チューナー・デザイン考(その4)
FMはひとつの電波でステレオ放送を可能にするために、送信側で一旦ステレオの合成波にして送り出し、
その合成波を受信側(チューナーの内部)で、元の2チャンネルの信号に分離するわけだが、
そのために必要な信号としてパイロット信号が、ステレオ合成波には含まれている。
このパイロット信号は19kHz。この信号を目印にしてチューナーは左右の信号をまちがえることなく分離できる。
ただ19kHzは、いちおう可聴周波数に含まれている。
そのためチューナーの内部にはこの19kHzのパイロット信号を取り除くためのハイカットフィルターがある。
チューナーによってフィルターの次数、遮断周波数は異るものの、
どんなに高いチューナーでも16kHz以上はカットしている。
ローコストのチューナーであれば、15kHzもしくはもう少し下の周波数からカットしている。
チューナーからの音はだいたい15kHz以上はカットされている。
そういうものであるから、お金をかけるなんてもったいない、という意見もある。
確かに市販されているレコードの放送を聴くのであればそのとおりだが、
15kHz以上がカットされていても、生放送、つまりいちども録音されていない音が送られてくると、
その美しさに驚くことがある。単に周波数特性だけでは語れない音の美しさがあり、
それに魅了された人たちは、最高のチューナーを求め、多素子の専用アンテナを立て、最高の録音器を用意する。
私は、それを実現できなかった。
だからというわけではないが、チューナーへの関心は、
他のオーディオ機器──スピーカー、アンプ、プレーヤーなど──にくらべると薄かった。
マランツ10Bやセクエラの凄さはわかっていも、憧れの対象にはならなかった。
各社から発売されているチューナーにどういうモノがあるのは知っていても、細部まで知っていたわけではない。
カッコいいチューナであれば、性能的にも大きな不満がなければ、それで十分ぐらい、という捉え方をしていた。
それがいま(この1、2年のことだが)、チューナーのデザインへの関心が強くなっている。