ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その40)
実はSL600は内部に手を加えて鳴らしていた。その他にもいくつか試したことがある。
そのひとつが、ウール100%の吸音材(ぎゅっと密度の高いものではなく、白くふわっとしたもの)を、
SL600に、かつらのようにかぶせたことがある。
SL600の天板、側面を、このウールの吸音材で囲うようにして、音を聴いてみると、
かぶせる前の音、そして音場感の差の大きさが、予想以上に大きく驚いたことがある。
これは自分のSL600でも試したし、ステレオサウンドの試聴室でも試してみた。
SL600のエンクロージュアは、一般的な材質である木ではなく、ハニカム素材を使っている。
軽くて剛性の高いハニカム素材は、スピーカーユニットからの振動、エンクロージュア内部の音圧による振動を、
エンクロージュアそのものにできるだけため込まず、つまりエネルギー蓄積効果の少なさによって、
スピーカーユニットからの音とエンクロージュアの共振とのあいだの時間差をできるだけ排除するものだった。
セレッションによれば、木製のエンクロージュアで剛性を高めるために板厚を厚くすればするほど、
エネルギー蓄積効果が高くなり、その分だけエンクロージュアから輻射される音の時間差が生じ、
音だけでなく音場感を乱していく、というふうに記憶している。
だから軽くて高剛性のハニカム素材を採用したのがSL600で、その後SL600Si、SL700が登場し、
低域拡充をはかったSystem6000、というふうに、セレッションとしても意欲的にとりくんでいたし、
それだけの自信もあったのだろう。
たしかにエネルギーの蓄積効果は少ない、とは思う。
でも、そのままではエンクロージュアの素材として理想的かというと、
そうでもないところが自分で使っていると、少しずつ耳が気づいてくる。