オーディオマニアとしての「純度」(その8)
読者だったころは、マーク・レヴィンソンに経営者としての側面が強く出はじめていても、
「それでもマーク・レヴィンソンはマーク・レヴィンソン」と思っていた。
でもステレオサウンドで働きはじめると、
マーク・レヴィンソン個人についてのウワサが耳に入ってくるようになった。
ウワサだから、いい話ではないことのほうが多かった。
でも、だからといってマーク・レヴィンソンが経営者としての側面を強くしてきたことは、
責められることではないはず。
マークレビンソンという会社には、あれだけ成功した会社だから少なからぬ人たちが働いていて、
彼らの生活を保証していくためにも、マーク・レヴィンソン自身、優れた経営者でいることが求められていたはず。
たとえばチャートウェルというスピーカーメーカーが、イギリスにあった。
ハーベスの創立者ハーウッドの下で、
BBCで働いていたデヴィット・ステビングというスピーカー・エンジニアが1974年に興した会社だ。
ステビングが、
BBC在籍時代に特許をとったポリプロピレン振動板のスピーカーユニットを開発・製造するための会社として作った
チャートウェルは、チャート(chart = 特性図のこと)、ウェル(well = 優れていること)を足したもので、
「優れた特性をもつ」という意味である。
それだけに彼は、より優れたスピーカーユニットの開発にあけくれていた。
そしてLS5/8の原型となったPM450を完成させたわけだが、
このスピーカーシステムが日本に紹介されたのは、ステレオサウンド 49号で、だった。
49号は1978年の暮に出たステレオサウンドである。
もっともPM450が完成したのは1976年のことのようで、これをステビングはBBCに持ち込み認められたことで、
BBC技術研究所との共同開発をおこない、1年ほどの年月をかけてPM450を改良したことで、
正式なBBCモニターとして認められ、LS5/8のモデルナンバーを得ている。
そして日本に紹介されたその年、スイストーン(ロジャース)に買収されてしまう。
経営困難に陥ってしまったためである。
ステビングは、スピーカー・エンジニアとして優秀な男であったのだろうし、
満足すべきモノをつくりあげるまで製品化しない、としていたのだろう。
それは、ある一面素晴らしいことではあるものの、結果として会社をつぶしてしまう。