2011年ショウ雑感(その4)
聴感上のS/N比ということを最初に使われたのは、おそらく井上先生だろう、ということは以前書いた。
1980年代、井上先生は、この聴感上のS/N比をよく口にされ、試聴の時にも重視されていた。
10年ぐらい前からだろうか、
聴感上のS/N比は頻繁に目にするし、聞くことが多くなった。
一般的な評価の基準として認められ広まってきたためであろう。
もっとも井上先生が定義されていた聴感上のS/N比とは、ややずれたところで使われているんじゃないか、
と思いたくなることも少なからずあるけれど、
聴感上のS/N比をどう定義するのかは、人によってどうも微妙に異るところがあるようで、
必ずしも物理的なS/N比のように、高低がはっきりするわけでもない面もある。
つまり人によって、聴感上のS/N比が高いと感じる音が別の人には、
それほど高くない、低いということもありうるわけだ。
また2つのオーディオ機器を聴き比べて、Aという機器を聴感上のS/N比が高い、という人もいれば、
いやBの方が高い、ということも起っている。
聴感上のS/N比は数値で示すことのできるものではないし、
何を持って聴感上のS/N比が高いのかは、まだまだ共通認識といえるところまではいっていないようだ。
おそらくこれからさきも、聴感上のS/N比に関しては、人によって違ったままだろう。
それはともかくとして、聴感上のS/N比は向上してきている、といえる。
そうでないオーディオ機器もあるにはあるけれど、全体的な傾向としては向上してきているし、
聴感上のS/N比は高いにこしたことはない。
いま聴感上のS/N比を確保する手法がかなり確立されてきている、といえるし、
聴感上のS/N比を向上させてきているメーカーは、
聴感上のS/N比を、どういうところに着目して聴いて判断すればいいのかを掴んでいるのではないだろうか。
そうなってくると聴感上のS/N比という、いわば感覚量が物理的な量に近づきつつあるような気もしなくもない。
少なくとも、つくり手側のなかには、聴感上のS/N比を、
そんな感じでとりあつかっているところがあるような気もする。
実は、こんなこともADAMのColuman Mk3を聴いた後で思っていた。
そして、聴感上のS/N比よりも、もっと感覚的な、
さらにいえばもっと個人的なS/N比の高さ(というよりも良さ)を感じさせてくれたような気がしている。