う、とはいえない。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、前提はなにか)

EMTのアナログプレーヤー、930st、927st、927Dstは放送局やスタジオといった、
プロフェッショナルの現場で実際に使われてきた。
930stも927Dstもプロ用機器である。プロ用のようなモノではない。

そのEMTにはステレオ再生に関してはRIAAのみである。
ステレオLPの録音カーヴについて疑問をもっている人は、
このことについて一度考えてみてはどうだろうか。

それでもマランツのModel 7は……、という人もいるだろう。
でもModel 7もRIAA以外のカーヴを選択した時にはモノーラルになるようにしたかったかもしれない。
そう考えられないだろうか。
Model 7のイコライザーカーヴ切り替えのためのレバースイッチは、
もともと小信号用のものではなく、一般市販されていた汎用品ときいている。

ここにロータリスイッチを使っていたら、Model 7もEMTのイコライザーアンプのように、
RIAA以外のカーヴではモノーラルになるようにしのではないか、と私は思っている。

このことに関しては、私のようにステレオLPはRIAAという者には、いま書いているように受けとれるし、
いやステレオLPにもRIAA以外のカーヴがある、と疑問をもっている人にとっては、違う見方ができる材料になる。

私がRIAA以外のカーヴがあるのではないか、ということに懐疑的なのは、
カッティングマシンがどうなっていたのか、がある。
ステレオLP用のカッティングマシンに録音カーヴの切り替え機能があったのか、ということだ。
なかったとしても、レコード会社の人が独自のカーヴ用のモジュールをつくり使用することは可能である。

だからRIAAカーヴ以外のステレオLPが存在しなかった、とは断言できない。
だが存在していたとしても、それらのステレオLP(RIAAカーヴ以外のステレオLP)は、
RIAAカーヴでの再生を前提としているはずである。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、把握すること)

なぜ ステレオLPの録音カーヴに対して疑問を抱く人が出てくるようになったのか。
マランツのModel 7のようにイコライザーカーヴを切り替えられるコントロールアンプが存在していたことが、
大きく関係している、と考えられる。

あるレコードがうまく鳴ってくれない、
たまたまその人が使っていたコントロールアンプが、
Model 7のようにイコライザーカーヴが切り替えられるものだった。
試しにRIAA以外のカーヴにしてみた。
RIAAカーヴよりも、いい具合に鳴ってくれた。

これはもしかするとRIAAカーヴではないんじゃないのか……、
そう思うようになっていたことから始まってきたのかもしれない。

そう思うようになってみると、なぜModel 7がイコライザーカーヴを切り替えられるようになっているのか、
そのことについて考えてみるようになる。
ソウル・B・マランツは、
LPのイコライザーカーヴがステレオ以降もRIAAに完全に統一されていないことに気がついていたんだ──、
そんなふうに関連づけていくことだってできる。

けれど果してそうなのだろうか。
Model 7はイコライザーカーヴを選べる。
それもステレオ再生においてもだ。
だがこの機能は、モノーラルLPのための機能であり、
それをステレオLP再生時にも利用できる、ということにすぎないのではないか。

同じくイコライザーカーヴを切り替えられるものに、EMTのアナログプレーヤー内蔵のアンプがある。
四種類のカーヴが切り替えられる。
DIN45 536、DIN45 53、BBC、FLATであり、
DIN45 536がRIAAと同じく75/318/3180μSのROAAカーヴだ。
あとの三種類のカーヴは、そのポジションにすればモノーラル再生となる。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、疑うな)

井上先生に何度もいわれたこと、
こうやって毎日オーディオ、音、音楽のことについて書いていて深く実感するようになってきたことに、
「レコードを疑うな」がある。

井上先生は、このことを何度もくり返された。
それは井上先生自身が、強く実感されていたからなのかもしれない、と最近思うようになってきている。

「レコードは神さまだ、その神さまを疑ってはいけない」
これは何もレコードを神聖化しろ、ということではない。

初めて聴くようなマイナーレーベルのレコードは例外があるかもしれないが、
少なくともメジャーレーベルのレコードに関しては、そのレコードを疑うべきではない、ということになる。

これに関係しているのは、「スピーカーが悪いのではない、鳴らし方・使い方が悪いんだ」がある。
これも出来の悪すぎるスピーカーは例外として存在しても、大半のスピーカーの場合、
スピーカーに非があるよりも使い手側に非があることが圧倒的に多い。

