瀬川冬樹氏のこと(その23)
中音域から低音にかけて、ふっくらと豊かで、これほど低音の量感というものを確かに聴かせてくれた音は、
今回これを除いてほかに一機種もなかった。していえばその低音はいくぶんしまり不足。
その上で豊かに鳴るのだから、乱暴に聴けば中〜高音域がめり込んでしまったように聴こえかねないが、
しかし明らかにそうでないことが、聴き続けるうちにはっきりしてくる。
※
ステレオサウンド 55号のプレーヤーの比較試聴記事で、
瀬川先生のEMT 930stについて、上のように書かれている。
SAEのパワーアンプMark 2500についても、低音の豊かさの良さを指摘されていた。
瀬川先生がお好きだった女性ヴォーカルの、アン・バートンとバルバラ。
ふたりとも細身で透明で、ちょっと神経質だけど、どこかしっとりと語りかけるような歌い方をする。
体形の話をすれば、ふたりともグラマラスではなく、ほっそりと柳腰という印象。
ほっそりのアン・バートンとバルバラ、低音の量感豊かな930stとMark 2500。
どちらも、瀬川先生は好まれていた。
EMTについては、たびたび「惚れ込んでいる」と書かれていた。
瀬川先生の出されていた音、求められていた音を考える上で、見逃せないことのように思う。