素朴な音、素朴な組合せ(その16)
カラヤンは、1973年に「オテロ」を再録音している。
再録音に積極的だったカラヤンにしても、12年での再録音は早い。
しかも交響曲ではなく、演奏者の数も多く予算もそれだけ多くを必要とするオペラの再録音で、
12年というのは、最短記録かもしれない。
ほかのオペラでは、EMIに録音したモーツァルトの「フィガロの結婚」と「魔笛」はどちらも1950年。
「フィガロの結婚」はデッカで、「魔笛」はドイツ・グラモフォンで、
前者は28年、後者は30年後の再録音である。
いうまでもないことだが、EMI録音はモノーラルである。
なのに30年ものあいだ、再録音してこなかったのにくらべ、
「オテロ」は旧録音もステレオであるのに、再録音までは12年である。
1961年の「オテロ」は、デッカでの録音で、オーケストラはウィーン・フィル、
1973年の「オテロ」は、EMI録音で、オーケストラはベルリン・フィル。
デッカの「オテロ」に使われた録音器材は、すべて真空管だったはず。
EMIの「オテロ」に使われたのは、すべてか、ほとんどの器材はトランジスターに移り変っていたはず。
これは黒田先生が指摘されていることだが、カラヤンがこんなに早く「オテロ」を録り直したのは、
デッカの「オテロ」の出来に満足していなかったためではなかろうか。
カラヤンが満足していなかったと仮定して、何に満足できなかったのは、勝手に推測していくしかない。
まず考えられるのは、歌手がある。
デッカの「オテロ」では、オテロをマリオ・デル・モナコ、イヤーゴをアルド・プロッティが歌っている。
ドイツ・グラモフォン盤では、オテロはジョン・ヴィッカース、イヤーゴはピーター・グロソップになっている。
デッカの「オテロ」とほぼ同時期に出たセラフィン指揮でも、ヴィッカースはオテロを歌っている。
デル・モナコとヴィッカースは、声の明るさにおいて正反対なところがある。
デル・モナコの明るいテノール似対して、ヴィッカースの暗い声のテノール。
プロッティとグロソップも、やはり違う。プロッティは暗い声のバリトンで、グロソップは明るい声のバリトン。
ヴェルディは、オテロは暗い声のテノール、イヤーゴは暗い声のバリトン、という指示をしている、ときく。
つまりデッカの「オテロ」では、歌手の扱いに対して失敗といえるところがあったようにもいえる。
だからといって、このことだけが理由で、再録音までの期間が12年と短かったわけではないと思う。