オーディオはさまざまな要素が絡んでいる。だからこそレコードは疑うべきではないともいえる。
レコードを疑ってしまえば、オーディオは基準とでもいおうか、
なにひとつ確かなものがないともいえるからだ。

だから私はステレオLPになってからの録音カーヴはRIAAであり、
ほかのカーヴが使われたとは思っていない。

ただ世の中には例外はある。
ごく一部のレコードで、ステレオ以降もRIAAカーヴではないものが存在していなかった、とは断言できない。
それでもはっきりといえるのは、そういうレコードであってもRIAAカーヴで再生するものである、ということだ。

Date: 11月 12th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは)

1953年6月にRIAAカーヴが制定されている。
1954年から1956年にかけてRIAAに統一されている。

RIAAカーブはRCAが1952年9月から使いはじめたニュー・オーソフォニックのカーヴとまったく同一である。
つまりRCAのLPに限っては1952年9月以降はRIAAと考えていい。

このあたりの事情については岡先生が「マイクログルーヴからデジタルへ」で書かれている。
     *
 アメリカで、RCAを別として逸早くRIAAに切換えたレーベルとしてはエンジェル、アトランティック、EMS、MGMなどで、コロムビア、エピック、ヴォックスは一九五四年二月からと、かなり早く転換した。ロンドンはLL八四七以降がRIAAになっているから、これも五四年はじめ頃からである。そのあとを追って、マーキュリー、キャピトル、バルトーク、ウェストミンスター、ヴァンガードも五四年後半から五五年中にかけてRIAAに切換えている。アメリカのレコードで一九五六年以降に出たものの録音特性は、特別なものを除いては、RIAAになっていると考えてほぼ間違いはないと、おもう。
 このふるいLPの録音特性のことで、はっきりしないのはヨーロッパのレコードである。英デッカのはあまりにも有名だから問題ないとして、ほかのレーベルでは、EMI(HMV、英コロムビア)は米コロムビアと同一のカーヴで録音されていたことぐらいで、DGGやテレフンケン、フランスの各社などはデータがわからない。しかし、RIAAの録音特性はすぐにCCIRやEIAでも承認されているので早い機会にこのカーヴになったものと考えられる。五〇年代前半のヨーロッバのLPは日本で入手できる機会はほとんどなかった。日本プレスのLPも、ごく初期にコロムビアがアメリカからメタル・マザーを取り寄せてプレスしていたものを除いては、RIAA特性になっているはずである。
     *
少なくともステレオLPはRIAA以外のカーヴはない。
にも関わらず、RIAAカーヴ制定後に発売されたLPについて、
その録音カーヴはRIAAではない、という人が、今も昔もいる。

確かにRIAAが制定される以前はレコード会社によって録音カーヴが違っていたのは事実である。
だからといってステレオLPにおいてもカーヴが違う、と考えるのはどうか、と前々から思っていた。

それでも個人で、アナログディスク再生をする際に、
1956年以降のLPでRIAAカーヴのものであっても、他のカーヴのほうが結果として好ましいことはあるだろう。
だからといって、そのレコードの録音カーヴがRIAAではない、ということにはならない。

それに常識として、カッティング時にもカッティング・エンジニアがイコライザーで周波数特性をいじっている。
この場合、RIAAカーヴでカッティングしても、
パラメトリックイコライザー、もしくはグラフィックイコライザーを使うわけだから、
トータルのカーヴとRIAAと少しずれてしまう。
その可能性を無視して、RIAAではない、というのはどうだろうか。

それにもうひとついいたいことは、RIAAかどうかを判断する再生装置の音のことである。

何かを測る時に定規が直線ではなく、曲っていたらどうなるか。
つまり再生装置の音のバランスがきちんと整えられているのであればいい。
けれどそうでなければ、多少なりとも曲った定規ということになる。

その曲った定規で、RIAAカーヴなのかどうかがわかるのか、ということである。
定規(基準)が直線なのか、
ここを曖昧にしたままでの録音カーヴ議論はいつまでも結論が出ない。

それが楽しい、というのであれば、別なのだが……。

Date: 2月 15th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・その4)

「プレーヤー・システムとその活きた使い方」には、DSS731の周波数特性は、もうひとつ載っている。
それはMFB量による周波数特性の違い、である。
MFB量が0dB、0.5dB、5dB、10dB、15dBのカーヴが載っていて、
0.5dBのMFB量では3kHzあたりにゆるやかな山ができていて、高域はほぼ0dBのときの特性と重なる。
低域はMFB量0dB時よりは伸びているが20Hzまでフラットとはいかない。
MFB量5dBで、3kHzの山はほとんど平坦に近くなり、10dB時全帯域にわたりほぼフラットな特性となる。
高域の伸びも低域の伸びもあきからに改善されている。
15dBでさらにフラットな特性にはなるものの、かわりに20kHz以上にピークが発生するようになる。

MFB量による周波数特性の変化の実測データがあるということは、
カッターヘッドのドライブアンプ側にMFB量を可変できる機能がついている、ということだろう。

「プレーヤー・システムとその活きた使い方」には、カッターヘッドのドライブアンプについての表もある。
この表は詳細は書いてないものの、ビクターで使われているもののはず。
表をみていくと、ビクターでは純正のアンプの他にビクター製のアンプも使われていることがわかる。

ノイマンSX68にはノイマン純正のSAL74、
このアンプはトランジスターの準コンプリメンタリーのOCL型で出力トランジスターは3パラレル。
最大出力は600W、ピーク出力は230V p-p, 8Aとなっている。
この他にビクター製の、
出力管にテレフンケンのEL156を使用したパラレルプッシュプルで出力は200Wの真空管式のものも使われている。
SX74には純正のSAL74のほかに、
ビクター製のトランジスターアンプ、これは純コンプリメンタリーの出力トランス採用のもので、出力は300W。

ウェストレックス3Dには、純正の真空管式。
これは出力管に807をパラレルプッシュプルで使い、100Wの出力をもつ。
3DIIAにはビクター製の真空管式。ただしSX68用のものとは多少異るEL156のパラレルプッシュプルだ。
出力は200Wと同じだが、SX68用のモノはトランスに専用の巻線をもうけたカソードNFをかけているのに対し、
3DIIA用のアンプは無帰還となっている。
そのためSX68用のアンプは、高調波歪率:1%以下(200W時)、混変調歪率:0.3%以下(100W)だが、
3DIIA用のアンプは、歪率:2%以下(200W)となっている。

オルトフォンDSS731には、
純正のトランジスターの準コンプリメンタリーのブリッジ構成のもので出力は500Wが使われている。
このアンプはオルトフォン・ブランドとなっているが、
おそらくオルトフォンと同じデンマークのB&Kによる設計・製作である。

Date: 2月 14th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・その3)

ウェストレックスの3DIIA、ノイマンのSX74の周波数特性は、
誠文堂新光社から1976年に無線と実験、初歩のラジオ別冊として出された
「プレーヤー・システムとその活きた使い方」に載っている。

この本は日本ビクターの音響技術研究所所長の井上敏也氏による監修で、執筆者は34名。
おそらく大半の人が日本ビクターの方々だろう。

この「プレーヤー・システムとその活きた使い方」には、SX74、3DIIAのほかに、
オルトフォンのDSS731の周波数特性も載っている。
DDD731はCD4用に開発されたカッターヘッドで、
その構造もSX74、3DIIAとは大きく異る。

SX74、3DIIAは、左右チャンネルのドライブ用コイル、フィードバック用コイル(ムービング・エレメント)が、
それぞれ45度の角度を保つように配置されている構造なのに対して、
DSS731ではジャイロ方式と呼ばれる構造をとっている。
DSS731でもムービングエレメントそのものの構造はSX74、3DIIAと基本的には同じでも、その配置が異っている。

ロッキング・ブリッジと呼ばれるものの上に、垂直に左右チャンネルのムービングエレメントは取付けられていて、
ロッキング・ブリッジの下側中央にカッター針があり、
このカッター針とムービングエレメントと
ロッキング・ブリッジとの結合部(フレキシブル・ジョイント)の位置関係は直角二等辺三角形となっている。

この構造のためなのかどうかはわからないが、DSS731の裸の周波数特性は共振のピークは2.5kHzあたりにあり、
これより上の周波数は減衰していくだけだが、
これより下の周波数においては、500Hzから30Hzあたりまではフラットとなっている。
MFBを13dBかけた状態での周波数特性はグラフをみるかぎり、20Hz以下までフラットを維持している。
DSS731ならば、録音RIAAカーヴを電気的な処理だけですむことになる。

Date: 2月 13th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・その2)

ウェストレックスの3DIIAのMFBをかけたあとの周波数特性は、
ノイマンのSX74の特性よりも全体的にゆるやかなカーヴを描いていて、いわゆるカマボコ型の特性。
フラットな帯域のところはどこにもない。
けれど実際のカッティング特性はSX74とほぼ同等の性能といえる。

レコード(LP)にはRIAAカーヴがある。
1953年6月に制定された規格で、カッティング時にはRIAA録音カーヴ、
再生時には録音RIAAカーヴと逆特性のRIAA再生カーヴがもちいられる。

RIAAカーヴは1kHzを規準として700Hzで-1.2dB、400Hzで-3.8dB、300Hzで-5.5dB、200Hzで-8.2dB、
100Hzで-13.1dB、70Hzで-15.3dB、50Hzで-17.0dB、30Hzで-18.6dB、
高域はというと、2kHzで2.6dB、3kHzで4.8dB、4kHzで6.6dB、5kHzで8.2dB、6kHzで9.6dB、7kHzで10.9dB、
8kHzで11.9dB、9kHzで12.9dB、10kHzで13.8dB、12kHzで15.3dB、15kHzで17.2dBとなっている。
ほぼオクターヴあたり6dBで高域に向って上昇していくカーヴに近い。

つまり低域に関しては、カッターヘッドに入力される信号を減衰させているわけだ。
だから低域に関しては、電気的な処理による減衰量を、カッターヘッドの低域の特性を補整するようにしておけば、
なんら問題は生じないことになる。

つまり、このことは録音側(レコード制作側)では低域に関しては、
録音RIAAカーヴをカッターヘッドの機械的な特性とカッターヘッドをドライブするアンプの前段での電気的な処理、
このふたつを組み合わせて正確なものとしているわけだ。

一方再生側はというと、可聴帯域内の周波数特性はほぼフラットであり、
カッターヘッドの周波数特性よりも劣っているカートリッジは、
よっぽどのローコストの製品には存在するかもしれないが、まずそういうカートリッジは存在しない。
20Hzまではほとんどのカートリッジがフラットな周波数特性をもっている。
つまり再生側では、再生RIAAカーヴはフォノイコライザーアンプの電気的な処理だけで行っているわけである。

Date: 2月 12th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・その1)

中学生のとき、カッターヘッドの裸特性を見て、驚いた記憶がある。
カッターヘッドにはMFB(Motional Feedback)がかけられていることは知っていた。
アンプにおけるNFBと同じようなもので、
カッターヘッドの裸特性もアンプの裸特性と似たようなものだろう、と考えていただけに、
よけいにカッターヘッドの裸特性のカーヴには驚かされた。

もっとも知名度の高いノイマンのSX74にしても、その裸特性はどこもフラットな帯域が存在しない。
周波数特性は1kHzを中心とした山の形をしている。
ウェストレックスの3DIIAにしても同じで、やはり1kHzにピークがあり、
SX74同様フラットな帯域はどこにもない。

つまりどちらのカッターヘッドも1kHzにピークをもつ共振特性をもっている。
それをMFBをかけることで共振を抑えフラットな周波数特性にするわけで、
カッターヘッドにはドライブ用のコイル(スピーカーユニットのボイスコイルに相当するもの)とは別に、
フィードバック用のコイルが同じ軸上に巻かれていて、
このコイルからの信号をカッターヘッドのドライブアンプに戻している。

アンプのNFBがアンプの周波数特性だけを改善するのではないのと同じで、
MFBはカッターヘッドの周波数特性を改善するだけでなく、カッターヘッドの機械的歪も減少させ、
クロストークも改善している。
そして、MFBの量がカッターヘッドのダンピングに関係している。

SX74のMFB(5kHzで12dBのMFB量)をかけたあとの周波数特性は、
可聴帯域内はほぼフラットになっている。
ノイマン発表のSX74の規格にもMFBのことが載っている。

Frequency range:7-25000Hz
Frequency response (approx.9dB feedback at 5kHz):15-16000Hz ±0.5dB, 10-20000Hz ±1dB, 7-25000Hz ±3dB
Active feedback range:7-14000Hz
Feedback capability at 5kHz:≧12dB, typically 14dB

ノイマン発表の周波数特性は15Hzから16kHzまでがほぼフラットになっているが、
実際の周波数特性のカーヴでは、低域はもう少し高い数10Hzからゆるやかに減衰しているが、
これがそのままSX74の録音特性(カッティング特性)とイコールというわけではない。

それはレコードの録音特性、つまりRIAAカーヴが関係してくるからである。